医療ガバナンス学会 (2011年6月16日 06:00)
(独)国立病院機構 北海道がんセンター
医学物理士 島 勝美
院長 西尾正道
2011年6月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
一方、内部被ばくは放射性物質を吸入、経口、および創傷部から直接体内に取り込み、体内からの放射線によって被ばくする事である。内部被ばくを低減させる ためには、マスクなどを着用し吸入によって取り込まないようにする事や飲食物から放射線物質を取り込まないようにする必要がある。
食品に含まれる放射性物質は規制値によって管理されているため、大量の放射性物質を我々の口から取り込むことはないが、食品の流通経路にない手段(山菜取りや魚釣りなど)で得られた物については周辺の放射線量の状況によっては注意が必要になる。
外部被ばくの場合は線源が体の外にあるために、個人線量計を身体に装着することによって被ばく線量を評価しやすい。
しかし、内部被ばくは線源が体内にあるため、摂取後から順次減少していく体内残留放射線量を測定し、摂取量を計算から求めて評価する必要がある。
6月3日に東京電力から発表された福島第一原発で働いていた東京電力社員2人の内部被ばく線量は30代男性が210mSv~580mSv、40代男性200mSv~570mSvと被ばく線量の推定に大きな幅を生じている。
これは、体内に摂取した放射性物質量の推定が身体を測定した日の放射線量と、放射線核種を体内へ取り込んだ日にちの関係から求められることに起因する。
また、注目されるべき事象は、外部被ばくが30代男性で73.71mSv、40代男性が88.70mSvの線量限度以下であるにもかかわらず、内部被ばくを加算した場合は、外部被ばくと内部被ばくの最小値の累積被ばくで、すでに線量限度を超えている事である。
内部被ばく線量の評価に必要な放射線物質の摂取量の推定は、ホールボディカウンタ(写真)を用いた体外から計測する方法、人体からの排泄物中の放射性物質を測定する方法、空気中の放射性物質の濃度から計算する方法がある。
ホールボディカウンタは体外から体内に残留している放射性物質の種類と量を測定する計測器であり200Bq~100KBqの測定範囲を持ち、評価できる被ばく量は約100mSv以下である。
そのため、対象となる核種はコバルト60、セシウム137、ヨウ素131などの体内を透過する能力のあるγ線放出核種である。
ホールボディカウンタは他の方法と比べ測定者に負担をかけず、簡易であり迅速に測定できるという大きな利点を持つ。
しかし、人体を透過しないβ線やα線放出核種の測定が困難であるため、環境に放出されている核種によってはホールボディカウンタの評価だけで内部被ばくが無いとは言い切れない。
今回の事故で大気中に放出された放射性核種について原子力安全委員会はヨウ素131が17万TBq、セシウム137は1万2千TBq(1TBq=1016Bqを表す)であると発表した。
発表された資料によると、大気中に放出された放射性核種の総量は微増の傾向を示しているが、現在は大気中への放出が少量であると考えられる。
しかし、原発事故が収束しておらず、今後は放出される放射性核種が無いと保障されている状況ではない。
また、残念ながらその他の核種については未発表である。
放射線による被ばくの大きな特徴は、被ばくした時点では全く何も症状があらわれていないとしても、時間の経過とともに何らかの症状が現れてくる可能性がある事である。
現在の体内残留量を正確に把握し自分のリスクを知ることは、将来への不安を取り除く一助になるだろう。また、被ばく線量はその後の医療対応を医師が専門的な立場から評価する上で非常に重要である。
今回の事故で懸念されている放射性核種はホールボディカウンタで計測可能であり、内部被ばくの推定は約100mSv以下であれば可能である。
ただし、内部被ばくの計算に用いる摂取量の推定において、摂取した日にちの特定が非常に困難であるため被ばく線量の評価は大きな幅を持った評価となると考えられる。
参考文献
1.「緊急被ばく医療基礎講座Ⅱ」テキスト 財団法人 原子力安全研究協会 2008
2.福島第一原子力発電所から大気中への 放射性核種(ヨウ素 131、セシウム 137)の放出総量の推定的試算値について 内閣府 原子力安全委員会 2011.4.12