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Vol.26044 湯川裕司に共感した 経営者に忍び寄る「魔の手」(3)

医療ガバナンス学会 (2026年3月12日 08:00)


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編集長/渡辺周
記者/中川七海

2026年3月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2017年12月12日、労働組合「関西生コン支部」(関生支部)は、セメントの輸送を止めるストライキを大阪港で実施した。

生コン会社の経営側でつくる「大阪広域生コンクリート協同組合」(大阪広域協)が、約束を守らなかったからだ。生コンの値段が上がれば、ドライバーの輸送費も上げると2010年の時点で合意していたのに、応じなかった。

スト前までは、6労組による「関西生コン関連労働組合」が力を合わせていた。だが関生支部以外でストに参加したのは、全港湾大阪支部だけ。大阪広域協のドン、地神秀治に「ストに参加したらえらいことになるぞ」と切り崩された。

ストの後、大阪広域協の攻勢は加速する。

関生と手を結ぶのは許さない

大阪港でのストライキから1週間後の12月19日午後1時、大阪広域協は理事会を開く。配られた資料の中に、「威力業務妨害事件及び組織犯罪に関して」がある。こう書かれていた。

「今回の威力業務妨害行動に協力、同調したと思われるセメント輸送会社、生コンクリート輸送会社及び大阪広域協組組合員工場に対しては管理本部にて調査を、また大阪広域協組登録販売店に対しては営業本部にて調査を行い、結果次第では損害賠償を含めた厳格な処分を検討します」

大阪港でのストの前までは、関生支部と良好な関係にある経営者たちもいた。生コン会社は、仕入れ先のセメント企業と販売先のゼネコンに挟まれる。大企業と対抗するには、経営側と労組が力を合わせる必要があるからだ。

しかし、大阪広域協は関生支部と手を結ぶ経営者は許さない。そのことを40人が参加したこの日の理事会で明確にした。

この頃、ある経営者はストの後、大阪広域協に写真を見せられている。関生支部の人間といるところを撮られていた。探偵に尾行されていると直感した。

理事会では、関生支部による「犯罪行為」の対策費として10億円を計上する方針も示した。工場が止められた場合の支援金や弁護士費用に充てるという。

理事会の終盤で、理事長の木村貴洋が発言する。大阪広域協を仕切っているのは地神だが、理事会など表舞台では木村が話すことが多い。

「威力業務妨害行為に対して、大阪広域の講じた対処・措置に、滋賀・京都・奈良・和歌山の生コンクリート関係者からたくさんの問い合わせが来ている。今現在は連帯労組(関生支部)に逆らうことが怖く、従わざるを得ずにいますが、今回の大阪広域の勇気ある行動に賛同及び賞賛の声が多数寄せられている」

「近畿2府4県の警察当局者も捜査に着手したと耳に入っています」

この木村の発言は、極めて重要な意味を持つ。

一つは、大阪広域協は大阪・兵庫の生コン会社が加盟している組織にもかかわらず、近畿全府県の生コン会社との関係を持っていること。

そして、近畿全府県の警察の捜査情報を把握しているということだ。

労使の垣根を越えて

近畿全府県の生コン経営者から、大阪広域協に対し「賞賛の声」が寄せられているーー。

理事長の木村はそう言ったが、京都で超然と経営にあたる人物がいた。

久貝博司(くがいひろし)。大阪広域協が関生支部に牙を剥き、生コン会社への締め付けを強めても意に介さない。「そんなもん、関係あらへん」。

久貝は、京都の生コン各社で作る「京都生コンクリート協同組合」の理事。関生支部の湯川裕司と二人三脚で、京都の生コン業界の発展と健全化に尽くしてきた。

2人の付き合いは、湯川が28歳の時から。父親と息子ほどの年齢差があり、湯川が「こういう大人になりたい」と思える人物だ。湯川も久貝も母親が島根県の出身。その点でもシンパシーを感じた。

久貝は誰とでも、分け隔てなく付き合う。差別が心の底から嫌い。差別的な言動があると烈火の如く怒る。

お茶目な人だ。おいしいパン屋を見つけたら、車の後部座席がいっぱいになるほど買って「これ食べや」と関生支部に持ってくる。湯川の自宅にもいくらの醤油漬けを自分でこしらえて瓶を持ってきたり、ブドウを持ってきたり。湯川がいない時でも母親に預けていった。「ポケモンGO」にハマっていた時期があり、その時は「お前の家の近くにポケモンおるから、今から行こう思うねん」。

利益を我田引水することがない。他人のことばかり考えて分ける。関生支部のモットーは「他人の痛みは我が痛み」。久貝と相通じる。

関生支部で山形の蔵王にスキーに行った時があった。スキーがプロ級の腕前の久貝は「飛行機とホテル教えてくれ、わしも行く」。湯川は「労組のスキー大会に経営者が来てええんか」と言ったが、全く気にせずついてきた。

襲撃された湯川

湯川が京都で襲撃されたことがあった。2016年、京都の生コン業界をまとめようと久貝と共に奔走していた時期だ。

夜の11時半ごろ、湯川がショッピングモールにあるマッサージ店に行った帰り、駐車場で3人の男が現れた。鉄の棒で殴打された。咄嗟に頭を手でガードした。駐車場に清掃員がいて「警察を呼ぶでー!」と叫ぶと、男たちはワゴンタイプの車に乗り込んで去った。湯川を拉致するつもりだったのだろう。湯川の身体には青あざができていた。

京都の生コン業界をまとめるにあたり、湯川は暴力団を追い出そうとしていた。暴力団は生コン会社に介入して、金をせびる。労働者に回る賃金が減ることを防ぐだけでなく、湯川は業界を健全化したかった。関生支部は「産業別労働組合」だ。どの企業に所属しているかは関係なく、生コン産業全体のために活動する。暴力団が巣喰う産業を放置するわけにはいかない。

湯川が襲撃されたことを知り心配したのは、久貝だ。湯川と知り合ってから15年余り。久貝にとって湯川はかけがえのない相棒になっていた。

久貝は湯川を3カ月ほど、ホテルに住まわせることにした。湯川の身を守るためだ。ホテル代は久貝が工面した。

ホテル住まいの間、久貝は毎日のように湯川のもとを訪れた。そんなに通ったところで、連日用事があるわけではないが、とにかく湯川に会いたいだけのようだった。「ホテルでモーニング食おか」などと言っては、やって来た。下手したら、朝、昼、晩と一緒に食事した。湯川は「ほかに友達おらんのかい」と苦笑した。

一斉に届いたりんご

2017年12月のストライキを受け、大阪広域協が関生支部と良好な経営者たちを締め付けても、久貝はへっちゃら。そのことは、年が明けて2018年早々の久貝の行動にも表れている。

1月4日、湯川の父親が亡くなった。湯川は、通夜も葬式も経営者たちの参列は断ったが久貝は別だった。久貝は「お前、おれをはじくな」と言い、湯川も受け入れた。前年の6月、父に癌がみつかった時に病院を紹介してくれたのも久貝だった。久貝は通夜の前から準備をずっと手伝ってくれた。

しかし、湯川と久貝には着実に「魔の手」が忍び寄っていた。

同じ頃、関生支部の組合員らが勤める生コン会社へ、一斉にりんごが届いた。ダンボールの箱に入っていて、福島県からだった。送り主に心当たりはない。

(敬称略)

※この記事の内容は、2025年11月5日時点のものです。
https://tansajp.org/investigativejournal/12754/?utm_source=mric&utm_medium=link

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