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Vol.25174 岐路に立つMR、その経験を活かす最適なキャリアとは

医療ガバナンス学会 (2025年9月17日 08:00)


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斧原邦仁

2025年9月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

製薬業界に構造変化の波が押し寄せ、MR(医薬情報担当者)を取り巻く環境はかつてないほどの厳しさを増している。MR認定センターが発表した「2025年版MR白書」は、その現実を浮き彫りにした。2025年3月末時点での国内MR総数は4万3646人と予測され、前年度比で3073人、実に6.6%もの大幅な減少となる見込みだ。この減少率は過去最大であり、製薬企業の営業体制の抜本的な見直しが加速していることを示唆している。

国内のMR数は2013年度の約6万5000人をピークに11年連続で減少し続けており、この10年間で2万1000人以上ものMRが医療の現場を去った計算になる。特に近年はその削減ペースが顕著であり、MR数が3万人台に突入するのも時間の問題と見られている。
この背景には、国内医薬品市場の成長鈍化、希少疾患領域へとシフトする製品ポートフォリオの変化、そして何より、インターネットの普及による医師の情報収集手段の多様化がある。もはやMRの訪問だけに頼らずとも最新の医薬情報を得られるようになった今、製薬企業側もMRを一定数削減しても売上に致命的な影響はないと判断し始めているのだ。多くのMRがキャリアの岐路に立たされている。しかし、悲観する必要はない。彼らが長年培ってきた豊富な経験、スキル、そして人脈を最大限に活かせる、まさに「天職」とも言えるキャリアが存在するからだ。

そのキャリアとは、地域医療の中核を担う個人病院や大型クリニックの「事務長」である。事務長は、単なる事務作業の責任者ではない。経営者の右腕として、人事、労務、経理、広報、そして集患戦略まで、医療機関の経営全般を統括する極めて重要なポジションだ。一見、畑違いに思えるかもしれないが、元MRが持つ能力と事務長の職務には、驚くほど高い親和性があるのだ。その理由は大きく4つ挙げられる。

第一に、卓越したコミュニケーション能力だ。MRは多忙な医師との面会時間を取り付け、信頼関係を構築するプロフェッショナルである。しかし、彼らのコミュニケーションは医師だけに留まらない。看護師や薬剤師、医療事務スタッフといった院内の様々な職種の人々と良好な関係を築き、円滑な情報提供を行ってきた。この経験は、事務長として院内スタッフをまとめ、一体感のあるチームを醸成し、患者対応を円滑に進める上で絶大な力となる。院内の風通しを良くし、スタッフのエンゲージメントを高めることは、医療の質の向上と患者満足度に直結する。

次に、彼らにはマーケティングの素養と実践力がある。クリニックが激しい競争環境の中で勝ち残り、地域住民から選ばれ続けるためには、感覚的な経営ではなく、市場調査に基づいた戦略的な集患対策が不可欠だ。MRは担当エリアの医療圏を徹底的に分析し、競合製品の動向を把握した上で、自社製品の普及戦略を立案・実行してきた。その経験は、高額なコンサルタントに依存せずとも、クリニックの強みを分析し、ターゲット患者層を明確化し、効果的なWebマーケティングや地域連携、広報活動を実践する上で直接的に役立つだろう。

そして、医薬品や医療機器に関する専門知識だ。薬剤や医療機器の調達と管理は、クリニック経営の根幹を揺るがす業務である。元MRであれば、その深い知識を活かして、納入業者との価格交渉を有利に進め、コストパフォーマンスに優れた製品を選定することが可能だ。
さらに特筆すべきは、近年の薬剤欠品問題への対応力である。現在、多くの医療機関が医薬品の供給不足に頭を悩ませているが、これは必ずしも市場から薬剤が完全に枯渇しているわけではないケースも多い。製薬会社や卸との長年にわたる信頼関係、すなわち「昔の人脈」を持つ元MRであれば、独自のルートを駆使して情報を収集し、通常のルートでは入手困難な薬剤を調達できる可能性がある。この調達能力は、医療の質を維持し、クリニック経営を安定させる上で計り知れない価値を持つ。

最後に、医療環境全体への深い理解だ。MRは自院の担当だけでなく、担当エリア全体の医療連携の状況や、有力なクリニック、基幹病院の動向を熟知している。このマクロな視点は、自院のポジショニングを客観的に評価し、「病診連携」や「診診連携」といった地域内での協力体制を構築したり、競合にはない独自の価値を打ち出したりする上で、強力な武器となる。

唯一の懸念は、MR時代に比べて給与水準が下がることだろう。しかし、医療機関の経営そのものに深く関与し、自らの手でクリニックを成長させ、地域医療に直接的に貢献するという大きなやりがいは、金銭には代えがたい魅力と言える。MRとして培った知見と人間力は、製薬企業の枠を飛び出し、医療の最前線を支える新たな舞台でこそ、その真価を最大限に発揮するのではないだろうか。キャリアの転換期を迎えている皆様、その価値ある経験を地域医療のために活かす道を、ぜひ一度ご検討いただきたい。

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