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vol.288 『ボストン便り』(第28回)医療者と患者の協働で医療を変える~慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎(CFS/ME)~

医療ガバナンス学会 (2011年10月13日 06:00)


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ハーバード公衆衛生大学院リサーチ・フェロー
細田 満和子(ほそだ みわこ)
2011年10月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


紹介:ボストンはアメリカ東北部マサチューセッツ州の州都で、建国の地としての伝統を感じさせるとともに、革新的でラディカルな側面を持ち合わせている独 特な街です。また、近郊も含めると単科・総合大学が100校くらいあり、世界中から研究者が集まってきています。そんなボストンから、保健医療や生活に関 する話題をお届けします。
(ブログはこちら→http://blog.goo.ne.jp/miwakohosoda/)

●国際CFS/ME協会の会議
9月22日から25日まで、カナダのオタワでIACFS/ME(国際慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎協会)の主催する「エビデンスから実践への変換」とい うテーマの会議が開催されました。この会議には、慢性疲労症候群の研究者、臨床医、医療行政担当者、患者会代表など様々な立場の人々が、文字通り世界中か ら集まりました。
慢性疲労症候群(CFS: Chronic Fatigue Syndrome、ME:筋痛性脳脊髄炎あるいは筋痛性脳症とも言われ始めている)は、日本では24万から30万人もの患者がいると言われている疾患で、 アメリカでは400万人が罹患しており、全世界では1700万人の患者がいると言われています。
この病気は、筋肉/関節痛、微熱、睡眠障害、思考力/集中力低下等の症状を伴い、生活が著しく損なわれる程強い疲労が6か月以上も続くもので、多くの患者 は職業生活や日常生活を送ることが困難になります。中には起き上がることも困難で寝たきりに近く、通院も出来ない患者もいます。
CFSは、一般の内科的検査では原因が見つからないので、専門家からも「詐病」や「なまけ病」、ストレスや精神的疾患によるものなどといった誤った診断が されたり、一般にも疲労の積み重ねで発症すると誤解されたりすることがあり、患者たちは長年苦しんできました。イギリスではあまりの偏見の強さに患者の怒 りが爆発し、精神疾患と混同する研究者への暴力や脅しが起こっていることも報道されています。
しかし今、状況は急速に変わってきています。オタワの会議においてアメリカCDC(疾病管理予防センター)のエリザベス・アンガー氏は、もはやアメリカで精神的な原因がCFSを引き起こすと考えている医師はたったの14パーセントにすぎなくなった、と報告していました。
こうした状況の変化は、ひとつには近年のCFSに関する研究成果によって導かれています。CFSの世界的権威であるハーバード医学校教授のアンソニー・コ マロフ氏によると、この20年の間に5000を超す研究がなされてきたそうです。今や、CFSはウイルスや細菌など何らかの要素が発症の引き金となる、後 天的器質的疾患であるということは、世界的な常識になってきていると言っても過言ではないでしょう。

●患者団体のアドボカシー活動
患者団体による働きかけ(アドボカシー活動)もこうした現状の変化をもたらしました。カナダの全国アクション・ネットワーク(National ME/FM Action Network)は、カナダ保健省に呼びかけ、より正確な診断基準を作るように促しました。全国アクション・ネットワークは、1993年に慈善団体として 誕生したCFSのアドボカシー団体で、代表者はオランダ出身のリディア・ニールソン氏です。
カナダ保健省は、政府関係者、研究者、医療者、産業界、アドボカシーという5つのステークホルダーから専門委員を選出し、度重なる修正とワークショップの 機会を設けました。このワークショップには、全国アクション・ネットワークの代表も専門委員として選ばれて参加しました。そして、2003年に 「ME/CFSの臨床症例定義とガイドラインClinical Case definition and Guidelines for Medical Practitioners」(通称「カナダ基準Canadian Definition」)が出されました。
「カナダ基準」では、「CFS/MEを慢性疲労と混同してはいけない」と明言され、CFSを単なる疲れの集積とする考え方に釘を刺しています。そして患者 が体験している「病的疲労」を、「極度の消耗、虚弱、重苦しさ、全身の倦怠感、頭のふらつき感、眠気などを合わせたようなもので、患者をひどく衰弱させる もの」としています。ここではまた、診断基準や臨床評価、患者のサポートと権利擁護を目標とすること、「セルフヘルプ戦術」という対処法なども紹介されて います。

●CFSの患者会
患者団体は、アメリカやカナダだけでなく、イギリスやドイツ、スペインやノルウェーなど世界各地にあり、CFSに関する情報提供、相互扶助、研究資金援助、アドボカシーなど様々な活動を行っています。
例えばアメリカでもっとも有力なCFSの団体と言われている「アメリカCFIDS協会」は、CFSがウイルス性のものであることを示唆する論文が出された 直後から、CFS患者からの献血を禁止するようにアメリカ赤十字社などに働き掛けてきました。最終的に政府は2010年12月に献血を禁止することを発表 しました。
その他にもアメリカには、主に研究資金援助を目的とした「国立CFIDS基金」や、アドボカシー活動を中心とする「パンドラ PANDORA:Patient Alliance for Neuroendocrineimmune Disorders Organization for Research and Advocacy, Inc 」といった全国組織の患者会、並びに州単位や地域単位の沢山の患者会があります。
「世界ME/CFS患者同盟 Worldwide Patient Alliance(MCWPA)」は、国際的な患者主体の草の根的団体で、政府や社会への働きかけなどを積極的に行っています。CFSに対する理解を促す キャンペーンの映像も会員が制作しており、患者が医者やカウンセラーのような人々の誤解に満ちた「診断」「治療」にさらされている現状を告発しています。
また、The Whittemore Peterson Instituteというネバダ州のリノという町にあるCFS関係の生物医学研究を行う研究所は、患者家族による資金提供で設立され、精力的に研究を行い数多くの研究報告を出してきました。

