医療ガバナンス学会 (2009年1月8日 10:03)
~国立がんセンター中央病院 手術室再建プロジェクト~
帝京大学医療情報システム研究センター 客員准教授 大嶽浩司
※今回の記事は村上龍氏が編集長を務めるJMM (Japan Mail Media) 12月31日発行の
記事をMRIC用に改訂し転載させていただきました。
「国立がんセンターにて麻酔医が大量離職」
月ごろ目にされた記憶がある方がいらっしゃるのではないだろうか
スに限らず、「医療崩壊」という言葉は最近、
ている。手術待ちのがん難民を救済するために、
超えて協力を行い、国立がんセンター中央病院の手術部の「崩壊」
をはかろうとしてきた現場からの中間報告をここに記したい。
●麻酔科新部長の就任と再建プロジェクトチームの結成
2008年4月、
んセンター中央病院において麻酔常勤医の一斉退職がおこった。
常勤麻酔医が5人まで減少してしまったため、
ければならなくなり、
を打開すべく、
依頼した。
酔科の山田芳嗣教授である。そして両大学の協力の下、
り宮下徹也医師が麻酔科の責任者としてがんセンターに赴任した。
二外来部長に就任し、手術部の再建の使命を託されたのである。
宮下部長が就任した10月以来、手術件数は回復を見せ始める。
き彼が目にしたがんセンター中央病院手術部は先進的な大学の手術
と少し時代に取り残された感のある手術部であった。
進化から取り残された「ガラパゴス島的」とでも言えるだろうか。
退職は起こるべくして起こったものであり、
革が必要であったのだ。そこで宮下部長は横市大後藤教授、
らなる協力を要請し、彼をサポートするべく、
酔科再建プロジェクトチームが結成された。
私は麻酔専門医取得後に、アメリカで医療を行っていたが、
を持ちシカゴ大学MBA、
ジメントのエッセンスを会得してきた。
頼された帝京大学麻酔科森田茂穂教授から、
の得てきた知見を生かすことで、
にと派遣された。前述の後藤教授・
いわば私の兄弟子に当たる。
●大学の垣根を越えた再建プロジェクトチームの活動
この再建プロジェクトチームの陣頭指揮をとるのは横市大後藤教授
浜市立大は公立大学である、
ため、
手弁当で駆けつけている。
チームの本格始動は12月から。
前年並みの手術件数に回復させるべく麻酔医の増強であり、
もつ根源的な問題の解決である。
第1の活動のためには横市大、東京大、
医が派遣された。それぞれ自分の本来の勤務先病院があり、
んセンターに来ることはできないため、
にもなった。これだけの人数の麻酔医が大学の垣根を越えて、
めに集まるというのはこれまでに無かったのではないだろうか。
京大の許可を得て、
たため、このほぼ全員と一緒に仕事をした。
たちが、
同一にする者が集まっているせいか、お互いの連携はうまくいき、
しろ連帯感さえ感じるようになっていた。
上記手術フロアでの麻酔医の増強と同時に、
んセンター手術部の持つ根源的な問題を解決するために、
手術部の現状を分析し、今後の再建プランの設計も行った。
山田教授、私が主にその任に当たり、
●がんセンター手術部の現状初期診断の結果と解決の方向性
プロジェクトチームによる初期診断ではがんセンター手術部・
課題を抱えていた。
1.麻酔業務量と人員数の不一致
2.安全性確保の不備
3.組織ガバナンスの不整合
4.部門間コミニケーションの不足
このうち1は以前のような手術件数を実施するのであれば、
制の強化・拡大が解決に必要である。2、
制にがんセンターの体制が追いつくことで解決されるべきである。
年明け早々に解決策の導入がなされることになった。
さらに詳しく診てみると、
1.麻酔業務量と人員数の不一致
現状からチームが割り出した試算によると、
手術件数を維持するためには、15人の常勤麻酔医が必要となる。
0人でまかなっていたため、
この解決には、
加大学の裾野を広げていく必要がある。この再建プロジェクトが、
済するために麻酔学会のバックアップと志を持つ教授達の無償奉仕
たように、
2.安全性確保の不備
3.組織ガバナンスの不整合
がんセンターは国の機関であり組織的な柔軟性がとりにくいため、
員は国家公務員であり他の機関との自由な人的交流を持ちにくいた
自のいわば「ガラパゴス的進化」
れにより特に昨今の医療を取り巻く環境の急な変化に対応しきれず
いるところが生じてきてしまった。
現実に起こった一例として、
し、
の定数という枠に阻まれて柔軟に対応できないといった事例がある
国立がんセンターの手術場には、臨床工学士が一人しかいない。
スタッフが、どんなに頑張っても手術は安全にならない。
国立がんセンターでは、臨床工学士を増員するだけでも、
煩雑である。また、誰が人事権をもっているかがわかりにくい。
聞く限り、院長ではなく、
事権がなければ、組織の緊張が弛緩するのも当然である。
これまでの院長は臨床工学士増員のような重要、
いないのだろう。
この解決には、
必要とされ、国民へ正確な情報を提供し、
4.部門間コミュニケーションの不足
病院に限らず、
ニケーションがをうまくとることは難しい。特に手術部は、
看護師、種々の外科、
意思疎通が問題になりやすい。
この解決は、
る。
●現状診断からの学びと今後の再建プロジェクトチーム
今回の大学の枠を超えたチームの結成は、
長の呼びかけに学会、横市大、東大、
医療崩壊といわれているが、
に動く者は少なくないと私は考える。
チーム主導で解決していく計画である。
上記に述べたようながんセンターの診断では、
ために、医療現場の急激な変化についていっていない部分があり、
療者の現場での献身がうまく患者に還元されないという現象を生む
いた。医療は社会と密接に関わっているため、
軟に対応していくことが要求される。
ということは簡単ではないのだが、手術部を再建、拡大し、
なる救済を目指すのであれば、
変革が必要だろう。この組織変革は、
問題のため、病院幹部、
る。
大嶽浩司
1998年東京大学医学部卒業。日本の他、オーストラリア・
酔医として勤務した後、
マッキンゼー・アンド・カンパニーにて2年間勤務した後、
現職。