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Vol.173 町から子どもが消える

医療ガバナンス学会 (2011年5月25日 06:00)


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共同通信社社会部  宮川さおり
2011年5月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


「洗濯するのに1回千円もかかる。義援金はこないし、手持ちのお金はどんどんなくなる…」。ボランティアをしていて南三陸町の避難所で出会った女性の言葉 に、私は耳を疑いました。女性によると、避難所に水道がないため、車に乗り合わせて隣の登米市のコインランドリーまで週1回、洗濯に行っているというので す。娘たちや孫、総勢5人で避難所生活を送っており、5人分の洗濯をして乾燥機にかけたら、軽く千円はかかるということでした。
他の避難住民とも話したところ、女性と同様に、多くの人が洗濯のために隣町まで出掛け、1回千円程度を払っているとのことでした。何よりもっと深刻な問題 は、小さい子どもを抱える家族の中には、そうした不自由に耐えられず、隣町などに出て行ってしまう人が多いということです。
津波被害を受けた地域のほとんどで水道は普及しておらず、よく考えれば洗濯もできなくて当然ですが、ペットボトルの配給や自衛隊が給水する様子をテレビで 見て、何となく洗濯もどうにかなっているのではないかと思い込んでいました。これから暑くなることを考えると、何とか手を打たなければなりません。

義援金についても女性は、怒りを込めて「まったく何も伝わってこない。一部だけでもいいのでとりあえずのお金を配ってほしい」と話していました。あれだけ の金額を集めておきながら、これだけの被害者がいながら、役所は「有資格者に平等に配らなければならない」と思っているのでしょうか。義援金を贈った人 も、まだ配られていない人のこうした様子を知ったら、驚くことでしょう。

避難所として施設を提供する観光ホテルのおかみに事情を聞いてみると、おかみも若い家族の流出を非常に懸念していました。「私どももできるだけ快適に過ご して頂こうと思っているが、水道についての状態は国や行政の力無しにはどうにもできない。このままではせっかっく町にとどまってくれた若い人たちがどんど んいなくなってしまう」と訴えていました。
おかみによると、洗濯代を払えない人や、車がないため隣町まで行けない人たちは、町内を流れる川で洗濯をしているといいます。しかし、津波被害のなかった 内陸部では田植えや作付けが始まり、農薬も使われるようになります。農薬はどんどん川に流れ込み、そうした川での洗濯は、決して安全とは言えないのではな いでしょうか。

もうひとつ、驚いたことがあります。具体的な自治体名は覚えていないのですが、被災地を車で走っていると、ラジオが「震災で亡くなった方の火葬については、一部公費で補助するので、領収書などを保管してあとから申請してほしい」というような趣旨の情報を流していました。
がくぜんとしてしました。震災で亡くなった人の遺族の多くが、大切な家族だけでなく、家も家財もお金も失い、着の身着のままで生き延びている人たちなので す。中には仕事を失った人もいるでしょう。そんな人たちに対して「火葬をするのに一部は負担してやるが、とりあえず先に金を払っておけ」と言っているのに 等しいのです。行政が全額補助するか、それが無理だとしても、最初に全額払わせるのではなく、負担分を払ってもらうようにするべきではないのでしょうか。

ボランティアで被災地を1日回っていると、山ほど問題を目にしたり、耳にしたりします。あまりの被害の大きさ、被害地域の広さにすぐにはどうにもできない こともいっぱいあります。一方で、役人がもう少し頭と心を使えば、何とかなるのではないかという問題も数多くあります。斎場では弾力的な運用がなされてい ること、決して、お金が払えないので家族を火葬できないというような馬鹿なことがないように願っています。

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