臨時 vol 15 「迷走する医療行政:骨髄移植フィルター騒動からみえるもの」
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東京大学医科学研究所
先端医療社会コミュニケーションシステム社会連携研究部門
上 昌広
今回の記事は村上龍氏が編集長を務めるJMM (Japan Mail Media) 1月28日発行の
記事をMRIC用に改訂し転載させていただきました。
前回の配信で、医療訴訟の濫発が医師賠償責任保険を破綻させ、ハイリスク医療から医師が撤退する危険性を指摘させていただきました。今回はその解決策を議論する予定でしたが、その前に、年末から続いている「骨髄移植フィルター騒動」について、続報を含めご紹介させていただきたいと思います。問題の発端は、米国の医療機器メーカーが金融危機により打撃を受け、事業からの撤退を余儀なくされたことにあります。海の向こうの金融危機がわが国の医療界にまで波及したというわけです。ただし今回の騒動に際して興味深いのは、厚労省および関連団体が自らの権益保持を主張し、小田原評定を繰り返しているのを尻目に、市民団体が問題解決に向けて着実に活動してきたことです。これまでに繰り返しお話しさせていただいているとおり、福島県立大野病院事件以降、わが国の医療ガバナンスは大きく変わりつつあります。その中でこの騒動はまさに、医療界の変化を象徴する典型的な事件といえるのです。【 骨髄移植とは 】まず、骨髄移植の概要をご説明しましょう。骨髄移植は、進行した血液がんの治癒が期待できる唯一の治療法です。骨髄移植は、通常の抗がん治療では治らない患者が対象になります。がん細胞を根絶するために超大量の抗がん剤や放射線を用いるのですが、このような処置を行えば、がん細胞を殺すのと同時に、正常な造血機能まで破壊してしまいます。そこで、HLA(白血球の血液型)が適合した他人から骨髄を移植する必要があるのです。骨髄提供者は、骨髄移植日の数ヶ月前から適正検査として身体検査、血液検査、レントゲン検査などを受けます。また、骨髄採取時には骨髄とともに約1リットルの血液が失われるため、輸血が必要になります。骨髄提供者は健常者ですから、骨髄採取手術時の出血に対してはできる限り自分の血(自己血)が使われ、自己血の貯血は、骨髄採取手術日の3週間前から開始されます。このような事情を踏まえると、骨髄移植を安全に行うには、予定日の少なくとも1ヶ月前までには予定が確定していなければなりません。【 米国バクスター社の事業撤退・売却 】バクスター社はシカゴ郊外に本社を置き、総社員数は46,500人、売上高113億ドル(2007年)の製薬企業です。もともとは1931年に輸液メーカーとして出発しましたが、その後、血友病や感染症治療に用いる血漿タンパク製剤、腹膜透析関連製品、薬剤の投与システムを開発し、医療現場に提供しています。このような事業と同時に、バクスターは血液事業に重点を置いてきました。特に、人工血液の開発に取り組んできたのですが、開発はなかなか上手くいきませんでした。さて、冒頭に少し触れたとおり、今回の骨髄移植フィルター騒動の発端は、米国バクスター本社が血液事業から撤退したことにあります。この一環として2008年3月、骨髄移植フィルター(商品名:ボーンマロウコレクションキット※)を製造していた事業部が投資会社に売却されました。この経営判断には、昨今の経済危機が影響していると言われています。※ボーンマロウコレクションキットとは、骨髄移植でドナーから採取した骨髄液から骨片や凝血塊を取り除くために用いるフィルターで、1993年3月に厚生省(当時)から認可されています。骨髄移植フィルターとしては、国内では米バクスター社の製品だけが承認され、これまで1ヶ月に約150セットのペースで使われてきています。【 投資会社は買収後、工場を国外に移転 】ボーンマロウコレクションキットを製造していた事業部を米国バクスター社から買収した投資会社は、フェンオールインクという新会社を設立しました。この際、フェンオールインク社の上場を目指した投資会社は、経費節減のために、ボーンマロウコレクションキットの製造場所を米国マウンテンホームから人件費の安いドミニカのハイナに移しました。製薬業界では、人件費の安い発展途上国で製造された薬が先進国に輸入販売されるという、「製造と販売の分離」が進みつつあります。