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Vol.133 医学生が見た相馬・南相馬

医療ガバナンス学会 (2011年4月19日 06:00)


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東北大学医学部医学科5年
一條貞満
2011年4月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


私は東北大学に通う医学生である。被災して以来、4月25日に授業が始まるまで、関東で生活する予定だ。4月5日から地震医療ネットの事務局を手伝っている。

4月7日から10日まで、森甚一医師(都立駒込病院)と一緒に、相馬市のベテランズサークルという老健施設に泊まり込んだ。そして、12日から14日ま では東大医科研の坪倉正治医師、星槎グループとともに、相馬市、南相馬市で活動した。余談だが、私の亡父は相馬出身だ。私にとって親しみがある土地だ。

先日、墨東病院の岩本修一医師が、ベテランズサークルを訪問した状況が報告されていた。岩本医師の滞在中は、施設の担当医が休みなく働いているときであ り、厳しい状況が続いていたようだ。私たちが訪れた時は、そのころとは打って変わって、全く平常だった。食糧は豊富、ボランティアも充実。施設としては何 も問題がなかった。

私は学生であり、なにも専門性がない。しかし、白衣をもらったため、専ら医者のフリをしながら、おばあちゃんたちと世間話をした。職員さん曰く、「何も しなくても、先生が来ただけで老人なんて治っちまうんだから」。それを聞いた通りに実行した。しばらく一人のおばあちゃんと喋って、軽く別れを告げて他の 人の所に行こうとすると、深々と頭を下げ、感謝の意を伝えられた。靴下やら折り紙やらバスタオルやら、たくさんお土産を持たされ、帰って来た。不思議な感 覚だった。

相馬市の総合病院にも伺ったが、こちらも安定していた。地震発生当初、スタッフが避難してしまい、かなり忙しかったらしい。それでも「残った人でなんと か踏ん張り、今に至れた」「残った人々の結束は強くなり、自分の仕事が何なのか再確認する、いい時間だった」と看護部長は話していた。なにもしていない人 が、今回の地震を「いい時間」なんて言ったら不謹慎すぎるが、投げ出して逃げた同僚がいる中で、患者を守り続けた彼女たちを尊敬した。「4日もお風呂に入 らないと、なんだかお肌、カサカサを通り越して、油でつやつやしてきたのよね」。腹が据わった人だ。

今回、相馬市長の立谷清秀市長とは二回お会いした。迫力のある人だった。震災からの相馬市の復興は、彼の力なくしては語れない。地震直後から津波がくる までの間、消防団と無線で連絡し、被災者を少なくしようと尽力した。津波の後、日が沈むまで、被災者の救護を急いだ。彼の頭に相馬市の地形が入っていたの は大きい。そして、被災地域から考えられる死者数の10分の1に抑えた。それでも、死者は出ており、最後まで前線にいて命を落とした消防隊の事を悔いてお り、「俺の肩にはあいつらの霊がいてな、このばか市長って言ってるよ」と涙を浮かべて話した。あれから市長は、消防隊の法被を必ず着ている。

相馬市長は、自分ではワンマンと言っていた。悪い言い方を選べばそうなるのだろうが、最高のリーダーだった。被災直後から、これからの仕事を夜通し書き 出し、指示を下した。翌日の朝ごはんまで手配した。国からの物資を待たず、医療物資・水食糧を自分の知人からかき集め、ライフライン・避難所・仮設住宅の 建設を急いだ。

相馬市の学校給食は今週月曜からだが、給食センターが開くのは4月25日からだった。給食が用意できない状況だったが、ローソンが計10,500食分の 弁当を引き受けてくれた。ローソンが当初提供するつもりだったのは3,000食だったが、快く引き受けてくれたらしい。こうやってすぐ動いてくれる団体が 被災地には必要だ。みなさん、あとでローソンに行きましょう。

相馬市では沿岸部を案内してもらい、津波のむごさを見た。「急場が終わった相馬、南相馬では今、医療が問題なのだと市長はおっしゃっていた。しかし、雇 用問題は同じくらい重い問題だ。市長の考えでは、医療教育が中長期的問題で、今解決すべき問題。職業問題は長期的問題で、医療教育面が落ち着いたら本格的 に取り組むのだろう。