●日本におけるCFS
昨今日本は「カラパゴス化」が進み、世界の水準から取り残されているという言説が流通しています。CFSに関しても、確かに、日本では未だストレスによる とか、疲労が悪化するとCFSになるなどと誤解されていることも少なくないようです。またCFSがウイルスと関係していることが示唆され、2010年末ま でにオーストリア、ニュージーランド、ノルウェー、カナダ、イングランド、アメリカといった世界各国でCFS患者からの献血が禁止された後も、日本政府は 特に対応をしてきませんでした。
しかし、CFSの患者自身に目を転じてみると、世界の今は、日本の今であるといえるでしょう。例えば、「慢性疲労症候群をともに考える会」という患者会代 表の篠原三恵子氏は、これまでに数々のCFS関連の英文の論文や紹介文を日本語に翻訳し、紹介してきています。例えば、先述したコマロフ教授の講演や世界 的標準になろうとしている「カナダ基準」を翻訳し、小冊子として製本して日本の医療専門職などに配布したいと考えていらっしゃいます。また篠原氏は、 CFSは器質的な疾患なのだから認知療法の適用にはならないと投書し、イギリスの権威ある医学雑誌「ランセットLancet」(2011年5月発行)に掲 載されています。さらに、各国の患者会とも交流を持ち、前述のオタワで開催された国際会議へは会の代表を送っています。
「慢性疲労症候群をともに考える会」は、9月28日に参議院議員会館にて「慢性疲労症候群研究の実現化に向けて!」と題する講演会を開催しました。講演会 では、日本におけるCFSの第一人者である関西福祉科学大学教授の倉恒弘彦氏が講師を務め、研究レベルの検査で見つかるさまざまな異常を示し、生物学的要 因のある病気であることを、わかりやすく説明されました。また、これから始まろうとしている研究についても詳しく紹介されました。
この講演会には、6つの党(民主党、自民党、公明党、共産党、みんなの党、社民党)から8人の国会議員と9人の議員秘書の方々が出席しました。また厚生労 働省の疾病対策課と年金局からそれぞれ2名の方が出席。さらにNHK、青森テレビ、朝日新聞、東京新聞はじめ8人のメディア関係の方が取材に来ました。身 体の不具合をおして遠方から駆けつけた患者の方も何人もいらっしゃいました。最終的に参加者は80名近くにもなりました。
講演会では、CFSの正しい理解、診断・治療のための研究開発促進、社会的サービスの充実という共通の課題が確認されました。私も司会・進行役として参加し、日本でのCFSを巡る状況が変わろうとする現場を目の当たりにした気がしました。

●医療を変える患者と医療者の協働に向けて
さらに、この会では来る10月23日(日)に東京大学駒場キャンパス(18号館ホール)にて、「ともに挑もう!慢性疲労症候群(CFS)」というイベント も企画しており、ユーストリームでも中継される予定です。第1部(10:00~12:00)では、CFS患者で、CFSの実態を描くドキュメンタリー映画 「アイ・リメンバー・ミー」を制作・監督したキム・スナイダー氏を招いての映画と交流の集いが行われ、第2部(13:30~16:30)では、当事者や臨 床医や研究者など、CFSに関わってきた様々な立場の人々によるシンポジウムが行われます。
私も当日はシンポジストとして、マサチューセッツ州で活動するいくつかのCFSの患者会に参加させて頂き、患者の方々と触れ合うことで学んできたことをご 報告する予定です。内容としては、確かにアメリカでは多くの医師達がCFSをもはや器質的疾患と捉えるようになってきているようだけれど、患者たちは長い 間、「虐待」といえるようなひどい扱いを受けてきており、社会的サービスを受けられるための障害者認定もスムーズに行われるわけではない。しかし、患者同 士で最新の研究情報を交換したり、社会サービス獲得のための小冊子を作ったりして助け合い、自分たちを取り巻く社会を理解し、さらに変えていこうとしてい る。以上のようなことをお話させて頂きたいと思っています。
今、CFSの領域では、医療者と患者の協働で医療を変えてゆこうという動きが、世界のいろいろなところで起きていることが観察されます。こうした現場の証人となることに感慨を持ちつつ、今後の展開を期待しながら見つめてゆきたいと思います。

<参考資料>
カナダの全国アクション・ネットワークのホームページ

http://www.mefmaction.com/

イギリスで患者の怒りが爆発し、研究者を襲うようになったことを報じるガーディアンの記事

http://www.guardian.co.uk/society/2011/aug/21/chronic-fatigue-syndrome-myalgic-encephalomyelitis

コマロフ博士の慢性疲労症候群の10の発見(原文)

http://www.cfids.org/about/10-discoveries.pdf

慢性疲労症候群をともに考える会のホームページ

http://cfsnon.blogspot.com/

ランセットに掲載された篠原三恵子氏の投稿

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2811%2960686-7/fulltext?elsca1=TL-270511&elsca2=email&elsca3=segment

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