これは、グローバル化が製薬業界に与えた影響といえます。【 新会社の手続きが遅れ、供給がストップ 】米国では、医薬品の製造方法や製造場所を変更した場合、製薬企業はFDAや厚労省などの規制当局に変更を申請し、新たに承認を受けなければなりません。この承認申請期間中は一時的に生産が途絶えるため、製薬企業は十分な在庫を確保し、薬剤を医療現場に安定供給することが求められます。当初、フェンオール社はボーンマロウコレクションキットの在庫を調整し、供給を維持しようとしたのですが、FDAへの申請が大幅にずれ込んでしまいました。詳細は公表されていませんが、これはフェンオール社の経験不足のせいでしょう。この結果、現時点で同社から米国の医療現場への提供の目処はたっていません。さらに、フェンオール社は米国の会社で日本法人を持ちません。このため、フェンオール社が米国バクスター社から事業部を買収する際に、日本での販路を確保することが求められました。これはフェンオールの利益にも繋がります。また、それまでの実績からしても、バクスタージャパンに日本での供給体制の維持が求められるところです。しかしながら、現時点でフェンオール社のわが国での販路は確定しておらず、ようやく米国FDAが承認しても、わが国の臨床現場に届けることはできません。【 読売新聞がスクープ、患者・医師に動揺が走る 】2008年12月19日、バクスタージャパンはボーンマロウコレクションキットが欠品になる可能性をHPで公開し、営業担当者を通じて医師に通知しました。翌12月20日にこれを読売新聞がスクープし、問題が表面化しました。一方、この報道で事態の深刻さを認識した厚労省は、バクスタージャパンの担当者を呼び出しました。厚労省や読売新聞の報道が圧力となったのでしょうが、バクスタージャパンは12月30日、自らのHPにて、国内の在庫が493個であることを公開しました。この結果、ボーンマロウコレクションキットは、遅くとも2009年3月までには在庫がなくなることが明らかになりました。【 骨髄移植は延期、失われつつある治療の機会 】骨髄移植は進行した血液がん患者さんが治癒を期待できる唯一の治療法ですから、読売新聞のスクープは患者・家族、医療者に衝撃を与えました。また、骨髄移植の準備には約1ヶ月をするため、1月中にボーンマロウコレクションキットの確保の目処が立たなければ、3月初旬に骨髄移植を準備している患者は延期せざるを得ません。現に、大阪府立成人病センター血液・化学療法科主任部長で、前造血細胞移植学会会長の平岡諦先生は、「3月以降の骨髄採取の予定が組めない」と警鐘を鳴らしておられます。【 米国では不足していない! 】ボーンマロウコレクションキットの供給が停止した点については、日米両国は同じ状況です。しかしながら、米国では日本のような大騒ぎにはなっていません。その理由は、米国ではバクスター以外に骨髄移植フィルターを製造・販売している会社があるからです。それは、バイオアクセス社というボルチモアのベンチャー企業です。この企業は1995年にジョージ・エリアスとロバート・チャポリニという二人の医師によって創立されました。その規模はバクスターとは比べるべくもありませんが、米国ではバイオアクセス社の製品(商品名:ボーンマロウコレクションシステム)で代用することで、骨髄移植フィルターの欠品を回避しています。現時点で、骨髄移植フィルターを製造・販売しているのはバイオアクセス社とフェンオール社だけで、新規企業の参入も見込めません。これは骨髄移植の市場規模が小さいからです。【 なぜバイオアクセス社は日本市場に参入しないのか? 】2009年1月現在、バイオアクセス社がボーンマロウコレクションシステムを販売しているのは米国と欧州のみで、日本へは供給されていません。なぜ、バイオアクセス社は日本へ進出しないのでしょうか。それは、わが国の医薬品市場の成長率が欧米と比較して著しく低いためです。1993年に世界の医薬品市場に占める日本市場の比率は20%でした。ちなみに、米国は32%、欧州は28%でした。ところが、2005年には米国の市場は44%に成長し、欧州は28%と現状維持であったのに対し、日本は10%と大きくシェアを落としました。このように日本の医薬品マーケットの成長率は低いため、外資系製薬企業は日本をマーケットと見なさなくなりました。日本が世界最高の高齢化社会であることを考えれば、なんとも皮肉なことです。