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Vol.135 石巻ローラー作戦についての報告:主観的な評価も交えて

医療ガバナンス学会 (2011年4月19日 22:00)


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亀田総合病院 地域医療支援部
小野沢 滋
2011年4月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


被災後1ヶ月を経過した石巻で、壊滅地区以外では最も被害のひどかった地区の元世帯数11,271世帯について全戸調査を行いました。各地からのボラン ティアの医師、看護師、ケアマネージャー、ソーシャルワーカーなど延300名程度の参加を得て、4月15、16、17日の3日間にかけて行ないました。

対象住宅に寝泊まりしている人を調べ、1,409世帯が対象地区の住宅に居住していることがわかりました。要介護者や弱者がどの程度この地区に居るの か、という事が当初の関心事でした。たしかに、終末期の悪性腫瘍の方や、インスリンが中断している方、認知症の増悪が見られる方など少なからず対応が必要 な方はいらっしゃいましたが、緊急で対応が必要な方は20名、準緊急(1週間以内)が84名、1ヶ月以内にかかわりが必要だろうという方は170名、合計 274名の方に対して何らかの対応が必要と考えられました。20名の方の対応は全て終了し、地域の訪問診療に繋いだ方が2名でそれ以外の方は、処方再開の 手続きや、臨時診療所の紹介、包括支援センターへのつなぎなどで大丈夫な方達でした。褥瘡悪化は一例も見つかりませんでした。

これらの数は、予想に比べ非常に少ないものでした。調査対象があまりにも被害が大きい地域であったというのが、その理由だと考えられます。また、避難所 に避難しなかった地域にはもっと要介護者が居るものと推測されます。しかし、それらの地域に関しては包括支援センターや介護支援事業所が残存しており、震 災による増悪は有るであろうと予想されるものの、すでにサービスが導入されている可能性が極めて高いと考えられます。それらの地区についての調査は、今後 の課題として残りますが、緊急性については余り無いかもしれません。

いずれにせよ、石巻地区の避難所や在宅には要介護者や褥瘡の悪化した患者が非常に少ないという印象を受けます。気仙沼市で訪問診療の仕組を作った永井医 師と電話で話す機会がありましたが、毎日、褥瘡の創処置に追われ、訪問が数件しかできないとの事でした。これは明らかに石巻の状況と異なっています。この 点は石巻市介護保険課の保健師の動きと関係がありそうです。

石巻市では保健師が中心となり、被災後1週間頃から各避難所から要介護者についての相談があると、とにかく周辺の施設に入所をお願いし、褥瘡などがある 場合には、その施設や病院に出向いて、石巻日赤に運んだり、という活動を地道に行い、150名程度の患者を施設や病院に一時的に入所、入院させていたので す。おそらくこの事が、気仙沼で起きた褥瘡の多発を防いだものと予想されいます。

このように保健師の活動が有効であったという傍証が得られた一方で、今回の調査は石巻地区に残る多くの問題点も浮き彫りにしました。今回の調査で問題だと感じた点を如何に列挙します。

1)栄養摂取
車のない多くの家庭でパンとおにぎりだけの生活が今も続いています。自宅避難者には配給がないため、避難所にいって期限切れの菓子パンとおにぎりをもら い、ほそぼそ食べている人が数多くいましたが、彼らの多くは食事は満足だというのです。これは、ただで貰って申し訳ない、という意味で満足なだけで、医師 の立場からすると明らかにバランスの極めて悪い食事です。

2)自宅避難
自宅避難者の中には、ほぼ壊滅した中にたつ一軒家で一回部分が一部の壁と柱2本で立っている家の2階に住んでいる人や、傾きかけた3階建ての2階部分に 住んでいる人、水道、水、電気、下水のない集団住宅に住んでいる人などいずれも、次回津波が来たら確実に被害を受けるであろう地区の中の余震でも崩れかね ない自宅や、衛生的に極めて危うい場所に済んでいる方が1,409世帯も居ること自体が大きな問題だと感じます。中越沖地震の時には行政が立ち入り禁止住 居を決めていたと記憶しています。今日、この地域の医療統括者の石井先生が市に確認したところ、そういった立ち入り禁止については被災後2週間目までに定 めなければならず、石巻市は混乱の中、2週間以内に定めることができなかったので、もう立ち入り禁止にはできない、という回答を得たとのことでした。も し、余震でそういった住宅が崩れたら、もし、余震でその住宅に援助に行っていた訪問看護師や、訪問中の医師が巻き添えになってなくなったら、誰が責任を とってくれるのでしょう。

3)小中学校の再開
4月下旬から、小中学校が再開される予定です。しかもほとんどの校舎は同じ場所でです。これまでは、避難所に居る人達をどうするか、という問題に意識が 向いていましたが、自分で現地に赴き、現場を見て、また、ある調査班から公営住宅に子供たちが大量に帰ってきているということを聞くに及んで、これはマズ イと思いました。渡波小学校というのは防砂林の直近に建つ小学校で、ほぼ海辺と言ってもいい場所にあります。周辺の住宅は完全に壊滅し、残っていないよう な地区です。なんと、この小学校が開校する予定だということで、4階建ての公営住宅に住む人達が子供を連れて戻ってきてしまったのです。電気も、水も、下 水もなく、前の道路は夕方には冠水し、破傷風が出ている瓦礫だらけ、自動車が逆さのまま放置されている中で子供は自転車で走り回っていたというのです。
今後、最大余震が予想され、また、再度の津波の襲来も予想されているこの時期になぜ、被災地の真ん中の小学校を開校するのでしょう。市は、避難所からの スクールバスはもともとスクールバスがあった地区以外は出さないということで、親たちは学校にあわせ、否応なく戻れる住宅に戻ってしまっているのです。し かも、きちんとした評価も住んでいない住宅に。いつ最大余震が起き、いつ再び津波が襲ってくるかもしれない今の時期に、冠水してしまうような通学路を子供 たちが歩いて通うことだけは何としても防ぎたい。これが私の今の最大の関心事です。

●まとめ
今回の調査で、被害甚大な地区には今のところ、高い介護ニーズはないことが判明しました。また、保健師たちの初動がかなり適切であった可能性が高いこと も分かってきました。混乱の中、150名の要介護者の域外避難をコーディネートした彼女らに敬意を感じずにはいられません。
一度域外避難した方達が先方の病院から退院を迫られているという話をローラー作戦のスタッフが何人もの家族から相談を受けています。今後は保健師さん達と共に帰宅時のコーディネートの仕組を作る必要がります。

一方で衛生面、住宅面、危機対応では非常に危うい状況に今も石巻が有ることは変わりありません。信じられないようなことが、いろいろな縦割りの中で生じています。緊急時には平時の仕組と全く異なる仕組、ローマの独裁官のような仕組がぜひとも必要だと強く感じています。

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