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Vol.278 ポリオワクチン問題~個人輸入のIPVに世田谷区って公費助成できないのだろうか?その4~

医療ガバナンス学会 (2011年9月28日 06:00)


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日本国主権者、東京都民にして世田谷区民
真々田 弘
2011年9月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


著者冒頭注記:国によるポリオ予防接種の現況に鑑みて、医療専門家にぜひ注視し、ご意見頂戴したい

この秋、日本はポリオのアウト・ブレイクのリスク・ラインを、大きく乗り越える可能性が高い。いや、既に、リスク・ラインは越えているかもしれない。な ら、何ができる…と、様々な最先端の現場で取材してきたテレビ屋の血が騒いでいる。このメルマガをお読みになっているのが基本的には医療の専門家である、 ということを基本として、何で、私の血が騒ぐ状況になっているのかをお伝えする。異論があるならそれでいい。こっちはただのテレビ屋感性。ただ、それが当 たったら…。

6月末に始まった本稿が、今、晩夏にかかる。本稿がスタートした時点の状況評価と今の時点での私の状況評価=とりわけ坑ポリオ・ウイルス・ワクチンの日本 での必要性という根本的な評価=が、実のところ大きく変わってしまった。私が提案した不活化ワクチン(eIPV)接種への公的助成制度の必要性に変わりは ないのだが、その理由、必要性の緊急度について、この春の予防接種現場の情報、夏に入っての予防接種現場からの傾向報告を受け変更せざるを得なくなったの だ。つまり私が当初提起したIPVへの助成の主目的であった「VAPPを防ぐためのIPV」への助成ではなく、春の定期接種の結果を受けて、日々リスクが 高まりつつあるポリオのアウト・ブレイクを防ぐための重要な選択肢として、IPVへの積極的な助成をもなすべきである、と変わったということだ。

以下、私の論理を是非、是非、検討してみていただきたい。叶うなら、地元自治体でのポリオワクチン接種データをお手元に置きながら。

○2011年9月8日 電話でのヒアリング記録○
相手:みなと保健所保健予防課保健予防係(保健サービスセンター)
照会内容:ポリオワクチン定期接種の平成23年度春の接種率ならびに前年の同データ
回答:
平成23年度春の定期接種接種率実績
一回目接種率:52.1%、二回目:70.91%、全体:61.01%
平成22年度春の定期接種接種率実績
一回目接種率:81.1% 、二回目:81.44%、全体:81.29%

私が世田谷区に対して国未承認のポリオ不活化ワクチン(eIPV)への助成制度を求めて訴え始めたのが盛夏に向かう6月の末。そして、猛暑が終わる8月 末、朝日新聞は「ポリオ予防接種低調 改良ワクチン待つ動き」と題する記事で首都圏自治体の春の生ワクチン(OPV)定期接種率が低下していると伝えた。 記事によれば、川崎市では2010年度の94.1%から2011年度81.1%に、東京江東区では例年90%台だったものが70.1%に、千葉も前年比8 割に減…。
この件は気になっていたので、6月段階で世田谷保健所には問い合わせていたのだが、当時は「未集計」(その後、世田谷区からは9月9日に概要を受け取る。昨年同期比、全体で2割減。1回目接種に限れば3割減となっていた)。
ということで、ウェブ上でも「低下が酷い」と話題になっていた港区に詳細を問い合わせてみた結果が上記となる。私の予想を超えた惨状だといえる。

今春の定期接種率の低下を、私は、そしてお恐らく多くの方が予想していた。
昨年夏以来、マス・メディアを通じてOPVによってポリオが発症するというVAPPについての知識が広がり、それを防げる手段としてのIPVが手に入ると 伝えられていたこと。保護者たちのOPVへの不安に応える形で、ウェブ上に多くの情報を提供するサイトが誕生し、自身の体験談からはじまり海外の最新のワ クチン情報に至るまでが簡便に手に入るようになったということ。そして、多くの医師たちの努力と決断によってIPV個人輸入が広がり、現実のものとして IPVの選択可能性が広がったということ。
さらに、この春段階で言えば、昨年末のポリオの会の方々をはじめとする「IPV緊急輸入」を求める声を厚労省が一顧だにせず拒否したという事実。