この状況を生み出した原因は、長年にわたる医療費抑制、薬価切り下げにあり、それが海外で開発された医薬品の日本への流入を阻害しています。この結果が「ドラッグラグ」「デバイスラグ」を生み出す最大の理由なのですが、国民には正確に認識されていないようです。【 繰り返される医薬品の供給停止:住友製薬テスパミン注射液の場合 】米国の経済危機を受けて供給が停止した医療・医薬品は、ボーンマロウコレクションキットだけではありません。例えば昨年11月には、大日本住友製薬が抗がん剤テスパミン注射液の供給停止を発表しました。同社は、「原薬(チオテパ)の製造会社から、設備老朽化を理由に工場を閉鎖しチオテパの製造を中止する旨連絡がありました」「海外で販売されているチオテパ製剤の完成品を輸入することも検討しましたが、現行品と同等の品質保証及び安定供給が担保できる原薬及び製品を見出すことができず、製造及び販売の中止を決断するにいたりました。」と説明しています。この状況は、ボーンマロウコレクションキットとそっくりです。経済危機が深刻化し、製薬企業による不採算部門の整理が進めば、ボーンマロウコレクションキットやテスパミン注射液のような事例が続くことが予想され、国家的な対応が必要になります。【 骨髄移植推進財団がバイオアクセス社製品を確保 】 ボーンマロウコレクションキットの供給停止に際し、問題解決への課題は二つあります。まず、バイオアクセス社製のボーンマロウコレクションシステムを確保すること、そして確保したボーンマロウコレクションキットを遅滞なく患者のもとに届けることです。前者については、財団法人骨髄移植推進財団がバイオアクセス社と直接交渉し、600個の製剤を確保したと伝えられています。問題は後者です。【 対策1: 厚労省による迅速承認――バクスタージャパンへの圧力 】現時点でバイオアクセス社のボーンマロウコレクションシステムは、わが国で承認されていません。未承認の医薬品・医療機器を用いるには、「製薬企業による治験」、あるいは「患者による個人輸入」の何れかの方法を採らなければなりません。まず、治験について説明しましょう。この場合、承認を目指す製薬企業が、海外から製品(今回の場合、バイオアクセス社製ボーンマロウコレクションシステム)を輸入することになります。通常の治験では、製薬企業はまず厚労省に治験届けを提出し、その後、限定した医療機関にて、厳密な基準を満たす患者を対象に、医薬品や医療機器がテストされます。今回、厚労省が治験という手段しか認めなければ、二つの問題が生じます。まず、バイオアクセス社は、わが国で販売する企業と契約する必要があります。厚労省はバクスタージャパンに圧力をかけ、かつてのライバル製品であるボーンマロウコレクションシステムを、同社が販売する方向で調整しています。これは、バクスター米国本社が不採算のために放棄した骨髄移植フィルターの販売権を、「医薬品の安定供給」を拠り所にして、厚労省がバクスタージャパンに強制的に取得させていることを意味します。また、今回の事件は米国バクスター社が権利を譲渡したフェンオール社のミスによるものですから、バクスタージャパンだけに責任を負わせて解決することには無理があります。厚労省がこのような強権的な方法で弥縫策に終始すれば、わが国の医薬品市場のあり方がゆがみ、国際的な信頼を損ねるリスクがあります。さらなる問題点としては、治験には膨大な手間がかかることが挙げられます。今回の場合、バイオアクセス社製のボーンマロウコレクションシステムは既に米国のFDA が承認しており、状況が切迫しているため、治験の場合でも実際に臨床現場で試験する必要はなく、書面審査だけで済むでしょう。しかしながら、日本法人を持たないバイオアクセス社が日本で販売してくれる企業と契約し、その後、厚労省に対する承認申請資料を作成するのには、どんなに急いでも数ヶ月はかかります。厚労省はこの作業を数週間に短縮させようとしていますが、そもそも行政にそのような権限はありません。もっと合理的な解決法を模索すべきです。【 対策2: 個人輸入の場合 】厚労省の承認が遅れた場合、バイオアクセス社製のボーンマロウコレクションシステムを「未承認医療機器」として使用せざるを得なくなります。患者が個人輸入した医薬品や医療機器を少しでも用いた場合、厚労省は健康保険での支払いを一切認めないので、医療費の全額を自費で支払わなければなりません。これを「混合診療の禁止」と言い、現在、行政訴訟中です。ちなみに、昨年下された最新判決では厚労省は敗訴しています。