医療ガバナンス学会 (2011年8月31日 16:00)
日大が撤退して、現在後継に名乗りを上げている医療法人の選定が決定した場合、練馬区だけでなく、東京都北西部と埼玉南西部の小児医療に深刻なダメージを来すため、この理不尽な撤退騒動を何としても食い止めないといけません。
しかし、7月15日に問題が発覚してから、9月中旬の後継病院の選定終了するまで時間があまりに足りないため、緊急的に多方面に協力を呼びかけております。
この問題は練馬区の一地域の問題に留まらず、日本中のどの大学附属病院でも起こりうる問題だと理解しておりますので、何卒ご援助もしくはご助言をいただければと思います。
病院撤退決定の過程で、練馬区と日本大学法人本部は、医療現場の医師や職員、医学部教授および医学部長、地域住民、練馬医師会、練馬区議会に一切連絡も相談もすることなく、病院撤退を決定しました。
現在、後継病院の選定作業が進められていますが、現在の医療水準、特に小児医療を維持することは、現実的にまず不可能と考えられ、このことは練馬医師会からも同様の指摘をされております。
今回の撤退の理由となった日本大学本部の「累積赤字90億円」という広報は、誤解を招くため説明が必要です。
日大附属病院はそれぞれ独立採算制をもつ病院ではなく、その会計は年度毎に日本大学全体で処理されます。
つまり平成3年度から平成22年度まで毎年平均4.5億円の赤字がありましたが、その赤字は毎年年度末に日本大学全体で処理され、年度初めには赤字は0の状態にもどります。
つまり処理可能な赤字の範囲であったということです。
「累積赤字」というと今から返さないといけない90億円の借金が貯まっているというイメージを抱きますが、実際には年度を超えて「累積」した赤字は一切無 く、さらに昨今の病院経営刷新の努力により、平成22年度は赤字が1億円まで減少し、今年度は4~6月の3ヶ月間で、昨年度同月比と比較し、計1億8千万 円の黒字となっております。
日本大学本部が理事会で撤退を協議したのは平成21年11月が最後で、驚くことに、それ以降本日まで光が丘病院について理事会で協議されたことは一度もありません。
つまり、病院職員の努力により黒字化した現在の状況を一切協議することなく、2年前の協議内容(実際に撤退について理事会で決議した記録がないのですが、なぜかいつの間にか撤退が決定している)を押し通そうとしているのです。
20年間も人命を守る地域医療の中心的役割を果たし、とくに小児医療については練馬区内に留まらず、東京都北西部と埼玉南西部の広範囲の地域医療を担ってきた病院の進退を決定するのに、このようにずさんで社会的責任を一切無視した態度は許されるべきではありません。
この問題が発覚した状況を説明いたします。
7月15日に日本大学本部から「練馬光が丘病院を撤退する」旨の通知がありました。
驚くことに医学部長ですらも、この決定に関する事前通達はなく、医学部長へは7月12日夜に大学本部からFAX1枚で通告があったと聞いております。
この廃院問題に対して7月13日に開催された日本大学医学部教授会では、「全員で練馬光が丘病院の経営継続を模索することを合意した」としております。
撤退についての重要な問題が、医師のトップである医学部長や病院長、さらには地域の医師会や議会に一度も相談されることなく、大学本部と練馬区の協議のみで決定するということは異常と思います。
日大側の撤退の理由は、契約期間の終了と経常的な赤字の2つを原因としておりますが、もともと練馬区と光が丘病院は平成3年に30年の契約を取り交わして おり、なぜこの時点になって突然、民法604条を取り出して、契約終了を訴えることになったのか不明で、後付けの理由と言わざるを得ません。
病院赤字問題については、先程も述べたとおりです。
ここまで述べると悪いのは日本大学本部だけと思われるかもしれませんが、練馬区側も今までの対応が決して良かったとは言えません。
東京都都議会の民主党の野上議員が以下のように指摘しています。
「東京都内にある約300~480床規模の自治体病院(光が丘病院は344床)で、自治体からの補助金は、毎年5億~29億。例えば、公立福生病院の場合、医薬外収益・他会計補助金として周辺市から約16億円が総収益に入っている(注1)。もし練馬区が日大光ヶ丘病院を練馬区あるいは周辺区市も含めた自治体病院 として位置付けていたのなら、年1億円強の補助はとても十分とは言い難い。区が建設した病院施設建設費用約47億円の減価償却分を補助の一つとして計算し ても、他の自治体病院と比べてかなり経営が難しくなるのは明らかで、むしろ、日大光ヶ丘病院が、わずか90億円の累積赤字で踏みとどまっていたことのほう が不思議なくらいだ。しかも、今年度からは黒字、来年度からは3~5億円の黒字見込みの試算が出ている。」
