
医療ガバナンス学会 (2026年2月27日 08:00)
tansa
編集長/渡辺周
記者/中川七海
2026年2月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
2017年早々、元大阪地検特捜部長の「ヤメ検」弁護士たちをズラリと揃えたのだ。大阪府警で暴力団捜査を担っていた元警察官2人も雇い入れた。
しかし、生コン産業の経営側と労組は、常に対決してきたわけではない。むしろ、手を携えてきた歴史がある。そうでないと生き残れないからだ。
セメントメーカー、ゼネコンの姑息
最初の東京五輪が開かれた1964年、日本が高度経済成長に沸く中で、一人の経営者が電車に身を投げて自死する。大阪のセメント輸送会社の社長だ。
その社長はセメントメーカーから、契約更新と引き換えに労組を潰すよう指示された。「せめて日曜日は休ませてほしい」と労働組合が要求したことがきっかけだった。当時の生コン業界のドライバーは残業が月200時間超え。家にはろくに帰れず、弁当も信号待ちの間にかき込むという状況だった。
労組を潰すため、社長は9人に解雇通告。警察幹部や暴力団員も使って圧力をかけた。警察は社屋にビラを貼っただけで7人を逮捕した。
だが大阪府地方労働委員会は、会社側の行為を違法だと認めた。従業員たちの損害金として1300万円を支払うことや、解雇を撤回することになった。
社長は遺書にこう綴った。
「セメントメーカーの言いなりになって、このようなことになった事は残念で、残念でたまらない」
生コン会社は、原材料の仕入れ先のセメントメーカー、販売先のゼネコンに比べれば圧倒的に小さい。例えば住友大阪セメントの従業員は約3000人、大成建設は約1万6000人。これに対して、生コン会社は50人以下の小さな会社ばかりだ。格下に見られ、辛酸を舐めてきた。
関西のある生コン会社の経営者は、かつてはゼネコンから「汚れ仕事」をさせられる慣行が業界にはあったと言う。
「工事現場に地元のヤクザが来て、ウロウロしながら現場の写真を撮って『なんぼくれんねん』と言ってくる。工事を妨害しながら、毎日3回も4回も電話してくる。ゼネコンさんは『なんとかしてくれよ』と。ほんなら生コン会社側が裏金を上手に捻出して、ヤクザに渡して事を収める」
この人物とは別の生コン会社の経営者によると、暴力団対策法が1992年に施行されるまでは、ゼネコン自身が暴力団に支払う「地域対策費」を捻出していた。
ゼネコンが金を捻出するなら、生コン会社は損をしないかというと、そんなことはない。ゼネコンは生コンを、帳簿よりも、1立方メートルあたり300円ほど安く購入。その分を暴力団に払う金に回していたという。生コン会社が、裏でゼネコンに買い叩かれていたのだ。
我が世の春
セメントメーカーとゼネコンに対抗するにはどうしたらいいか。
労使がそれぞれまとまる。その上で労使が協力する。「大同団結」が生コン産業の取ってきた戦略だ。近年になって、それが功を奏す。
2015年、まず経営側がまとまった。大阪広域協に、阪神地区生コン協同組合と大阪レディーミクストコンクリート協同組合が合流。大阪広域協は、生コン会社の加入率がほぼ100%に達した。
2016年には、6労組が「関西生コン関連労働組合連合会」を結成する。以下のメンバーだ。
関生支部
連合・交通労連関西地方総支部
生コン産業労働組合(生コン産労)
全日本港湾労働組合関西地方大阪支部(全港湾大阪支部)
近畿コンクリート圧送労働組合(近圧労)
全日本建設交運一般労働組合関西支部(建交労)
UAゼンセン関西セメント関連産業労働組合(UAゼンセン)
大同団結で大企業に対峙した結果、関西の生コン産業は潤う。2014年に1立方メートル8000円にまで落ち込んでいた生コン価格は、2017年には1万5000円にまで上がった。
2017年7月18日、大阪広域協の第586回理事会が開かれた。
生コン価格の上昇を背景に、経営者たちが「我が世の春」を謳歌する内容となった。
2025年に大阪万博を誘致するため、オフィシャルパートナーになることを決定。200万円を寄付すると共に、PR活動に参加することにした。
国土強靭化に取り組む団体へのお墨付き「レジリエンス認証」にも申請すると決めた。内閣官房が推進する政策なのでメリットがあると判断した。申請のためのコンサルタント費用350万円を計上することにした。
「誰にモノぬかしとんねん!」
大同団結の果実は、労組にも分けられるはずだった。
2010年、関生支部など労組側と経営側は、生コン価格が上がれば輸送費の値上げを実現すると約束していた。
労働組合員には、生コンやセメントを運ぶドライバーが多い。生コン価格が上がっても、輸送費がそのままならば、ドライバーたちの給料を上げるための原資を確保できない。経営者だけが儲ける構造になってしまう。
