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Vol.201 医療の法律処方箋―第43回・被災医療機関への支援

医療ガバナンス学会 (2011年6月27日 06:00)


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今回の記事はMMJ(The Mainichi medical Journal 毎日医学ジャーナル)6月号より転載いたしました。

弁護士 井上清成
2011年6月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


医療計画を変更して被災医療機関の支援を

1.災害復興地域医療計画
東日本大震災は、大地震・大津波・原子力発電所事故の1つ又は2つ以上が複合した激甚災害である。一般人のみならず、医師・医療機関も大きな被害を受け た。ただ、3ヶ月余りで復旧・復興への動きが進みつつある。医療は公益性が高いだけでなく、被災地復興の観点から見て、基幹産業ともいいうるので、特に医 療の復旧・復興は最重要事項と捉えてよい。抜本的かつ大胆な対策が講じられるべきだと思う。
その対策の一つとして考えられるのが、医療法第5章(第30条の3以下)に定める「医療提供体制の確保」のための「医療計画」である。地域医療計画ともい う。医療法第30条の4第1項は、「都道府県は、基本方針に即して、かつ、地域の実情に応じて、当該都道府県における医療提供体制の確保を図るための計画 (以下「医療計画」という。)を定めるものとする。」とした。同条第2項第10号は、これを受けて、「主として病院の病床及び診療所の病床の整備を図るべ き地域的単位として区分する区域の設定に関する事項」を医療計画で定めるものとしている。
ところが、この既存の医療計画は、特に岩手県・宮城県・福島県などの被災地において、大きく崩れてしまった。直ちに復旧・復興のために医療計画を見直し、 「(仮称)災害復興地域医療計画」などを作成しなければならない。現に、医療法第30条の6には、「都道府県は、…必要があると認めるときは、当該都道府 県の医療計画を変更するものとする。」という定めがあるので、この規定に従って作成する手立てもあろう。

2.被災地域包括の区域
医療法に基づく厚生労働省令である医療法施行規則第30条の29には、「区域の設定に関する標準」の定めがある。同条1号は、「区域については、地理的条 件等の自然的条件及び日常生活の需要の充足状況、交通事情等の社会的条件を考慮して、一体の区域として病院及び診療所における入院に係る医療を提供する体 制の確保を図ることが相当であると認められるものを単位として設定する」という。
この度の東日本大震災による被害に鑑みれば、岩手県・宮城県・福島県の沿岸部などは等しく被災地であるので、被災地域を包括し一体として区域設定するのが、法の趣旨に合致する。そうすれば、これが直ちに被災医療機関への支援にもつながるであろう。
もちろん各県の一部ずつにまたがるので、各県単独では区域設定できない。国が調整し整備すべきことであろう。医療法第300条の10第2項が「国は、…都 道府県の区域を超えた広域的な見地から必要とされる医療を提供する体制の整備に努める」と規定しているので、この定めを活用すべきところである。

3.被災医療機関への支援方法
被災医療機関の多くは地元での再開を望んでいるので、まずは補助金・助成金・優遇貸付などの手立てで再開を援助すべきは言うまでもない。しかし、それにとどまらず、もう一歩踏み込んだ抜本的で大胆な支援の施策を講ずるとよいと思う。
もともと医療法第30条の3は、地域医療計画の前提として、国が「医療提供体制の確保に関する基本方針」(略して、基本方針)を定めるものとしている。そ こで、国がまず「(仮称)災害復興地域医療計画」に関する「基本方針」を定めるべきであろう。その上で、各県が国の調整の下で共同の被災地域包括の一体的 区域設定をすればよい。
その際、被災医療機関への一体的区域内での支援の柱は、
1)公有地・公有建物の被災医療機関への無償貸与、
2)区域内の医療機関すべての診療報酬の包括一体の引上げ、
とするのがよいと思う。一体的な区域設定をして、国が基本方針を定めることによって、地方自治法などの公有財産の管理上の縛りを解き、かつ、健康保険法に 基づく診療報酬の点数の定め方に地域的な柔軟性を持たせる。これらの柱に基づく諸々の被災地支援をすれば、特に民間の被災医療機関の再開と復興を促進でき ると思う。

4.公有財産の無償貸与
被災地では、民間の医療機関のみならず、自治体の医療機関も損傷した。もともと被災地はいわゆる医療崩壊が進んでいた地域が多かったために、民間も自治体 もその復旧をしただけでは十分ではない。将来を見込んで、被災地の医療復興つまり医療再建、さらには医療振興を目指すべきであろう。とは言え今後、被災自 治体には各分野にわたる復旧・復興の多くの使命が課せられるので、どうしても医療振興までにはなかなか手が回らないことが予想される。
すると、医療振興の主役は、被災医療機関をはじめとした民間の医療機関とならざるをえない。と言っても、民間の医療機関には一からの出直しに伴う二重ロー ン問題など、数々の困難が待っている。基本的な設備投資を軽減するために、地方自治体の所有している土地・建物を適宜、無償貸与するのも考えうる方策かと 思う。そして、地方自治体の公有財産の無償貸与を法的にも正当化するために、国が災害復興地域医療計画の基本方針を立ててリードすることが要請される。

5.診療報酬の区域内での一体引上げ
国家財政上の厳しい制約があるとは言え、この度の災害復興に国としてはいずれの方法にしても、巨額の公共投資をせざるを得ない。特に被災地域のフリーアク セスを含めた国民皆保険制の崩壊を食い止めるためにも、国民皆保険制維持を目的とした公共投資をしなければならないであろう。当面は被災者の一部負担金も 軽減またはゼロとせざるをえない。つまり、あたかも新たな公費負担医療を災害復興用に創設するが如きである。
しかし、単なる補助金・助成金・優遇貸付だけではもちろん、災害復興用に特別の公費負担医療を創設したとしても、被災医療機関にとってはさほど大きな支援 とはならないように思う。大切なのは、被災医療機関がその自主自律の再建方針を立てられるような診療報酬システムを採用することである。さらに付け加える と、同じ公共投資ならば被災地域の経済復興にとって波及効果が大きい方がよい。
したがって、被災地域包括の一体的な区域においては、被災地域復興の経済効果も考え合わせた上で、被災医療機関への実りある支援のために、診療報酬、特に基本診療料を包括一体的に大幅に引き上げることが適切だと思う。

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