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Vol.187 マスコミ報道への対応方法

医療ガバナンス学会 (2011年6月10日 06:00)


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今回の記事は、月刊『集中』2011年6月号所載「経営に活かす法律の知恵袋」第22回に掲載されたものです。

弁護士 井上 清成
2011年6月10日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


1. 非難論調の医療報道
2~3年前までは、医療事故を中心とし、医療者に対するバッシング報道が連日のように続いていた。そうこうするうちに、各地での医療崩壊現象が一般国民の 目にも明らかになってきた。調子に乗って医療者バッシングばかりしていたら、国民自らで自らの首を絞めてしまっていた結果に徐々に気付いたらしい。そのよ うな自覚の芽生えとともに、意図的なバッシング報道は自然と消えつつある。
しかし、残念ながら、非難論調の医療報道が完全に消えたわけではない。昨年10月には朝日新聞がんワクチン報道事件が起こり、本年3月の大震災直後にも双 葉病院バッシング報道があった。前者は、記者がターゲットを定めてじっくりと調べた上での報道で、いわゆる調査報道である。それに対し、後者は、緊急即時 の一過性の報道で、いわば事件報道とでもいえよう。前者の調査報道は、記者自らの意見主張を強引に押し通そうとしたかなり意図的な感のある非難報道であっ たのに対し、後者の事件報道は、医療現場の実態への想像力を欠いた記者たちが行政担当者の片言隻句だけで被災現場の状況を軽率にも誤解してしまった感のあ る非難報道であった。

2. 非難報道からの防御
医療者・医療機関は、故なき非難報道から自らを守るため、その防御方法を心得ておく必要がある。非難報道をされてしまった後の対処方法も大切であるが、そ れ以上に大切なのは、故なき非難報道をされないようにすることであろう。だからこそ、事前対策に重点を置かねばならない。
事前対策は、記者たちに取材のきっかけを与えないようにすること、そして、受けざるを得ない取材に対する応対の仕方、の2点が防御のポイントである。いわば事後対策よりも事前対策がより重要である。

3. 取材のきっかけを与えないこと
取材のきっかけとして中心的なものは、警察による発表や行政機関による発表、調査機関による発表、医療機関自身による記者会見、患者家族による通報、そし て、医療者による内部告発であろう。警察や行政による発表に関して、マスコミは、ほぼ裏付け取材なしにそのまま報道するのが通例である。そこで、警察・行 政が発表してしまったら、事前対策は非常に難しい。警察・行政が発表しないようあらかじめ対策を講じるしかないであろう。
まず、最も重要なことは、よく考えもせず漫然と警察や行政に事前相談しないことである。また、警察や行政に何らかの申告をせざるを得ない場合には、申告後も引き続き警察や行政に密着することが肝心であり、決して警察や行政任せにしてはならない。
調査機関による発表については、特に医療事故の届出・報告が注意を要する。各種の医療関連団体が届出・報告の事業をしているが、時にその団体が事故調査の 上で結果を公表してしまう。それが医療専門家の権威ある団体による調査発表であるだけに、マスコミはすぐに取材に動き出す。
医療機関自身による記者会見については、当然、直ちにマスコミ報道につながるので、慎重に行うべきであろう。一時、謝罪記者会見がいわばブームとなった時 代もあったが、自ら記者会見をしなければならない場合は実はほとんどない。その必要性をきちんと吟味すべきであろうし、記者会見を行う場合も慌てずに事前 準備をあらかじめ十分にすべきである。
患者や家族による通報に対しては、マスコミがそのまま報道することは少ない。必ず裏付け取材があるので、取材への応対が重要になろう。もちろん、患者・家族による故なき通報をも避けるためには、患者家族に密着するクリンチワークが大切である。
医療者による内部告発については、深刻なものがあるといえよう。むしろ医療機関自身のガバナンスの問題である。世に知られた大事件は、この内部告発がきっ かけであったことが多い。ただ、内部告発に対してマスコミは、調査報道のための取材という形で動くことが通例である。取材への応対が鍵となろう。

4. 取材への応対の仕方
往々にしてマスコミは、報道を衝撃的なものに仕立て上げたがる。事実の報道を衝撃的に仕立てるマスコミの要領の一つは、ポイントを局所に絞り込むことであろう。
できる限り局所に焦点を当て、しかも感情的・情緒的に読者・視聴者を揺さぶってしまう。こうすることが、報道をショッキングなものにする一つのコツである。
医療は生命や健康を扱うものなので、ちょっとしたことで衝撃的に仕立て上げられかねない。だからこそ、報道を諸事情や論理・体系・時系列を踏まえたものとさせるべく、取材への応対に全精力を注ぐことが要求される。
例えば、原子力発電所が爆発したときに隣接の精神科病院や老健施設が患者や認知症の入所者を置き去りにしたなどといったひぼう中傷の報道がなされた。しか し、現行の法律制度や医療体制では、自力歩行困難な施設内の患者すべてを速やかに遠くまで退避させる手段は、病院や施設にはない。まったく想定外の事態で ある。多数者の退避・長距離移動は、自衛隊に頼るしかなかった。ところが、二度にわたって4分の3以上の患者・入所者を自衛隊が救出してくれたので自衛隊 も行政も状況を分かっていたはずなのにもかかわらず、自衛隊は後に残された4分の1弱の患者をなかなか救出にきてくれない。
そのようなとき、自衛隊や行政に何らかのシステムエラーや連携ミスが生じたと考え、病院長が自ら自衛隊や行政のところに出向いて救援要請の直談判に及ぶの は、むしろ当然であろう。しかしながら、マスコミは局所のみにスポットを当て、病院長が病院を離れただけで「患者置去り」などと表現してしまった。
また、記者が自己の意見をどうしても発表したいがために、事実の報道の体裁をとってショッキングな記事を大手一般紙の一面トップに載せたこともあった。そ こでは、臨床試験上の用語と日常的な用語とが混同されて用いられてしまう。その記事の場合、「重篤な有害事象」という用語であった。
医療者や医療機関としては、たとえ悪意を持った取材に対しても、記者に用語のすり替えをさせないよう、用語の使い方も統一するなどして最大限の注意を払うことが望まれよう。

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