今回の場合、移植を受ける患者は、ドナーからの骨髄採取だけでなく、自身の治療費全てを負担しなければならず、500-1000万円の出費となります。これでは多くの患者が骨髄移植を受けることができなくなり、現実的ではありません。【 対策3: 高度先端医療 】昨年の3月26日、厚生労働省は混合診療について新制度を設け、薬事法で承認されていない医薬品や医療機器を使った場合でも、一定のルールに基づけば保険診療との併用を認める「高度医療評価制度」を創設しました。今回、厚労省医政局は、この制度の活用を考えています。この制度の問題点は、手続きが極めて煩雑なことです。本制度の下では、各医療施設は、あらかじめ高度医療実施申請書を厚生労働大臣に提出し、しかも申請に当たっては、厚労省医政局研究開発振興課に事前に相談することが求められています。ちなみに混合診療の手続きについては2004年、「いわゆる『混合診療』問題に係る基本的合意」により厚労省による事前審査がなくなり、届け出制に変更されています。その後、2005年に医療課長通知により対象が薬事既承認だけに限定されたため、これに対する批判が経済財政諮問会議など各所から起こり、高度医療制度創設につながりました。にもかかわらず厚労省は、この制度で事前審査制を復活させています。名目上の制度を創設しても、その手続きを煩雑化することで実態として普及させないことは、厚労省の常套手段です。ちなみに2009年1月現在、この制度で承認された治療法はわずかに2つだけです。多数の大学病院や高度専門病院が応募していますが、大部分が承認されていません。骨髄移植は一般的な医療行為であり、全国で約300の施設で実施されています。今回の緊急事態に、高度医療評価制度を用いれば、医療現場が混乱するのは明らかです。余談ですが、高度医療評価制度は手続きの煩雑さ以外にも、多数の問題が指摘されています。例えばこの制度では、厚労省の調査・処分権限が強化されています。医療機関が厚労省に高度医療の実施を申請する際には、病院長から医政局長に宣誓書を提出する必要があり、その中で「厚労省が事前の通告なく行う実地調査に応じること」「求められた報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、立ち入り調査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して、正当な理由なしに答弁せず、若しくは虚偽の答弁をする等の不適切な対応をしないこと」「上記に反した場合には、厚労省の行う措置にしたがうこと」に同意する必要があります。これを見たら、多くの院長は申請を取りやめたくなるでしょう。【 小田原評定を続ける厚労省 】今回の問題の厚労省の窓口は健康局疾病対策課臓器移植対策室ですが、それ以外に保険局医療課、医政局研究開発振興課、医薬食品局などの複数の部局が絡みます。今回の厚労省の対応は、幾つかの点で示唆に富みます。まず、厚労省の各部局は、「患者の命」よりも「自らが創設した制度の維持」を重視しているように見えることです。例えば、保険局は「混合診療絶対反対」という方針を貫いてます。もし保険局が、今回の事例は特例として、未承認のボーンマロウコレクションシステムと保険診療の併用を認めれば、問題は即座に解決していました。あるいは、保険局が解釈を変え、従来の骨髄移植の費用のうち、ドナーからの骨髄採取だけを自費診療にすれば、患者負担は数百‐1000万から16.6万円に軽減しました。現行制度下ではこの方法が、患者の被害を最小限に食い止めるためのおそらく最も容易な方法だったでしょう。また、普通の良識を持った人なら、厚労省が今回の特例を認めても、混合診療がなし崩し的に広がって国民皆保険制度が崩壊するとは考えないでしょう。一方、医政局は、医薬品市場のルールを曲げてまで「治験」にこだわり、医師不足が深刻な医療現場に過大なペーパーワークを課すことを考慮せず、高度医療評価制度を推し進めました。これは厚労省の財布を握る保険局の意向を受けたという見方もできますが、医政局が自ら創設した制度を推進する口実に利用したという見方も可能です。1月23日、造血細胞移植学会は高度医療評価制度の適用に同意しない旨を自らのHPで表明しましたが、医政局は国立がんセンターなどの国立組織に所属する医師に、同制度での申請を準備するように電話で指示しています。