相馬では多くの人が職を失った。風評被害も手伝って、福島から市民が流出している。人がいなくなったため、旅館やレストランも閉業している。相馬の名産 品も、もう作れない。失業者はさらに増えるだろう。先日、風評被害を受けた福島の農業従事者が自殺した。雇用問題を解決しないと、このような被害者は増え かねない。

4月15日、長野県の阿部守一知事が「逗留村」構想をしているという記事を見た。「こういうのが欲しかった!」と思った。知事の構想では、被災者に、公 共の保養施設や民間の宿泊施設に無料で入ってもらうだけでなく、農作業、事務などへの就労支援、産業団地や空き工場の情報提供、助成金制度の紹介をしてい くというものだ。

この逗留村付近に定住してもいいだろうし、被災地が回復したら地元に戻ってもいい。いずれにせよ、次のステップへの一時退避先として有効活用したい。知 人の家にお世話になっている人も、いつまでもいれるわけではない。気を遣うのは当然だ。東京新聞の調べでは、5人に1人が、すでに避難生活に限界を感じて いる。長期的展望の見える方策が望まれる。

最近、一番考えるのは「行動が遅い」という事についてだ。宇多田ヒカルが、日本赤十字に募金した8,000万円の行方を心配していた。一部の識者は「募 金なんて、適当に分配すればいい」という。本当にそう思う。平等に配ろうとした結果、募金が貯金になっている。「多少雑でいいから、誰か早く決めてくださ い」と言いたい。

日本赤十字の偉い人が、ここにいくら、あっちにいくら、といった形でぼんぼんと置いていけばいいと思う。「お金なくなっちゃいました!石巻にお金渡した いので、募金再募集!」と言い出したら、確実に文句が来る。だが、それが責任を取るという事なのだと思う。このとき、今よりたくさんの人が助かっているだ ろう。文句の出ない結論を出そうとすると、会議ばかりできて、何も進まない。困るのは被災者である。

私の行った老健施設は物資が余っていた。しかし、これは悪い事ではない。問題なのは、物資が足りない所があることで、物資が余っている所がある事ではない。募金も同じだ。

やっていいのかな、どうなのかな、と考え始めると、別の問題が出て来て、どんどん趣旨から遠ざかっていく。「お金必要?」、「はい!」。「幹細胞取って おく?」、「はい!」といった風にやると、きっと反論は出てくる。しかし、被災者は今も困っているし、作業員は今も被曝している。平等を重視しすぎると時 間を浪費する。いま、一番貴重なのは時間だ。

目的からダイレクトに実行に移れる人物が必要だ。責任を取る覚悟でいて、最善な判断をすぐ行動にする人。「明日の朝ご飯がない、○○食分、弁当屋叩き起こして作らせて」。相馬市長が私の目には、そのような人物に映った。

最後に、福島について書いておきたい。風評被害が続き、どこかの小学校では、福島から来た転校生が、放射線が出ると言われ、いじめが起こったらしい。こ れは小学生の話だが、ブランドがモノ以上の価値を持つように、イメージは事実より重い事が多々ある。福島の沿岸部の復興には時間がかかるだろうが、そもそ も人が集まってくれるだろうか。人口は繁栄に直結することを考えると、福島はもう衰退する一方なのか。

また、原発がいつ収束するのか分からないが、今の状態が一年続いたとして、福島在住の人は、一年後も不安を抱えたままだろう。親は「子供は感受性が高い」と聞いて、子を移動させるのだろう。子供はどんどん少なくなる。

こういうのを地元愛と呼ぶのだろうが、やはり地元でお酒を飲むのは楽しい。英語で地元はhometownだが、帰る家があるのは幸せなものだ。なにか、 福島の明るい未来のために提案したいが、思いつかず、今は原発が収まる事を待つのみである。作業者の皆さん、頑張ってください。そして、皆さん、応援して ください。

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