
医療ガバナンス学会 (2026年2月24日 08:00)
本稿は、2025年11月15日に医薬経済に掲載された記事を転載しました。
医療ガバナンス研究所理事・常磐病院医師
尾崎章彦
2026年2月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
その目的は、医療ガイドライン開発の国際的な協調と標準化の推進、科学的根拠に基づく医療の質と透明性の向上にある。
主な活動として、各国ガイドライン機関のネットワーク形成や、方法論・評価基準の調和化、ガイドライン登録・共有データベースの整備、さらに年次総会やワークショップを通じた知見の共有が挙げられる。こうした取り組みを通じて、国境を越えた協働の基盤を築き、医療の質向上と政策決定への国際的な貢献をめざしている。
筆者自身の主戦場はガイドライン作成ではないが、数年前から共同研究を続ける蘭州大学の陳教授らのチームは、まさにこの分野の最前線に立っている。今年の学会でも10演題以上を出すなど非常に活発だった。
陳教授のチームとは、私自身も、これまでに『Annals of Internal Medicine』や『eClinical Medicine』(ランセット系列誌)などで共同研究の成果を発表する機会に恵まれた。昨年は蘭州や重慶を訪問して陳教授らと議論する機会があったが、今年はそれが叶わず、代わりにGINへの参加を決めた。
初参加だったが、現在のガイドライン作成の潮流を概ね理解できたように思う。ひとつは「ミスインフォメーションへの対応」だ。『Annals of Internal Medicine 』に掲載されたワクチンと疾患リスクを巡る論文をめぐり、ケネディ・ジュニアらと論争になった事例を踏まえ、政治と科学の関係をどう再構築するかが議論されていた。
また、AI技術の急速な発展を受け、AIをいかにガイドライン作成に組み込むか、そして「ワンヘルス」の観点から、人間の健康だけでなく環境を含めた包括的な健康をどう扱うか、といったテーマも注目を集めていた。
利益相反の管理も依然として大きなトピックであり、いかに透明性を担保するかについて多くの発表があった。
学会中に行われた「ソーシャルラン」では、レマン湖畔を他の参加者と走りながら、多くの人々と親しくなることができた。ただ、街の空気にどこか排他的な印象も受けた。背景には、ジュネーブという都市の成り立ちがあるのかもしれない。16世紀の宗教改革によって自由都市としての基盤を築き、20世紀には国際連盟や国連欧州本部、赤十字本部などが集積したことで、政治・経済・人道の中心として世界的地位を確立した。
しかし、実際には物価は極めて高く、経済的に恵まれない人々が入り込む余地はほとんどない。学会参加費も高額で、非会員で早割適用外の場合、約31万円に達した。取り扱うテーマの公共性を考えれば、大学などでより低コストに開催するのが本来ではないか。
政府機関などからの参加が多いこともあり、「高くても問題にならない」という構造があるのだろう。製薬マネーの問題ばかりが注目されがちだが、公的資金のこうした使われ方にも、別の歪みを感じざるを得なかった。
なお、国連欧州本部前の広場には、スイス人芸術家ダニエル・ベルセによる彫刻『壊れた椅子』が立っている。4本の脚のうち1本が折れた巨大な椅子は、地雷やクラスター爆弾への反対を象徴している。その足元では、ガザ地区への攻撃に抗議して座り込む人々がいたが、道行く人々のほとんどは足を止めなかった。
華やかで秩序ある都市の表層の下に、見て見ぬふりをする冷たさがある。それは、科学と政治、そして医療の本来の目的と経済的側面との乖離という、現代の医療界が抱える矛盾とも重なって見えた。