練馬区側は日大側に十分な補助をしてきたと公言しておりますが、日大光が丘病院が独立採算制でなく、日本大学全部で会計処理が可能だったことにつけ込ん で、他自治体と比較しても、あまりに低い経済的支援を20年間も続けて、自らの正当性を誇示する姿に違和感を感じずにはいられません。
日本大学本部は、その交渉態度に問題があるにしても、「病院経営は慈善事業ではない」という彼らの主張は正当であると考えます。
練馬区は今まで赤字を抱えながらも20年間の地域医療を支えてきた日本大学に対して感謝するべきで、今までの支援体制を見直し、新たな経済支援策をまとめて日大側に提示して存続を求めるべきだと思います。
また、練馬区はこのことを議会や区民に説明するべきであり、説明義務も果たさず水面下で交渉を続けた練馬区の態度は、区民に対する誠意のかけらも感じません。
本当に「区民の健康を第1に考えている」なら、まず行うことは区長自らが区民へ説明するべきだと思います。
そもそも今回の混乱を招く原因となった日大と練馬区の「水面下」交渉は、練馬区側からの要請で「非公開」になったわけですが、公開されない事をいいこと に、平成22年2月の時点で平成24年3月末に日大が撤退することを知りながら、今年4月の区長選挙で日大を含めた5大病院構想を掲げて当選してしまった 区長は相当問題があると思います。
さらに平成22年8月を最後に、日大側への交渉を持ちかけた記録は一切無く、それで練馬区は日大を批判することができるのでしょうか?
日本大学本部の態度も許せないですが、それと同様に練馬区側の態度も許されるべきではありません。
両者ともに地域医療に責務を持つ機関として、もっと真剣に向き合い協議をするべきです。さらに練馬区議会も、この問題についてほとんど練馬区側の言いなりであり、行政と司法が分離できているとは言い難いです。
現在の状況をまとめると、
1.日本大学本部と違って、大学医学部や病院の現場は、練馬光が丘病院で医療を継続する意思があり、継続できる状況にあること。
2.一番簡単なのは日大が残ることで、住民側も医療者側も共にメリットがあること。
3.区民と練馬医師会の中で、急速に日大光が丘病院の存続の声が高まっていること(5週間の署名で1万2千筆)。
4.区が提示した公募骨子の内容は非常に荒く、現在の練馬光が丘病院の機能は全く保証されていないこと。
です。
練馬区が提示した公募から選定までのスケジュールは非常に短く、練馬区側が議会や住民に議論の余地を与えないという意図が汲み取れます。
現在、後継病院の公募には4法人が名乗りを上げ、既に1法人が辞退しておりますが、残りの3法人(大学法人は入ってない)のどの法人が来ても、現在の小児 医療体制(日大光が丘病院小児科は、年間8,000~10,000人の夜間小児救急患者に対応し、それを総計20名以上の小児科医で維持している)を引き 継ぐことは100%不可能です。
この事は練馬区も練馬医師会も認めております。
万が一、この中で後継病院の選定(9月中旬~末に決定)が決定してしまった場合に、地域の小児医療の崩壊は確実で、その代償は人命であるということを、練馬区も日本大学本部も練馬区議会も理解するべきです。
地域医療というのは、こんな下らないことで壊れてしまうのかと、医療を支えてきた医師の一人として非常に無力感を感じます。
なんとか、この問題を広く社会に訴え、地域医療の崩壊に歯止めを掛ける協力をお願いできないでしょうか?
7月22日から署名活動や練馬区への嘆願、各練馬区議員や医師会への協力要請、国会議員に依頼し理事長への説得、区民集会の開催など、あらゆることをしてきましたが、事態は悪化へ進むばかりです。マスメディアとしても問題が複雑すぎて、記事にするのが難しいようです。
とにかくこの問題は発覚してから、全てが手遅れになるまで、ほとんど時間がなく、非常に緊急性の高い問題です。
日大光が丘病院存続および地域医療の安定化のために、御助言および御協力をいただければ幸いです。
ワラをもつかむ思いで、この文章を作成しております。何卒よろしくお願いいたします。
(注1)
編集部より:配信後、筆者より下記のとおり修正がございました。
-訂正とお詫び-
その金額は平成23年度予算では
運営負担金 723209000円
建設負担金 814558000円
合計 1567369845円 です。
合計では確かに約16億円になりますが、私が言う「他会計補助金」は約7億2000万円ということになります。
駿河台日本大学病院小児科 齋藤 宏
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