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Vol.142 この夏も例年通り、福島の仲間と過ごしたい。

医療ガバナンス学会 (2011年4月22日 14:00)


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ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)患者会
天野 美知子
2011年4月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


私は、ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)という希少疾患の患者会を運営しております。私達の患者会では、8月に患者会の開催を考えており、その案内を福島県在住の患者さんへもお届けしましたところ、保護者の方から、悲痛な声が届きました。

このご家族は患者会へ出席をしたいという強い希望を持ちながら、その反面、出席を躊躇されています。その理由は、先日、千葉県船橋市の公園で起きた福島県 から避難してきたお子さんへの謂われなき差別が原因です。このご家族の不安や周囲の方への配慮といった複雑なお気持ちは下記の2点です。

1.船橋市と同じようなことが患者会開催時に起き、ご自分のお子さんが精神的に傷つくのではないかという不安。
2.福島から自分たちが参加することで、他の参加者が不安を感じるのではないか、という心遣い。

今回の地震を端緒とした原発の問題が発生しなかったとしても、小児期から慢性疾患を抱えているだけ患者さんとそのご家族は、多くの不安を抱えています。 LCHのような希少疾患”orphan  disease”と言われる病気は、各地域、とくに地方で得られる情報は限られています。そのため、1年に1回の患者会に参加することが、ふだんは孤立し がちなご家族の心を支える数少ない手段となっており、長い道のりをお越しくださる方も少なくありません。
震災発生以来、「あなたはひとりではない。」「絆」という言葉をよく見聞きしますが、病気も同じです。LCHは20万人に1人の発症と言われており、患者 会に初めて参加した方の多くが、「初めてこんなにたくさん同じ病気の方がいることを知り、病気と向き合う力を頂きました。」と感想を述べてくださいます。 このご家族のように、少しでも自分の子どものために病気の情報を得ようと、遠方での患者会に参加をしたいというお気持ちを患者会運営者が真摯に受け止め、 放射能にまつわる風評被害を解決した上で、患者会の開催をしたいと考えております。そして、すべての患者会参加者に安心して患者会に参加していただきたい のです。

今回の類を見ない災害を目の当たりにし、慢性疾患を抱えている患者さんやそのご家族の多くが、災害時の対処方法に関して、下記のような不安を抱えています。

1.災害時の薬の確保
2.衛生環境が担保されない中での病気悪化への不安
3.非常時に主治医以外の医療者へ病気説明が迅速かつ正確にできるかという心配

このような不安払しょくのためも、この夏にはぜひ災害時の対応を話し合うための場を設けたいと企画をはじめています。これは我々LCHの患者会だけでなく、他の疾患でも同様の取り組みがあると聞いています。
しかしながら、福島県民の皆さまへの謂われなき差別をまず解決しなければ、福島からいらっしゃるご家族が他地域で開催される患者会に安心して出席できない状況は改善されません。

本来、患者会というのは、同じ病気の患者同士が体験を分かち合うことで、対峙している病気への不安感を和らげ、ひとときでも安心感を共有することが目的で すが、このままでは安心感を得るはずの患者会が困惑と混乱の素になりかねません。私は冒頭の悲痛な思いを訴えて来られた患者さん、患者さんの保護者、そし て他のLCHの会のメンバーが、昨年までと変わらない心で、再会できるためにあらゆる努力をしたいと考えています。しかしながら、風評被害や放射能という とても専門的な分野に私になにができるのか。素人の私には思いつかず困っています。
8月までの限られた日数の中でどのような工夫やどのような働きかけをしていけばよいのでしょうか。放射能にはまったく知識のない主婦、そして患者会を運営する私ができることは何があるのでしょうか。

核医学、放射線が専門の先生方、そして、報道関係の皆さまにお願いです。
今のようなデータも公表されず、いろいろな噂が多い中では、患者会運営者である一患者家族、素人が「福島県からいらっしゃる方を温かく受け入れてくださ い」と訴えても説得力に欠けます。この放射能についての謂われなき差別の解決に、皆さまのチカラをお貸しいただけませんでしょうか。希少疾患の仲間が安心 して再び絆を強くできるためにも、夏の出会いの会を開催することに手を差し伸べていただけませんでしょうか。

最後にこのご家族から寄せられた声を以下に記します。医療面のことばかりではありませんが、ご一読いただき、皆様のお力をお貸し頂きますよう、切にお願い申し上げます。

『福島県では、いまだに余震も連日のように続き、夜眠れないと訴える子供が多くいます。保護者は長引く不安と疲れにもかかわらず、子どもたちのために心を 砕いています。たとえ、現段階で放射能被害による避難対象の地域でなくても、放射能の値が通常よりも高い地域もあります。今後、避難対象地域になるのでは ないのか、それにより、仕事が継続できなくなるのではないかといった際限のない不安を多くの人が抱えています。

原発事故の余波を受け、「フクシマ」というだけで、一時は物流が停止してしまい、ガソリンや日常生活用品の確保にも、苦慮しました。今は物流に関しては、少しずつ改善されつつありますが、いまだに多くの不自由さと将来への心配を残したまま、毎日を過ごしています。

最近では、避難地域ではなくてもヨウ素の値が通常以上に高い値を示している地域の住民の中には、自分たちの育てた野菜を食卓に載せ始めている家族もあると 聞いています。これは、もともと福島県は海、山からの幸が豊富で、地産地消が可能な土地柄だったにもかかわらず、長期化する放射能との闘いにより、他県か らの農水産物に頼らざるを得ず、物価が急上昇し、すべてのものを今までよりも高い値段で購入することを強いられ、家計が脅かされ始めたからです。
もちろん、そのような方々もヨウ素の混入した食品を食べることに不安があるのは当然ですが、何も食べなければ人は死んでしまいます。このような行為に関し て、長期的に見て、本当はどうなのかを判断することは難しいことですが、避難対象地域に該当しなければ、何の補償や支援も受けられません。出口の見えない 放射能という闘いと政府、そして東京電力からも明確な説明のないまま、精神的・経済的・身体的苦境に追い込まれています。

私達の住む地域は地震の被害は少なかったのですが、それでも、学校が被災し、使用できなくなり、体育館での授業を余儀なくされています。もちろん、その状 況でも、避難児童の受け入れもしています。しかし、いろいろな問題から、遠くの学校に分散するという案が、地域、保護者にも何の連絡もないまま新聞紙上に 突然発表され、大きな混乱が生じました。

地震や津波、放射能等いくつもの直接の被害がない地域であっても福島県のいくつもの地域で同じような困難に直面しています。子どもを守るため、自分たちの 生活を死守するたに多くの保護者が、仕事の傍ら、余震と放射能の恐怖と闘いながら、東奔西走する毎日を過ごしていることをお伝えさせていただきます。』

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