【 国民は蚊帳の外: 情報を開示しない厚労省 】次の問題は、厚労省が患者・医療現場へ全く情報開示をしていないことです。本件は12月20日の読売新聞のスクープで世間に知れ渡り、多くの患者・医師が不安になりました。しかしながら厚労省が公式の場で見解を表明したのは1月23日になってからです。これだけ世間が大騒ぎしているのに、34日間も記者会見やHPでの情報提供をしていないことは、どう見ても異常です。しかもこの会見は、「医療現場の危機打開と再生をめざす超党派議員連盟」の尾辻秀久会長、仙谷由人会長代理、鈴木寛幹事長の訪問を受けた舛添厚労大臣が主導したものです。厚労省官僚(医系技官)が自発的に動いたものではありません。【 厚労省外郭団体の果たした役割: 天下り官僚はどう動いたか 】厚労省が黙りを決め込んでいた12月20日から1月23日までの間、メディアや患者に情報を伝達していたのは、骨髄移植推進財団および造血細胞移植学会でした。しかしながら、いずれの組織の発表も、行政と連携しながら問題解決を目指しているという抽象的な内容に終始し、患者・医師が知りたい具体的な情報は提供されませんでした。余談ですが、骨髄移植推進財団は厚労省の外郭団体であり、複数の理事が天下っています。常任理事は現在話題の「わたり」の人物で、今回の事件を通じ、厚労省の意向を強硬に主張したと言われています。公益法人、天下りのあり方を考えさせられます。一方、学会が研究費の配分や審議会メンバーの人事権などを通じて、厚労省や文科省からコントロールされているのはご存じの通りです。造血細胞移植学会が厚労省との連携を強く訴えたことは、このような背景と関係しているのでしょう。【 患者団体による新しい動き 】今回の事態を受けて迅速に動いたのは、NPO法人全国骨髄バンク推進協議会の方々です。特に会長の大谷貴子さんは、厚労省に対し、キット在庫不足に関する迅速な情報公開を求めると共に、代替未承認キット(バイオアクセス社製品)使用による患者負担増加の回避を求める要望を記した署名活動を行い、厚労大臣に陳情しようとしています(http://www.marrow.or.jp/)。このような署名活動を通じ、患者や国民に問題が認知されるようになりました。大谷さんは、ご自身が骨髄移植を受けて白血病が治癒した経験を持ち、その後、わが国の骨髄バンク設立に奔走された方です。彼女の著書『生きてるってシアワセ!」(スターツ出版)は、2008年3月テレビ東京系で「三十万人からの奇跡~二度目のハッピーバースディ~」としてドラマ化されました。大谷さんの骨髄移植普及における精力的な活動は広く知られており、今回も「医療現場の危機打開と再生をめざす超党派議員連盟」が舛添厚労大臣に申し入れを行ったのは、大谷貴子さんたちからの情報提供の結果です。患者が主体的に動き、医療の規制が緩和されていく、素晴らしい事例です。このような動きに対して、一国民として全面的にサポートしたいと思う方が多いでしょうが、実は、厚労省医政局臓器移植対策室や骨髄移植推進財団からは、直接、間接的に署名活動は迷惑だという連絡があったようです。官僚の視点が、国民から全く乖離してしまっていることを痛感します。【 提言: 医薬品・医療機器危機対策の重点化を! 】今回は、世界経済危機が医療に波及し、日本の行政がドタバタ劇を演じている様子を紹介させていただきました。今後、同様の問題が多数の薬剤や医療機器で起こるでしょう。これから起こる問題に対して、今回と同じような騒動を繰り返すのは、あまりにも愚かです。実は、この問題に対し、民主党の鈴木寛参議院議員が面白い提言をしています。彼は、今回のケースはオイルショックやリーマン・ショックの対応から学ぶべきだと考えています。いずれも石油、お金という国民生活に不可欠なものの流通が突然に途絶えました。このような苦い経験を糧にして、石油は国家が備蓄していますし、金融機関が破綻した際には預金者保護を目的として国有化などが検討されます。一方、医薬品は生命に直結するにも関わらず、供給が途絶えた時の政府の対応策が未確立です。そのため、およそ問題の本質とは関係のない混合診療や先端医療評価制度が検討され、議論は迷走しました。今回のようなケースを想定すれば、政府内、具体的には医薬品行政の専門家が集まる医薬品医療機器総合機構(PMDA)内に危機対策部門を設置し、適当な基金を創設して、供給不足が予想されるときに世界から医薬品を緊急輸入するような立法措置が必要でしょう。