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Vol.307 バランス感覚を持とう -放射能とともに生きていくために-

医療ガバナンス学会 (2011年11月1日 06:00)


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つくば市 坂根Mクリニック
坂根みち子
2011年11月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


福島原発からの大量の放射能漏れの中で、いつの間にか私たちは生きていくことになってしまいました。国の言うとおりにしていれば何とかなるという時代は終 焉を迎えました。3.11以後の日本は以前とは別の国なのです。関東一円に、セシウムは広く浅くばらまかれています。私たちは腹をくくって、放射能ととも に生きていくために必要なバランス感覚をもたなければなりません。

日本人の2人に1人は、癌になる時代です。3人に1人は、癌で死にます。残りの3分の1は、脳血管障害や心臓病などの生活習慣病で死にます。実は、癌もほとんどが生活習慣病です。たとえば、タバコが、肺がんや喉頭がん、食道がんなどの原因となることは周知の事実です。
生きていくうえで、人間のDNAを傷つけるものはたくさんあります。ただし人間の体には傷ついたDNAを修復する力もあるので、要するに傷ついたDNAが繰り返し複製されて、癌化していかなければいいのです。

今回の放射能で、DNAが傷つく可能性が少し上がるでしょう。それならば、他の部分でリスクを減らせばいいのではないでしょうか。
タバコ以外にも、ジャンクフード、ビタミン不足、睡眠不足から、紫外線、精神面の過剰なストレスまで、DNAを傷つけ人間の免疫力を低下させるものは沢山 あります。糖尿、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病から、狭心症になって、何度もCTやカテーテル検査を受けることでも、医療放射線をたくさん浴びて DNAを傷つけていることになります。

一部の地域を除いて、ほとんどの関東圏では、放射能の影響を考えて過大に生活に制限を加えるより、生活スタイルを見直して生活習慣病にならないようにした方が寿命に与える影響は大きいと思います。

家庭でのキーパーソンはお母さんです。家の中でお母さんが落ち込んでいたり、心配事をずっと言っているのでは、家庭は落ち着いた雰囲気になりません。子供だって不安になります。お父さんとお母さんが喧嘩ばかりしていては、家族の免疫力も落ちてしまいます。

私たちが今できることはなんでしょう。基本は、ご飯をバランスよく美味しく食べ、質の良い睡眠を取り、家族で当たり前に普通に暮らすことです。暮らしの中 に笑いを取り戻しましょう。こうやって、人間の生きる力を高めてあげることが、傷ついたDNAの癌化を防ぐ最大の防御です。

クリニックに来ていただいている患者さんの中にも何人か、妻子は関西以南に行き単身赴任状態の方がいます。苦渋の決断だったのだと思います。
セシウム137の半減期は30年です。放射能問題は数か月では解決しません、一旦この地を離れて他の地に生活の基盤を移せば、そうやすやすとは戻ってこら れなくなります。母親は本能的に子供を守ろうとしますが、そのために折角出会った人生のパートナーと一生離れたままでいいのでしょうか? 子どもたちは、 突然友達と離されて大丈夫なのでしょうか? 離れて暮らすことによるマイナスの側面はどの位なのでしょうか。

放射能に対する恐怖が各地で混乱を引き起こしています。子供がなるべく放射能にさらされないために、お母さん達は涙ぐましい努力をしました。水はペットボ トル、長そで長ズボン、外遊びの制限。食べ物は関東以外の産地で。それが無理なら、野菜はよく洗いゆでる、放射能物質排出のためにいいと思われるものの摂 取。内部被曝を減らすためにありとあらゆることをしています。

次に向かうのは、子供が関与する環境への注意でした。学校給食はお弁当持参で。もしくは関東以外の産地の食材を使うよう学校に働きかける、プールや外での活動は、放射能度は測定したうえでの判断を求めるなどです。
それに対して、当然現場での軋轢が生まれました。「放射能の計測はしていません。」「基準範囲内です。」「お宅の子供だけ特別扱いにはできません。」「心 配なら、参加させないでください」「産地の指定はできません」等々。自分の子供だけ違うことをさせれば、子供は当然嫌がります。たまには外遊びもさせない と弊害もあります。言い過ぎると、他の親や学校からひかれ引かれてしまいます。自分の夫との関係にもひびが入ります。母親は、子供を危険から隔離する方向 に走りがちなので、この問題では母親と父親の温度差が大きいのです。男性側の「そこまでしなくても」という思いに対して、女性は「どうしてわかってくれな いのか」と不満を募らせていきます。どちらも大変です。

今必要なのは、バランス感覚です。微量の放射能とともに生き抜いていくために、優先順位を付け、決めたらぶれないことです。放射能は低いに越したことはありません。

一方ほとんどの人は、今の土地から離れることはできません。この環境で、どうやって生きていくのがいいのか、何にお金をかけたらいいのかよく考えてくださ い。子供たちがしてはいけないことではなく、出来ることを考えてください。市場に出ている作物を産地で選り好みするより、ファーストフードで食事を済まさ ず、子供と一緒に料理を作り、スローフードを心掛けてください。校庭のセシウムを気にして家でTVやゲームを興じさせるより、大勢の中で遊ばせてくださ い。

今、他者とのかかわりが苦手で、コミュニケーションが取れない若者がたくさんいます。小さいころから、多少の不具合、多少の意心地の悪さの中で生きること に慣れていないと、大きくなって思い通りにならないことに直面した時、必要以上のストレスを感じてしまいます。大勢の中で切磋琢磨させて、多少のストレス にも耐え得る子供にしてください。自分で食事を作り、他人と関わり、日々の生活を楽しむことが出来るようになれば、生き抜く力が身に付きます。それこそ、 傷ついたDNAが増殖しないための最大の武器なのです。

子供たちはいずれ独り立ちしなければなりません。目の前のセシウムを排除することに血道を上げるより、その中で生き抜くための知恵をつけさせることを、私たちは今求められているのです。

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