医療ガバナンス学会 (2011年10月28日 06:00)
タリック君、現在ハーバード大学夏季インターンシップに参加し、来年の医学部進学のための準備をしています。人懐こい笑顔がとても魅力的で、アニメが大好 きなタリック君ですが、彼のこれまでの人生経験は、私の想像以上でした。そんなタリック君とのインタビュー、是非ご覧ください。
1. あなたのこと、自己紹介してください。
モロッコのカサブランカで生まれました。9歳のとき、両親と弟といっしょに、フロリダのディズニーランドに旅行するためのチケットをもって、アメリカに不 法入国をしました。その後、母は、家族のために必死で働いて、私たちはアメリカに帰化することができました。小学校に通い始めましたが、帰化するまでは、 不法滞在が見つかることが怖くて、外出はできず、いつも家でテレビを観ていました。
2. アメリカとモロッコの教育の違いは何ですか?
一番の違いは、生徒に対する体罰の方法です。モロッコでは先生が棒で生徒を叩きますが、アメリカでは全くなく、自由で、とてもリラックスしています。モ ロッコの方が、先生の権威があったと思います。モロッコでは、学校でアラビア語、フランス語、数学、宗教等を勉強しました。宗教はとても大切です。国民の ほほ100%がイスラム教です。1日5回の礼拝をし、金曜日の礼拝はモスクにて集団でお祈りをします。ハーバードにもたくさんのイスラム教徒がいますの で、金曜日には仲間に会えます。ラマダンのときは、生徒全員、日の出直前から日没直後まで、集団で絶食をします。残念ながらモロッコでは大学の進学率は低 く、一部の教育を受けたい生徒はフランスに留学します。僕の場合はアメリカにきましたが。
3. あなたの短期間、長期間の夢を教えてください。
まず、医学部に入学したいです。これは、小さなころからの夢です。なぜかははっきりしませんが、たぶんサイエンスが好きだからです。そして、将来モロッコ に帰りたいと思っています。モロッコは素晴らしい文化をもつ国なのですよ。アメリカは競争社会ですが、モロッコはもっと自由な雰囲気です。そして、年上の ひとを尊敬します。モロッコの食文化は誇りですよ。アメリカの食事と違ってすごく健康的です。ちなみにマクドナルドはありますが、高価なグルメレストラン の一つで、ハンバーガーは手作りでとても美味しいです。
4. あなたは、どうやって自分を動機づけますか?
私には、ポジテイブな動機とネガテイブな動機があります。ポジテイブな動機は母からの作用です。母は、不法入国後、家族のために必死で働きました。母は、 とても芯が強く、温かい人です。ネガテイブな動機は、いつも父と彼の家族からの作用です。父は大家族をもっていて、ヨーロッパ中にいて、経済的に安定した 暮らしをしています。ただ、彼らとのつきあいは、とても表面的な冷たい関係です。私は将来、絶対にもっと強くなって、彼らに私の存在を証明したいのです。
5. あなたのこれまでに直面していた中で最も難しい状況は何ですか、あなたはどのようにそれを解決しましたか?
アメリカに移住後、父が脳梗塞を発症したことです。その後、父は家にいますが、今も母が看病しています。
6. あなたの長所は何ですか。
難しい質問ですね。たぶん、努力家であること、コミュニケーションが上手なこと、あと他人を信じることと思います。
7. あなたの短所、教えてください。
これも難しい質問ですね。たぶん人を信じすぎることと思います。そしてすごく内気なこと。裏切られたときのショックは、本当に大きいです。先日も、ラボの 食堂で、とても尊敬していた人が、ラマダン中だからおまえは仲間じゃないといったのです。ただ食堂に座って、みんなと話がしたかっただけなのに。とても悲 しかったです。あと早起きが苦手なこと、最後まで物事をやり終えることができないことです。私の周りの日本人の研究者は本当にすごいとおもいます。みんな 自分たちの仕事を必ず責任を持って、確実に終わらせます。
8. あなたの日本のイメージを教えてください。 日本の人々にメッセージがあれば教えてください。
日本はとても美しい国です。桜、富士山、京都、近代的な建物、日本食、将来絶対に日本に行ってみたいです。人々は他人に対して敬意を示し、謙虚です。
日本の人たちに贈る僕のメッセージは、「日本人は本当に精神力が強くて、絶対に最後まであきらめません。どんなことも、必ず最後まで責任をもってやり終えます。だから、どんな災害があっても絶対に回復できます!頑張ってください!」
9. ハーバードのシステムに関して、他の施設と比べて、何がユニークな特徴と思いますか?
僕はハーバードのシステムはあまり好きではありません。リスクは負わず、規定に反することは認めない、自分勝手と思います。僕にとって、ハーバードの一番 のすばらしさは、ここに集まる人材と思います。例えば、ラボにいる人は内気な人が多くて、最初は打ち解けにくいですが、仲良くなっていくうちに、その人が すごいアイデアや経験を持っていて、すごく情熱家と知り、本当に驚くことが多いのです。
タリック君、どうもありがとうございました。
私は、彼のインターンシップの期間の教育係でしたが、逆に教えてもらうことが多かった気がします。ここアメリカには、タリック君のように、不法入国でやっ てきた人がたくさんいます。彼らは、アメリカにおける厳しい競争社会で、「必ず勝ち抜いて、いつか愛する故郷に帰る」という目標に向かって頑張っていま す。私は、今のアメリカ社会は、彼らの努力によって成立しているように感じられます。しかし激しい競争社会の現実は、一部の成功者の影にいる圧倒的多数の 敗者がいるということです。私のアメリカ人の親友が「日本はいいな、赤ちゃんはみんな宝物で、すごく大切にされるでしょ。アメリカは違うんだよ。」って 言っていました。幸せで、豊かな人生って、一体何なのでしょうか。タリック君の医学部合格、そして故郷での活躍、心から期待しています。