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Vol.25213 すぐそこにある死に挑む重度医療ケア

医療ガバナンス学会 (2025年11月7日 08:00)


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この原稿は医療タイムスOne Voice One Action ( 2026年10月15日)からの転載です。

⾹港中⽂⼤学医学部
⽣物医学科4年
櫻⽥ 杏奈

2025年11月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

患者と直接会うインターンは貴重な体験に

私は⼤学で3年間、基礎医学を学び、医療ガバナンス研究所でのインターンで臨床医学に触れた。インターンは患者と直接会うことができ、彼らの苦労や懸念を知ることができた貴重な経験だった。
9⽉初旬、福井県にある重度医療ケア児のためのケア施設、オレンジキッズケアラボを訪問した。そのときの光景は、今でも鮮明に覚えている。
痩せ細った⼿⾜で、重度のまひを患っている⼦どもたちを⾒るのは、胸が痛んだ。 多くが⼈⼯呼吸器と胃ろうをつけていた。そして、⼀⾒明らかな症状がなくても、病名を聞いたときは沈黙した。 彼らの余命が限られていると知って、胸が張りさけそうだった。

諸刃の剣となる⾮侵襲的出⽣前検査

その施設への訪問は、⼀連の出来事の集⼤成だった。私は最初、医療ガバナンス研究所理事⻑である医師・上昌広⽒に、遺伝性疾患について調べるというアイデアを提案した。
私の⼤学の医学部の教授である盧煜明⽒が、⾮侵襲的出⽣前検査の開発者だったからだ。これは、18トリソミー、13トリソミー、21トリソミーを含む染⾊体異常のスクリーニングを可能にする画期的な技術だ。
⼤学に在学中、この技術の正の側⾯が強調されたが、上⽒は「これは諸刃の剣だ」と⾔った。「これは中絶を助ける技術であり、命を天秤にかけることにつながる」と。
彼は、問題の本質を知るには、現場を訪れなければいけないと指摘した。なぜなら、患者とその家族の苦労や懸念は、現場を⾒ることでしか理解できないからだ。
上⽒は、東京⼤学医学部の後輩である医師・⼩坂真琴⽒に連絡を取ってくれた。 ⼩坂⽒は、私がオレンジキッズケアラボを運営している紅⾕浩之⽒に⾯会できるよう、取り計らってくれた。こうして 私は施設に2⽇間滞在し、患者とスタッフを⾒守った。

「後悔は感じないようにしたい」

訪問から学んだ最も⼤事な教訓は、患者への献⾝が最優先であるということだ。 紅⾕⽒とスタッフは、現代医学の限界に挑戦していた。
理事の⼾泉めぐみ⽒によると、多くの医師は悲観的な予後を告げる。しかし、どの⼦どもも困難を乗り越えてきた。 施設の⼦どもたちは誰も1歳の誕⽣⽇を迎える前に他界することはない。
丁寧に⾒ていると、その理由が分かった。 スタッフは情熱的で、1⼈ひとりの⼦どもたちと深い絆を築いていた。 彼らはそれぞれの⼦どものニーズに敏感で、彼らの性格を熟知していた

ある⾚ちゃんは、⼀緒にピアノを弾いてくれる保⺟に深く懐いていた。看護師はストレッチャーチェアに乗った少⼥の⼿のひらに⽔を注ぎ、安らぎを与えていた。まるでわが⼦であるように、彼らは⼼からの愛情を注いでいた。
そして⼦どもたちの世話ができる毎⽇を⼤切にしていた。「これがこの⼦と過ごす最後の⽇かもしれない」からだ。 常に⼦どもたちに最⼤限の注意を払って接し、たとえ⼦どもに寿命が来ても、「後悔は感じないようにしたい」という。

不治の病に抗う治療法の解明に

私は彼らの現代医学の限界に挑戦する試みに、深く感動した。彼らは思いやりのあるケアで限界に挑戦しているが、私は不治の病の病態と治療法を解明することで限界に挑戦したい。
私は免疫学、特に⾃⼰免疫疾患に強い関⼼がある。現在、⾃⼰免疫疾患は治癒不可能で、多くの患者が⽣涯にわたる病気に苦しんでいる。⼤学院に進学するに当たり、免疫学をより深く学び、将来は研究に貢献できるようになりたいと思う。
このような試みは、直接現場の患者と触れ合うものではない。しかし、多くの患者の予後を改善できる。たとえ研究の道を進むとしても、いつも患者への献⾝が最重要だと胸に刻みたい。

 

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