以上の条件を合わせれば多くの保護者が春のOPV定期接種を拒否することは予想可能だったので、朝日の記事では正直なところ驚きはしなかったのだ。だが、それは間違っていた。定期接種には、二つの層が混在している。
この春に二回目接種の方。つまり去年の秋、まだOPVのリスクについての情報が今ほどは多くはなく、IPV接種可能な医療機関も全国に十数か所しかなかっ た頃に定期接種を受けた方々。既に昨秋に一度、OPV投与を受けていてVAPP発症リスクが少ないし、何より「何もなかった」安心感を既に持っている層 だ。それでも、実に1割も減っている、というべきなのだろう。
そしてもうひとつの層が、この春に一回目接種を向かえた方々は、まさにOPVが危ないという情報があふれ出す頃に生まれた子どもたち、そしてお母さん方。 「ママ友が集まればワクチン話」は、多種多様なワクチン接種日程に悩む(しかも、単独接種中心!!)母親たちにとって当然のことだし、その話題の中でポリ オという治療法の無い病気について、そしてワクチンについて大きな話題となるのは当然のことではある。無垢なわが子を守るための判断なのだ。

そして、その結果が出た。OPV接種率50.1%という港区の数字は衝撃的だ。
既に報じられた他の自治体でも同様の傾向があると推定すると、全体で2割減なら、一回目接種対象者は3割減。港ほど極端でなくても、6割台の接種率とな る。しかも、行政ではOPVを接種しなかった数はわかっても、OPVを拒否した接種対象者がその後どうなったのかをフォローアップしてはいない。ポリオに 対する予防接種体制に、巨大な空白が生まれている(参照1)。

そして、秋の定期接種が既に一部の自治体では始まっている。私の予想では、状況はさらに壊滅に向かって進む。なぜならこの春、一回目を拒否した母親たち が、今さらOPV接種に変更する可能性は低い。マス・メディアによるVAPPについての報道は一時の勢いを失ってはいるが、その記憶が消えたわけではな く、ウェブ上の情報は増加し、内容を濃くし、一層入手が簡易となっている。

さらに5月末。厚労省は「来年度中には三種混合+IPVワクチンが来年度中に導入される」とアナウンスしてしまった。一部新聞はそれを「安全なワクチン、 来年から」と伝えた。それ以降、ワクチン接種に携わる医師たちからはDPTの接種を控える行動が見られるようになっていると警鐘が鳴らされ始めていた。こ の件については、これまで新四種混合ワクチンについて自治体に対して一切の情報をおろしてこなかった厚労省が9月7日づけで都道府県宛に出した通知を見る と、厚労省の慌てぶりが理解できる(参照2)。

厚労省にも、自治体窓口にも「本当に来年になれば新しいワクチンが打てるのか」と「それまで待ちたいのだが」との問合せが殺到しているから出た連絡なのだ ろうと。この通知の文中の「早ければ」という言葉の意味は重い。来年度春は絶対に無い!!。秋ですら、間に合わない、ほぼないであろうと匂わす言葉ではな いだろうか。

実際、DPT+IPVへの移行を目指す検討会の第一回会合があったのが8月31日。これから1か月半から2か月に一度、6回の検討会を経て以降のための手 続きを決める。その「慎重な」検討の結果を受けてから(国産ワクチンが予定通りに検定を通るという前提で)、現実に国産四種混合ワクチンが子どもたちに接 種できる体制=行政側・医療側の体制整備、国・自治体での予算措置などが求められて行くというのが通常の行政を行う上での時間消費の基礎計算であると考え れば、来年度中の導入はあくまで導入方針なり、導入方法の決定までとしてお約束を果たし・・・実際に子どもたちにワクチンが届くのは再来年度になると、既 に計算済みなのでは無いかと疑ってしまう。ま、私の疑惑は、どうでもいい。