ところが大阪広域協は、輸送費アップに動こうとしない。のらりくらりとかわす。
関生支部は2017年9月ごろから、輸送費の値上げを目的にして、ストライキを実行することを計画。セメントの輸送を一斉に止めるというもので、労組連合会のメンバーにスト参加を打診した。
各労組は、温度差はあるものの、賛成した。
全港湾大阪支部「早くした方がいい」
生コン産労「OK。執行委員会で確認する」
UAゼンセン「調整が必要であるが、基本的にはOK」
建交労「手法による」
そこへ、立ちはだかった人物がいる。
大阪広域協の地神秀治だ。
地神は副理事長、統括本部長、戦略本部長を兼ねる。大阪広域協の理事長は木村貴洋だが、実質的なトップは地神だというのが衆目の一致するところだ。
地神は強圧的だ。広域協加盟の生コン会社を、力でねじ伏せてきた。
ある日、関生支部に理解を示す経営者のもとへ、地神がやってきた。「出ていけや、なに入って来てんねん」と言う社長に、地神が激昂する。
「ナニコラ、ナニコラ、ナニコラッ!」
社長が「やかましい!」と言うと、「誰にモノぬかしとんねん!」とさらにヒートアップ。社長を掴んで押し倒した。
社長が転倒すると、「シラコイのう(わざとらしいな)、お前そんな役者みたいなことすんな」
その後も、罵倒を続ける。
「お前ここの社長やったら、なんでもっとマトモなことせんのや」「コラはげ、ピーナツ」「アホ、カス」「ビビリが。情けない男やのう」「ごみ、コラーッ」
最後に「後でおれ(いるようにしろ)、(またここに)来たるから!」と言い残して去った。
生コン産労と建交労の裏切り
関生支部は、2017年12月12日をストライキの日に設定した。
地神はストを阻止するため、策を講じる。労組の切り崩しだ。
2017年12月5日、労組連合会の全港湾大阪支部、生コン産労、建交労の幹部が、大阪広域協に呼び出された。
大阪広域協側の出席者には、理事長の木村や理事の大山正芳もいた。だが、話をするのはほとんど地神だ。
まず、労組連合会が経営側を批判するビラを撒いていたことへの苦言。それから本題に入った。
「12月12日のストは認められへんぞ。参加したらえらいこと(大変なこと)になるぞ」
地神は恫喝してきた。なぜそこまでして、ストを止めようとするのか。
「前にストがあった時、大阪広域協はゼネコンと『二度とストを起こさせない』という約束をしている。だからどんなことがあっても、ストは認められへん」
2010年7月、大阪駅周辺の再開発工事でストがあった。当時、生コン価格が原価割れしていた。関生支部や全港湾大阪支部、生コン産労などが、生コンの値上げを求めてストを決行した。ゼネコンにとっては痛手だった。
地神たちの脅しに対し、全港湾大阪支部は席を立った。
「ストをするかどうかを決めるのは企業ではない、労組や。我々は関生支部と一心同体や」
しかし、生コン産労と建交労は沈黙する。12月9日、両組合とUAゼンセンは、ストには参加しないことを大阪広域協に告げた。
生コン産労と建交労は1年後、UAゼンセンなどと共に、「近畿生コン関連協議会」を結成した。サイトでは「偽装労組」と題した関生支部を攻撃するためのキャンペーンを展開。大阪広域協の協賛を受けていた。
捜査員からの警告
地神による労組連合会の切り崩しはあったものの、関生支部は2017年12月12日、予定通りストライキを実施した。
セメントの輸送を一斉に止める必要があったが、中には経営側についてストに応じないドライバーもいる。「スト破り」だ。関生支部の組合員たちは大阪港近くのセメント出荷現場に赴いた。トラックの前に立ちはだかり、ストへの協力を求めた。
その一人、関生支部の木村義樹は現場に着いた瞬間、異様な雰囲気を感じた。大阪府警の警察官が20~30人もいるのだ。これまでもストの経験はあるが、明らかに違う。白いシャツに黒っぽいスラックス姿の刑事に、木村は尋ねた。
「なんでこんなに警察官が多いんや」
刑事は言った。
「今日は上のお偉いさんも来てる」
大阪府警には、これまでの関生の歴史の中でも度々、逮捕されている。だがこの刑事の言葉には「いつもとは違うぞ」というニュアンスがあった。警告だ。
「ストに参加したらえらいことになるぞ」という言葉は、大阪広域協の単なる脅しではないようだ。
そのことは、2018年の年明け早々にはっきりする。
(敬称略)
※この記事の内容は、2025年10月29日時点のものです。
https://tansajp.org/investigativejournal/12721/?utm_source=mric&utm_medium=link
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