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Vol.25220 現場シンポ活動記:『共苦共楽』体験と、目の前の人の『事実』に学ぶこと

医療ガバナンス学会 (2025年11月19日 08:00)


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神戸大学医学部医学科6年
岡翼佐

2025年11月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

今回、上昌広先生が理事長を務める医療ガバナンス研究所インターンとして、『第20回 現場からの医療改革推進協議会シンポジウム』に参加させていただいた。研究所に伺ってからシンポジウム終了までに、私自身が「現場」で見て、聞いて、感じた「事実」をここに記したい。

■強烈な出会いと洗礼

現場シンポの2日前、私は初めて研究所を訪れ、初めて上先生にお会いした。第一印象は、とにかく『強烈』だった。灘高卒や東大理Ⅲといった経歴の話では全くなく、お会いして数分のうちに、こちらの想定とはまるで違う角度から話が飛んできた。

「君の出自について説明してみて」

「君のいる神戸大学の歴史はどれくらい知っているか」

何ひとつ答えられず、後者については上先生に教えていただいた。そのスピードと視点に圧倒され、「世の中には、自分がこれまで一度も出会ったことのないレベルの人がいるのだ」と、洗礼を受けた。

その場で、学生スタッフとして現場シンポへの参加を勧められた。上先生のような「自分の生きてきた世界の外側にいる人たち」に多く出会えるのだと、自然と胸が高鳴った。さっそく翌日も朝から研究所に出向き、研究所のスタッフさんたちや他の学生スタッフとともに、夜23時までシンポ準備に奔走した。

当日の早朝、少しの緊張と大きな期待を抱え、宿泊していたホテルから田町の建築会館までLUUPを走らせた。東京の朝は神戸よりも冷え込んでいた。途中、幼稚園の入園式らしき家族連れが歩いており、子どもも親も笑顔で、なんともほほえましい光景だった。その姿を見て、「自分も今日、自分にできることをやり切ろう」と気持ちが引き締まった。

■『共苦共楽』体験

学生スタッフとしての私の役割は、瀧田盛仁先生のサポートだった。瀧田先生は、ナビタスクリニック立川院長だが、シンポジウムでは「メカニックドクター」とも言える存在だ。すべての発表が滞りなく進むよう、裏方の要として、PC・映像・音響の管理を一手に担っていた。そんな瀧田先生のサポート役に、なぜ機械に強くない私が任命されたのかはいまだに分からない。ただ、任された以上は迷惑をかけるわけにはいかないと、自分なりに必死に動いた。

私は主に、各登壇者のスライドを選び場内スクリーンにつなぐ業務、セッション間の案内動画やビデオメッセージを映す業務などを担当した。登壇者のPCがHDMIに反応しなかったり、音声が出なかったり、スライドの比率が崩れたり、舞台裏では常に小さなトラブルが起きていた。それらを瀧田先生が一つずつ即座に解決し、その横で私は必要なケーブルを探したり、登壇者の代わりにスライドを進めたりと、とにかく必死で手を動かし続けた。

どの配線がどこにどうつながっているかなど、機械に関わることは結局最後まで1ミリも分からなかったが、瀧田先生の動きを見ているうちに「流れ」だけはつかめてきた。「次はこう動かれるだろう」と予測し、先回りして準備しておくことで、少しでも瀧田先生の負担を減らそうと努めた。その甲斐あって、我ながら2日目は1日目よりうまく動けていたと思う。

実は、同じく瀧田先生のサポート役を任されていた東京大学法学部2年の吉田千晴さんも、機械に全く詳しくなかった。そのため当初は2人で、「これ大丈夫なのだろうか(笑)」と顔を見合わせていた。それでも協力しあって、なんとか2日間のミッションをクリアすることができた。

「『共苦共楽』体験で人は仲良くなる」とは、元厚労副大臣で、上先生とともに現場シンポの発起人・事務局を兼務されている鈴木寛先生の言葉だ。まさにその言葉の通り、シンポ直前〜当日の悪戦苦闘を通じて、研究所の方々や準備に関わった方たちと一気に心が近づいたと感じている。

