医療ガバナンス学会 (2011年6月28日 06:00)
インタビュー(上)「2011年3月11日以降のメディア全体の対応」
東京大学大学院新領域創成科学研究科
サステイナビリティ学教育プログラム
修士課程2年
廣瀬雄大
2011年6月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
Q1)
はじめに、2011年3月11日(金)の東北地方太平洋沖地震と巨大津波から今日までのメディアの対応ついて振り返っていただけますか?
A1)
2011年3月11日以降、特に東北地方での出来事を、いろいろな角度から正確に報道することができているかどうかについて最大の関心がありました。東北地方の岩手・宮城・福島、いわば被災3県では、比較的経営規模の小さい放送局によって運営されています。かろうじて宮城県の放送事業者は100人以上の社 員を抱えていますが、この経営規模で今回の大震災に直面した3月11日以降、メディアとしての役割を果たせたかどうかについて大きな関心を抱いておりましたが、震災関連のニュース等の放送時間は各放送局ともに3月11日以降24日までに250時間にも上りました。したがって、震災報道に費やした時間という 点では、被災3県の放送局の経営規模や地元取材力が乏しいと以前からささやかれていた割には、NHKに遜色なく行うことができました。各系列とも、東京から鹿児島まで、東日本を中心に全国から平均200人ほどの記者を集め、全力で取材に取り掛かりました。この点に関しましては、メディアとしての責務をクリ アできたと思っております。
しかし、取材に入ったのはいいのですが、報道を通して社会に伝えることができたかどうかについては、まったく別問題でした。大震災の数時間後には大規模な停電があり、自家発電に切り替えて電力を賄わなければいけませんでした。各放送局は報道するにあたって大変多くの電力を必要としますので、電力不足により報道ができなくなるリスクが懸念されました。東北地方の各放送局はこのような困難に直面しましたが、隣県をはじめ系列の放送事業者の支援を受けて、自家発電に必要な燃料を確保し、放送を継続することができました。報道がストップするような事態には陥りませんでした。
それから、1995年の阪神・淡路大震災の時と比べると、ラジオが活躍する部分が小さかったように思います。理由として2つ考えられますが、基本的には受 け手側に要因があったのだと分析しています。1つは、ラジオ受信機を持っている方々が、あの当時よりも大幅に少ないことです。2つ目は、ラジオを聴く際に 必要な乾電池の供給不足により、ラジオを使用できない状況が続いたことだと分析しています。ですから、「ラジオが一番頼りになるメディア」といわれていた 阪神・淡路大震災の当時とは、全く違う状況になっているわけです。さらに、中継局の損傷は深刻でした。東北地方の海岸地域では、報道において大変重要な役 割を果たすべき中継局がまったく機能していなかったケースがいくつもありました。代表的なものを一つ上げますと、東北放送のラジオ親局設備が海岸沿いにありますが、大震災で電力供給がストップし、しばらくは自家発電装置が動いていましたが、津波により燃料を補給することができずに動かなくなりました。被災 地内では中継局の損傷が特に大きかったのです。
2011年3月11日から今日までのメディアの対応を振り返ってみると、東北地方の取材は、ほぼ万全の体制が取れたと認識しています。肝心の中継局の電力供給も自家発電等でほぼ中断することなく、放送を継続することができました。ここ最近の動きですが、被災地内の中継局の復旧作業に取り掛かっています。しかし、被災されて家を失った方々や亡くなられた方々が多数いるのですから、まずは中継局の復旧よりも被災地の皆様の復旧に目を向けるべきであると思っております。
Q2)
私は4月29日(金)に、岩手県釜石市に医療ボランティア活動に行ってきました。大震災から約50日経過していた時点でも、全く復旧作業が進んでいない状況を目の当たりにしました。会長はさきほど「取材に関してはほぼ万全な体制が取れた」とおっしゃいましたが、釜石市では報道陣を見かけることはあまりありませんでした。これに関してはどう受け止めていますか?
A2)
関東からの距離と交通の便も考えて、被災3県で言えば、本来は福島県が一番行きやすかったのではないでしょうか。福島第一原子力発電所の事故もあり、さら に注目度が上がっています。原発周辺も含め、取材活動も徐々に活発化しているのではないでしょうか。宮城県仙台市 は、山形県の飛行場を通じてなんとかアクセスすることができ、取材活動を進めることができたと聞いています。そういった意味で、岩手県釜石市へのアクセス は一番難しかったと思います。さらに重要な点は、現地の自治体までもが津波によって被災し、被災がどこの地域で起こっているのか、どこの自治体が連絡とれ ているのかなどが分からない状況が続きました。阪神・淡路大震災で教訓になったことは、自治体そのものがしっかりしていたので、そこが取材の足場になって いたことです。ところが今回は、自治体が被災していて機能していないことすらメディアに伝わってこない状況が続きました。後から分かったことですが、大変 悲惨な状況が長時間にわたって続いていた実態が明らかになってきたわけです。この部分が、これからメディアが改善していかなければいけない課題の一つだと 痛感しています。
3月下旬には、汚染水で被ばくした原発作業員3人が放射線医学総合研究所に入院しました。汚染水で被ばくしたという事実は、世間からみれば最大のショック として受け取ったことは間違いありません。しかし、大問題かと思ったのですが、3日後には退院していました。この報道を見たとき、何が深刻な問題で、どこまでの被ばくが大丈夫なのかなど、さっぱり分からないまま今日に至っているという印象を持っています。
Q3)
それではマスメディア全体としての改善点は、その他にどのようなことがありますか?
A3)
マスメディア全体として改善しなければいけないと思う部分は、個人的に2点あると思っています。1つは、津波警報の報道内容です。巨大地震の後、津波警報 の情報が関東でもずっと流れていました。実際に津波が到達するまでに約30分あると報道されていました。この報道の時点で、どのような津波が来るのか、リアス式海岸に到達したときには10メートルに膨れ上がるなどの一番肝心な情報が適切に報道されたかどうかは分かりません。このような情報が適切に報道されていれば、もっと人命の被害は少なくて済んだのではないかと個人的に思っています。2つ目は、気象庁と自治体の自然災害におけるこれまでの体制・対策です。当時、仙台市内で聞いた話なのですが、少なくとも地震の揺れによって人命を失ったケースは一つもないということでした。もしほとんどの被害が津波によるものであるとすれば、気象庁や自治体は果たして津波の大きさや深刻さを予測できる体制をこれまでとってきたのか、という点も非常に気になるところです。 この点に関しては、メディアとして何かやるべきことはあったのではないかと反省しております。気象庁に取材をして、当時の詳細を突き止める必要があるので はないかと思っています。
(中)へ続く。