医療ガバナンス学会 (2011年8月16日 06:00)
2.口腔ケアとは
口腔ケアというと虫歯予防のための歯磨きというイメージを持つ人が多いと思います。確かに口腔ケアの目的は、口腔内を清潔にし、虫歯や歯周病にしないため に、口腔内の病原菌を少なくする事と考えられています。しかし近年、口腔ケアの考え方が変わってきました。即ち、食べる、話す、さらには呼吸機能の維持、 虫歯や歯周病をはじめ様々な口腔内の中の病気の予防を目的になってきました。特に、口腔病原菌による肺炎の誘発は社会問題化しています(参考資料3)。
3.被災地における口腔ケアの実際
1)被災直後の口腔ケア
実際、被災地での口腔ケアについて被災地では、水不足、物品不足などの問題から、歯ブラシや入れ歯の洗浄、口の粘膜の掃除、うがいなどの口腔ケアが困難と なります(参考資料1)。阪神・淡路大震災では、高齢者や体の弱った方に肺炎が起こりましたが、これらの多くは、口の中の汚れ(細菌など)が唾液とともに 肺の方に入ってしまうために起こる「誤嚥性肺炎」と考えられます(参考資料3)。さらに栄養状態が悪かったり、飲み込みの状態が悪かったり(嚥下障害)す ると、この誤嚥性肺炎を起こす危険性が高くなるおそれがあります。それゆえ、軽視しがちな口腔ケアをしっかり行う必要があります。しかし、震災直後は 「水」の供給状態が悪い場合が多く、「水」を大切にし、口腔ケアをする必要性があります。
2) 長期化する被災地での口腔ケア
長期化する被災地での感染症予防は大きな課題です。口腔ケアは感染を防ぐ重要な対策の一つであることは感染症の専門家のなかでは認知されています。現在、 東日本大震災被災地においてオゾン水による感染症対策を展開しています。具体的には、被災地の避難所などにおいての被災者やボランティアに対して、復興支 援のなかで「うがいによる口腔ケア」、「出入口での手洗い」、「長靴の除菌脱臭」、そして、「訪問医療時の褥瘡ケア」さらに「給食センターなどの施設や用 具に対して除菌脱臭」、「がれき除去後の建屋の除菌脱臭」にオゾン水を活用しています。
4.オゾン水の有効性
紫外線から生物を守っているオゾン層であり、そのオゾンを水に溶解したオゾン水は、多くの分野で活用されてい
ます。少々の電気と水さえあれば生成可能なオゾン水は、多くの効果を兼ね備え、かつ酸素に戻るため地球環境に悪影響を及ぼしません。既に科学的にオゾン水 の殺菌性や安全性は確立されています(参考資料4)。しかし、認知度の低さはこれまで、オゾン生成器が大型であったことや高価であったことが否めない事実 です。
オゾン水の利点は、ガスと異なり呼吸器系への侵入が少ないところにあります。オゾン水は適切な使用を行えば人体に影響を与えるような事はなく、さらに手や 皮膚を洗っても、肌荒れなどの心配がありません(参考資料5)。さらに、オゾン水は眼科領域では普及し、眼の消毒に実績があり(参考資料6)、また使用に 際して資格も必要ないため、誰でも簡単に使用することができます。
一方、インフルエンザの予防としては、オゾン水による手指消毒(手洗い)、うがいが効果的と考えられています。一般的に、ウイルスのオゾン耐性は、芽胞菌 と栄養細菌の中間にあります。エンベロープ(外套)を持たないノロウイルスは、栄養細菌に近い低濃度オゾン水による不活化が可能であります。そして、細菌 のみならず広くウイルスも不活化するオゾンは、分解後酸素に戻るため、環境に優しい特長を持っています。また、耐性菌を殺菌できることや、抗菌薬と比較し て耐性菌ができないため(参考資料7)、被災地での利用に最適であり、更に今後の災害時の感染対策として極めて有効と考えます。さらに、体に染みついた臭 いや様々な感染源の除去に体ごと丸洗いできるのがオゾン水であり、被災地の自衛隊隊員にも好評でありました。
一方、口腔ケア用のうがい薬には、ポビドンヨード、グルコン酸クロルヘキシジン、臭化ドミフェン、塩化ベンゼトニウム、アズレンなどが使われています。 また,院内処方されるうがい薬としては,オキシドール、炭酸水素ナトリウム(重曹)などがあります。これらと比較して、オゾン水は、乳児のNICUでおへ その消毒(参考資料8)や眼粘膜(参考資料6)で使用されているほど細胞毒性が極めて低く、副作用がでないと報告されています。さらにオゾン水によるうが いの効果も報告されている(参考資料9)。
5.人にも環境にも優しいオゾン水を用いた被災地への支援プロジェクト