■未知との遭遇

ありがたいことに、登壇者の方々ともお昼休みや懇親会、打ち上げの場でお話しさせていただく機会があった。期待通り『強烈』な方ばかりだったが、その中でも特に印象深かったのが、大阪大学大学院工学研究科電気電子情報通信工学専攻の森勇介教授だった。シンポジウム中の自虐を含んだ講演もとても面白かったが、打ち上げでご一緒させていただいた際の「カウンセリング」の話が衝撃的だった。

私は医学部の実習で精神科も経験し、カウンセリングは「心の病気の人が受けるもの」というイメージを持っていた。しかし森先生は「カウンセリングっていうのはマイナスをゼロにするものじゃないんですよ。ゼロやプラスをさらにプラスにするのが本来のカウンセリングなんですよ」とおっしゃった。初耳で本当に驚いた。

森先生はご自身について、幼少期から非常に厳格に躾けられ、自己肯定感が極めて低い状態だったと述懐された。しかしたった一度のカウンセリングで自己肯定感がプラスに転じたのだという。以降、カウンセリングだけでなく仏教修行なども経験されてきたそうだ。打ち上げの場でも「目指すべきは即身成仏ですよ」とおっしゃっていて、初めは「本当に科学者なのか(笑)」と思ったが、不思議と話に引き込まれた。

さらに隣にいた研究所スタッフの近藤優実さんも、なぜかその“スピリチュアル”話(森先生が自分でそうおっしゃっていたのであえてこう書く)にノリノリだった。聞けば近藤さんは、大学時代に医療ガバナンス研究所で活動し、現在は助産師として働きつつ足つぼマッサージも勉強中とのこと。ちなみに後日、近藤さんには足つぼを実際に体験させてもらった。単に気持ちいいだけでなく、「腎臓弱いね、もっと水飲んで」など、思わぬ診断までついてきて面白かった。

森先生と近藤さん主導の“スピ話”を聞いていると、私も次第に興味が湧いてきた。森先生からも「絶対一回カウンセリングを受けてみてくださいよ、ほんまに」と満面の笑みで誘っていただき、聞けば聞くほど「一度受けてみてもいいかもしれない」と思うようになっていた。

森先生は世界一の結晶育成技術を持ち、半導体から医療までイノベーションを生み出す達人だ。文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門、2007・2008年)や、新技術開発財団 市村学術賞 功績賞(2012年)など、多くの受賞歴を持つ、日本が誇る科学者である。その人物が実際、心理学的アプローチを研究室運営やイノベーション創出に取り入れ、研究活動の活性化を図っているという事実。

「科学と精神の融合」を目の当たりにし、自分にとっては完全に「未知との遭遇」で、強く記憶に残る経験だった。

■目の前の人の「事実」に学び、固有名詞で論じる

上先生には、「見るべき・聞くべきは抽象論ではなく、その人を形づくってきたファクトだよ。特に幼少期や青年期にどんな経験をしてきた人なのかが大事」とこの2週間で、繰り返しご指導いただいた。現場シンポはまさに、その言葉の意味を体得できる貴重な機会だった。

ネットに落ちている抽象的な、又聞きの知識ではなく、目の前の人の「事実」から学べることの価値の大きさ。森先生との会話もまさにその一例だったと思う。幼少期から青年期の経験に根ざす、先生ご自身の口からしか語られることのない事実。その圧倒的な説得力を体感した。

建前の論ではなく、ファクトに基づき固有名詞で議論することが、何より意味のあることであると学んだ。そこから何か自分の中に落とし込める要素がないか、フィードバックを貪欲に追求し、吸収していきたいと思う。

こうして、物事の見方や着眼点が大きく変わったことは、現場シンポに参加した最大の収穫のひとつであり、今後につながっていくと強く感じている。

改めまして、このような若輩者に貴重な機会をいただき、上先生をはじめすべての関係者の皆様に御礼申し上げます。誠にありがとうございました。そして今後とも引き続きご指導のほど、何卒よろしくお願いいたします。

 

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