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Vol.290 原発作業員の安全管理を考える 前篇

医療ガバナンス学会 (2011年10月17日 06:00)


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都立墨東病院
濱木 珠恵
2011年10月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


震災から半年、東京電力福島原子力発電所原子炉群の事故後の収拾作業は、今なお続いている。報道で知る限り、住民や原発事故の収拾に携わる作業員の健康被害については問題が山積している。事故発生後、早々と作業員の緊急時被ばく線量の年間限度値を100mSvから250mSvに上げたことなどは、ご都合主義そのものだった。作業が長期化する中、作業環境整備や健診といった安全管理の体制の不十分さが伝えられている。

緊急時対応についても同様である。福島原子力発電所事故対応作業者等における自己造血幹細胞採取・保存をすすめる声があがり、谷口プロジェクトとして今も 問題提起を続けているが( http://www.savefukushima50.org/ )、原子力安全委員会からは不要(平成23 年3 月29 日付)、日本学術会議からは不要且つ不適切との見解(平成23年4月25 日並びに5月2日付)が出て、全く受け付けない姿勢が示された。一方、日本造血細胞移植学会は、高い放射線被曝の可能性が完全に否定できない現状では本方 法が不要・不適切と結論づけることはできず『学会としては、自己造血幹細胞採取・保存が可能とする体制を維持せざるを得ない』(5月23日付)としている。その後、議論はなされていない。
これらの見解の相違は、いわゆる「医学的根拠」の問題で終わらないように感じる。

●私達が共有している急性放射線障害に対する治療経験
現在、人類が共有している放射線被曝の事例は、原爆の被曝医療調査や米国の原子力の軍事応用の開発初期の被ばく事故、そして東海村やチェルノブイリや東海村JCO臨界事故などの治療経験である。

1986年のチェルノブイリ原発事故の際、UNSCEAR(2000)によれば、当初に十分な情報を与えられないまま初期作業に当たった緊急時要員のうち 134人が急性放射線障害(ARS) と診断され、そのうち28人がARSのために年内に亡くなっている。同種造血幹細胞移植治療という、抗癌剤や放射線治療で低下した患者の造血能を救援するために新たに他人から元気な造血幹細胞をもらってきて補充するという方法論は、1986年当時にはほぼ確立されていた。この事故でもARSに対し十数例に同種骨髄移植治療が行われたが、そのほとんどが比較的早期に死亡したという。

1990年代初頭にイスラエのソレクや白ロシアのネスヴィツにあるCo-60放射線滅菌施設でも被曝事故があり、作業員が同種骨髄移植やサイトカイン療法 を受けた。ともに被曝線量が高すぎ、放射線による臓器障害やそれに関連した感染症で死亡した。これらの経験から、8Gy以下の被曝線量ならば自己造血が再生する可能性があること、また、同種移植の免疫学的合併症(移植片対宿主病:GVHD)により放射線障害が増悪しうることが分かってきた。

1999年には、東海村JCO核燃料加工施設の臨界事故が発生している。このときも同種移植が行われた。20Gy相当以上の被曝を受けた症例は、HLA一 致の同胞から骨髄移植を受け、83日目に多臓器不全で死亡した。(Bone Marrow Transplant. 2002 Jun;29(11):935-9.) また7.8Gy相当の被曝症例には臍帯血移植が行われ、一度はドナー細胞が生着したが、後に拒絶された。被曝後半年で皮膚硬化による拘束性呼吸困難により死亡した。(Bone Marrow Transplant. 2002 Feb;29(3):197-204. ) ともに、同種移植で造血機能が回復しても、高い被曝線量による多臓器障害のため致死的となることを示している。過度の線量を浴びた場合には造血障害だけではなく他の臓器障害も強く出現し、むしろ消化管や皮膚、肺などに対する臓器障害が生命にかかわる重大な問題となるのである。

今なお人類は放射線障害に対する絶対的な方法論を持たない。チェルノブイリ事故でもJCO事故でも重度の放射線障害から患者を救う手立てはなかった。率直に言えば、JCO事故での移植患者に関する報道をみながら、この被曝量では造血幹細胞移植をしたところで焼け石に水だと感じていた。多くの医者がそう感じたはずだし、一般の方もそう感じた方は少なくないだろう。放射線被曝で全身の組織がぼろぼろになり、繰り返された皮膚移植も有効ではなかった。実際、生存期間は予想したよりも長かったが長期生存には至らなかった。造血幹細胞移植では、いや、医学では、過剰被曝をした方を救うことはできないだろう。(後篇へ つづく)

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