ただ、私が本稿で示してきた事実(OPV接種率の大幅な低下)と、その背景分析を是非、評価してみていただきたい。私は職業としてメディア人であり、様々 なメディアで流通する情報の量と質、その情報が受け手側に起こす反応という側面を、恐らくは医療者の方々以上に評価できると考えている。

この秋の定期接種で、春の接種率を越える、あるいは挽回できる、可能性はほとんどない。個人輸入でのIPV接種は、急速に広がっている。とはいえ、月間の 輸入量は2万程度でしかない。ものすごく増えた、が、今の巨大な空白がそれで埋められると考えることなどできない。ポリオウイルスに対する抗体を一切もた ない子が、間違いなく増え続ける。

7月。中国はWHOに、新疆ウイグルで野生種によるポリオ患者発生を報告し、WHOもそれを速報として伝えた。9月20日にはさらにアラートを発表(参照 3)。 CNNの報道によれば、患者は10名。内、1名が死亡している。CNNの取材に応じたWHO北京事務所の担当者は次のように語っている。
It also warned the virus could spread beyond the current affected area.”Although other areas in China or other countries are not immediately at
risk due to the geographic distance to the affected province, the polio virus can travel great distances and find susceptible populations, no matter where they live,” Helen Yu, from the WHO’s Beijing office told CNN.
さらに、
“No matter how long a country has been polio-free, as long as global polio eradication has not yet been achieved, the risk for importation remains and constant vigilance is required.” said Yu.

正当な警告であると、私は思う。そして、中国と日本との密接な人的交流。かつ、ポリオの不顕性感染者からも長ければ6週間の間、伝染可能なポリオウイルス が排泄されるということを考える時、中国で起きた患者発生を「他国のこと」と見過ごすことができはしない。厚労省お得意の「水際作戦」では全く防ぎ得ない のがポリオだ。しかも、坑ポリオウイルス剤の接種率が6~7割にしか過ぎない数十万の幼児が目の前にいるとしたら。

本来、この「その4」は、ドン・キホーテがいかにして行政や政治と戦うか、っていうところでの展開を書くべきものであった。でも、現実がそれを凌駕して 言っている。OPVにしろIPVにしろ、何しろワクチンを!というフェーズに、私たちの国は入りつつあると警戒心を高める必要があるのではないだろうか。 だからこそ、あらためて私の提案を、皆さんに考えて欲しい。公費補助を!
もう、知ってしまった母親たちをOPVに戻すことは不可能なのだと割り切るしかないのだ。なら、制度として代替手段を提示するしかない。

次回以降で、本筋にもどる行政や政治とのバトルの現実の中で、この間、某地方自治体の首長から求められて、助成制度を検討させるために書いた起案書の冒頭は次の言葉だ。「ポリオ生ワクチンが危険だと保護者は知ってしまった。」

その5に続く
===
参照)
1.
ツイッターを通じてお住まいの自治体の定期接種の状況を調べてみてと訴えたが、年度末にしか集計しない、住民には公開しないという対応が多数報告された。

2.
事務連絡 平成23年9月7日  各都道府県 衛生主管部(局) 御中
厚生労働省健康局結核感染症課

不活化ポリオワクチンの導入に関する新聞報道について

…略・時候挨拶…さて、9月7日付けの一部の新聞において、不活化ポリオワクチンが来春から導入されるとの誤認をまねく報道がなされました。…略…早けれ ば平成24年度にもDPT(ジフテリア・百日せき・破傷風)と不活化ポリオワクチンとの4種混合ワクチン(DPT-IPV)が導入されることも想定されま すが、平成24年度当初からの実施は予定しておりません。
…以下、略….

3.

http://www.who.int/csr/don/2011_09_20/en/index.html

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