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Vol.26043 浜通りで初期研修をするという選択―震災後15年、若手医師のひとりとして―

医療ガバナンス学会 (2026年3月11日 08:00)


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常磐病院初期研修医
金田侑大

2026年3月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

東日本大震災のあと、福島県浜通りは深刻な医師不足に陥った。そのなかで、公立相馬総合病院、南相馬市立総合病院、常磐病院の3病院が初期臨床研修の受け入れを始めた。皆が避ける被災地で若手医師を育てるという、ある意味で社会実験のような取り組みだ。それから15年。制度は途切れることなく続き、60人以上の研修医がこの地域で初期研修を行ってきた。私はいま、その流れの中にいる。

さかのぼって大学6年生の夏。大事なマッチングの時期。私は別に、大学のある北海道に残る気もなかったし、地元の愛知に帰るつもりもなかった。大学2年生の頃から、全国津々浦々、いろんな病院を見学した。長野や沖縄に、「ここで研修したいな」と思える病院と出会わせてもらった。空気を吸って、「あ、ここかな」と思えた場所だった。

それなのに。

大学の元同期たちに“嵌められ”て、そのうちの一つを早々に受けることができなくなった。正直、かなり落ち込んだ。「ああ、こうやって選択肢って減るんだな」と思った。

そんなとき、今は常磐病院で私の指導医をしてくれている尾崎章彦先生からMessengerが届いた。

「俺が全部面倒見るから」

短い一文だった。いわきに行こうかなと思った。

尾崎先生には学生時代から論文の指導をしてもらっていた。被災地医療やコロナ禍の医療政策について一緒に原稿を書き、学会にも出た。

研究やボランティアで関わってきた福島を、今度は医師として現場で見てみなさい。

神様がそう言ってるのかもな。
そんな巡り合わせで、浜通りで初期研修をすることになった。

でも、他の初期研修医たちはどうなのだろう。どんな人たちが、どんな思いで浜通りに来て、そしてどこへ向かっていくんだろう。当事者である私自身が、その“プロファイル”を知りたくなった。

被災地で医師を続けること自体が覚悟を伴う時期に、初期臨床研修医の募集に名乗りを上げたのが、公立相馬総合病院、南相馬市立総合病院、常磐病院の3つだった。

そこで、公開情報をもとに、これら3病院で初期研修を行った医師たちの動向を調査した。

把握できたのは61名だった。公立相馬総合病院20名、南相馬市立総合病院30名、そして常磐病院11名。「全員」ではない。公開情報で追えた人数だ。それでも、15年間の軌跡をなぞるには、十分に意味のある数字だと思った。

http://expres.umin.jp/mric/mric_26043.pdf

まず意外だったのは、出身大学だった。把握できた範囲では、およそ3分の2が福島県立医科大学以外の出身者だった。震災直後、南相馬市立総合病院では最初の5年間で12名を受け入れているが、福島医大出身者は0名。公立相馬でも同時期は6名中2名にとどまる。最初に浜通りを選んだのは、地元の学生ではなかった。むしろ、“外から来た若者”たちだった。

でも、時間が経つにつれて景色は変わる。直近の数年間では、公立相馬では7割近く、南相馬でも半数以上が福島医大出身者になっている。制度の初期は外部からの挑戦に支えられ、次第に地域内の循環へと移行してきたことが、数字から見えてきた。浜通りの初期研修は、「地元囲い込み」ではなく、広域から人を引き寄せ、その中の一部が残っていく。そんな構造だった。

では、その“残った”人たちはどれくらいいるのか。61名のうち、17名は現在も浜通りで初期研修中だ。修了者は44名。そのうち勤務先を確認できた29名のうち、14名、約半数が現在も福島県内で勤務している。県外勤務者の中にも、福島県内の医療機関に非常勤として勤めたり、福島県立医科大学の大学院に所属している人たちがいることも確認された。

多いのか、少ないのか、正直分からない。浜通りに全員が残るべきだ、とも思わない。専門医を取りに行く人もいる。研究をしたい人もいる。家族の事情もある。若手医師は、制度の歯車ではなく、一人の生活者だ。でも、震災直後、「誰も来ない」と言われた地域だ。その浜通りで、15年間、制度が途切れず続いている。そして、その中の何人かは、今も福島で診療している。その事実は、記録しておく価値があると感じた。

振り返れば私も、偶然や他人の一言や、思いがけない出来事に背中を押されてここまで来た。選んだつもりで、選ばれながら。

大きな流れの中で、私は今日も浜通りで医師をさせてもらっている。

【金田侑大 略歴】
北海道大学医学部卒業。現在は常磐病院で初期臨床研修中。
指導医の尾崎先生の守備範囲は広いが、私の方向音痴まではカバーしていなかったようで、浜通りでの遊牧をいまのところ一人、満喫中だ。

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