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Vol.279 日本医師会の事故調提言の改善点~事故調はより自律的に、もっと多様性を

医療ガバナンス学会 (2011年9月29日 06:00)


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井上法律事務所 弁護士
井上清成
2011年9月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


1.日医の事故調提言に続いて
この6月、日本医師会の「医療事故調査に関する検討委員会」が「医療事故調査制度の創設に向けた基本的提言について」という答申を出した。7月には、日本 医師会の高杉常任理事がそれを公表し、「医療関連死は警察に届けても解決できない。我々医療界が、きちんと答えを出して対応していく必要がある。」と述べ たらしい。併せて、「提言の内容を世に問い、さらに改善点を検討しながら提案していきたい。」ともコメントし、より良い改善に向けた姿勢も示したとのこと である。
1つの任意団体の提案にすぎないとはいえ、最大かつ重要な医療団体が、自律的な対応を自ら積極的に打ち出したことは、高く評価されるべきことだと思う。他 の各種の医療団体も、日本医師会に倣って自律的・積極的に、しかし、独自色で多様性をもった医療事故調査制度を自ら創設すべく続いてもらいたいところであ る。

2.医療団体ごとに多様な事故調を
しかし、これは、「基本的提言」の推奨する日本医療安全調査機構に、他の医療団体も加入したほうがよいということではない。医療界全体が一体的な医療事故 調査制度を創設することは、むしろよくないことだと思う。産科医が一体的に日本医療機能評価機構に加入して運営した「産科医療補償制度」と同じ失敗を繰り 返してはならない。日本医療安全調査機構への一体的な加入は、「産科医療補償制度」と同様に、ある意味、かつての厚労省第三次試案・医療安全調査委員会設 置法案の復活と同じ危険を招く。
医療事故調査制度は、各々の医療団体ごとに異なる、それぞれ独自性のある、医療界として一体ではなく多様性のある、並立し競合するものとすべきであろう。
こうすることこそが、警察の刑事介入を阻止し、厚労省の行政処分者数の激増を防ぎ、弁護士ら非医療者による医療介入を排除することにつながる道である。

3.死因究明をやめて死因診断の充実を
医療事故調査制度の議論の混迷の根本的原因は、「死因究明」というマジックワードにあると思う。聞こえの良い「死因究明」という甘い言葉のために、ともすれば皆が思考停止してしまいがちである。
「死因究明」という用語は、死因の「認定」とか「確定」とかいうニュアンスを伴う。ひるがえってみれば、医療安全や再発防止それ自体には必ずしも「認定」 や「確定」は必要ない。死因の「認定」や「確定」が何故に必要かというと、刑事責任追及や行政処分発動や損害賠償請求などの社会的な法律関係のベースとし て必要なだけなのである。実は、患者や家族の精神的な理解や納得のためにさえ必要不可欠ではない。医療者の誠実さと死因「分析」(「究明」ではなく「探 究」ともいえよう。)さえあれば足りよう。
ただ、死因「究明」が本当に必要な分野もある。それは、「診療関連死」を除く「非自然死」の分野であるといってよい。典型的には、犯罪死である。当然、刑 事・行政・民事の諸責任の追及などのために、死因の認定・確定が必要となろう。この点はすでに、警察が医療事故調査とはまったく別の観点で研究を進めてい た(犯罪死の見逃し防止に資する死因究明制度の在り方について。平成23年4月)。
そうすると、各種の死因のうち、病死・自然死・診療関連死のグループは死因「分析」が要請され、診療関連死を除く非自然死のグループは死因「究明」が要請 される。鍵を握るのは、これら2つのグループの棲み分け、つまりグループ分けであろう。グループ分けをする第一次的な権限を警察に与えてはならない。その 権限は、医師・医療機関が握るべきであろう。そのために必要なのは、死因「診断」であり、死因診断の充実である。

4.中立性よりも自律性が大切
もともと「死因究明」というコンセプトの誤りから端を発してしまったため、往々にして、中立的な第三者的機関が強調されてきた。中立的・第三者的機関によ る医療事故調査とは、調査される側になる医師・医療機関の視点から見れば、職権主義的・他律的・外部委員主導型ということである。もしも医療事故を起こし た医師・医療機関がモラルハザードだと評されるのならば、それもやむをえないかもしれない。しかし、モラルハザードとは、たとえば日本相撲協会で問題に なった「無気力相撲」や九州電力で問題になった「やらせメール」のたぐいである。そうすると、医療事故は明らかにモラルハザードと同列でない。したがっ て、医療事故は、モラルハザードにおけるのと反対に、当事者主義的・自律的・内部委員主導型で対処すべきことであると思う。
この点は、まず、院内事故調査委員会が内部委員中心で運営されるべきことに、端的に現われる。外部委員は必要ない。特に専門的知見が必要な時は、その分野の専門家に嘱託して知見を補充したり、鑑定意見をもらえば足りる。委員にする必要はない。
また、第三者的機関が自ら事故調査をするのも越権行為であろう。せいぜい院内事故調査委員会の事故調査の支援(手助け)で十分である。具体的には、院内事故調査の事後チェックやレビューといった程度に過ぎない。
さらには、原則として個々の医療機関が、改善して今後の医療安全に努めれば足りる。つまり、具体的な医療事故情報を、どこかの上部で一元的に集中管理する必要はない。

5.改善と新たな提案と注視を
過去の医療安全調査委員会構想と同じ誤りを繰り返してはならない。日本医師会の基本的提言には、その構想がベースになって残存しているので、その構想の基 本発想を排除した上で改善を重ねるべきだと思う。そして、他の医療団体には、日本医師会に負けず劣らず、独自により良い制度を構築すべく、自律的・積極的 に検討を進めることが望まれる。また、8月26日より、厚労省では「医療事故の原因究明及び再発防止の仕組みのあり方」を検討する「医療の質の向上に資す る無過失補償制度等のあり方に関する検討会」が始まった。以前と同じ誤りが繰り返されないよう、注視していかねばならない。

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