下記にオゾン利用の現状を示しています。すなわち、医療、介護のみならず既に広く公衆衛生にて普及しています。私たちの研究グループは、長年安定的なオゾ ン水濃度供給ができる生成装置の小型化と、オゾン水の病原細菌への殺菌作用の基礎・臨床研究を探求してきました(参考資料10)。今回、安全性(参考資料 11)と殺菌性を科学的に証明されたオゾン水を用いて震災発生後の4月上旬よりボランティア活動をおこなってきました。下記にオゾン水の使用実態と被災地 でのボランティア活動実績を示します。なお、インフルエンザウイルスをはじめアデノウイルス(参考資料13)やHIVウイルス(参考資料14)、ノロウイ ルス(参考資料15)ついてもオゾン水が有効であることが発表されている(参考資料12)。ノロウイルスはアルコール系消毒剤では効果がないがオゾン水で 効果が認められており、消化器症状への効果も期待される。
(1)オゾンの利用実態
公共関連:全国自治体の上下水道の消毒、下水処理施設の悪臭防止システム、公共トイレ洗浄など
医療関連:医療用具認可(オゾン水手洗機、オゾンガス滅菌装置、オゾン水内視鏡洗浄機)、各種感染対策など
介護関連:手洗い、体の清拭、おむつかぶれ、あせも、ベッドの消毒、浴槽消毒など
その他:オゾン水洗濯機、冷蔵庫、カット野菜、食品加工全般、獣医領域、半導体洗浄など
(2)東日本大震災ボランティア活動実績
岩手県大船渡市:三陸保健福祉センター 出入口での手洗い、長靴の除菌脱臭、給食センターでの使用
岩手県上閉伊郡大槌町:おおつち保育園 がれき除去後の建屋の除菌脱臭、ボランティアの除菌・脱臭など
宮城県石巻市:石巻市災害ボランティアセンター ボランティアの除菌脱臭、器具の除菌脱臭など
宮城県石巻市:石巻市立湊中学校(避難所) 避難者・支援者の除菌脱臭、器具の除菌脱臭など
宮城県気仙沼市:赤十字による訪問医療時の褥瘡ケアとしてオゾン水活用
6.まとめー現場の声から
阪神・淡路大震災と東日本大震災のような大規模大震災を経験した我が国において、国、地域による保健医療体制が必要です。そのため指示系統を統一化した大 きな枠組みとなるそのシステム構築が必要であるはずです。また、地震関連死のひとつとしてトップとして肺炎があげられることから、口腔ケアは被災者の命を 守るための総合ケアであると思います。しかし、被災地では歯科医師や歯科衛生士の数は十分とはいえません。看護師や保健師と協力し、肺炎予防には軽視しが ちな口腔ケアが重要な役割を果たすことを被災された方々全員に十分に説明しなければなりません。また、復興の中での被災地での感染症対策としての手洗いや 口腔ケアと併用してオゾン水の活用は科学的にも有効であると考えます。
被災地の現場では、様々な声がありました。例えば、乳幼児にはミルクや離乳食の補充が、嚥下障害が認められる高齢者や障害者には嚥下しやすい食品が求めら れておりました。また、義歯がない人には食べられないものが多く、義歯があっても硬くて冷えた食べ物は食べにくくなっていました。それゆえ、災害時にはま ず健康調査という名目で、医療従事者が避難所や家庭を訪問して住民の健康状況の把握を行い、現場の声から訪問看護も含め医療支援計画が立てられなければな らないと思います。
参考資料:
1)「大規模災害時の口腔ケアに関する報告集」http://www.tmd.ac.jp/dent/os1/research_nkkk/additional.pdf
2)阿部 修,石原和幸,奥田克爾,米山武義:健康な心と体は口腔から-高齢者呼吸器感染予防の口腔ケア-, 日歯医学会誌,25:27-33,2006.
3)米山武義:口腔ケアと誤嚥性肺炎, Geriatric Medicine, 35:167-171,1997.
4)赤堀幸男、村上篤司、星昭二:オゾン水の殺菌効果と院内感染への応用 日本集中治療医学 2000,7
5)中村俊彦,板橋家頭夫,小川雄之亮: NICUにおけるオゾン水による手洗いの有用性-他剤手洗いによる手荒れとの比較検討-. 日本未熟児新生児学会雑誌, 12:43-46,2000.
6)花崎秀敏:オゾン水による洗眼消毒と白内障術後経過, 眼科手術, 13:456-458,2000.
7)内藤茂三:オゾンによる微生物制御1、月間HACCP、7,62-68,1997
8)水野克己:オゾン水による臍部のMRSA殺菌効果に関する検討. 周産期医学, 31: 419-421, 2001.
9)久野彰子、鴨井久博、小川智久:オゾン水の含嗽による効果 日本口腔機能水学会5.1,28-29
10)王 宝禮,岡部俊一: 機能水を用いた歯科医療-オゾン水による院内感染予防対策とインプラント治療-補綴臨床,44:320-325, 2011.
11)星昭二,桜井護,北川敏:オゾン水による急性、亜急性毒性試験, 静済会医誌, 12:89-95,2006.
12)塩田剛太郎:日本医療環境オゾン研究会 増刊3号環境分野におけるオゾン利用の実際 2007
13)増田道明. 直接電解方式で生成したオゾン水のウイルス不活化作用, 第51回日本ウイルス学会,2001.
14)仲宗根正,村上篤司,吉崎ひとみ: オゾンによるHIV不活化効果の検討, 第8回日本エイズ学会,2000.
15)土居俊房:オゾンおよび塩素によるネコカリシウイルスの不活化,日本医療環境オゾン研究会,2011