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Vol.324 南相馬市仮設住宅の現状

医療ガバナンス学会 (2011年11月24日 06:00)


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この原稿は2011/11/20、地震医療ネットに投稿されたものです。

南相馬市立総合病院内科
原澤 慶太郎
2011年11月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


はじめまして、南相馬市立総合病院内科の原澤慶太郎と申します。

亀田総合病院より出向となりまして、11月より南相馬でお手伝いをさせて頂いております。亀田では家庭医療のレジデントをしておりまして、外来と往診を中 心とした地域医療をしておりました。もともとは外科医です。15歳のときにテレビに映るボスニア紛争を見て外傷外科医を志し、亀田で初期研修ならびに外科 後期研修を受け専門医となり、心臓血管外科医として東京の循環器専門施設に出向させて頂き、ずいぶんと回り道をしましたが、どうしても地域医療がやりたい と思い転職した次第です。初心に回帰しているような不思議な気持ちですが、できることから、一歩ずつ、冬の被災地で少しでもお役に立てれば光栄です。

このたびは仮設住宅での予防医療と健康管理を致したく活動を開始しております。ご存知の通り、現在4800名以上の方が仮設住宅で集団生活されております が、健康状態は決して芳しいものではありません。漁や畑仕事などの職を失い、屋内退避があった影響もあるかと思いますが、みなさん体重が増加しています し、血圧も収縮期で20~30mHg上昇しております。外来で見ていても血糖、脂質のデータも悪化しており、この冬の心疾患、脳血管疾患イベントの増加が 心配されます。また仮設住宅での感染症の流行、集団感染も対応しなければならない喫緊の課題と考えられました。

実際に仮設住宅に入り居住者の方にお話を伺うと、現実に起きている受診を控えてしまう構造が見えてきます。多くの高齢者の方々が、これまで通院歴があり、 かかりつけ医でなんらかの内服加療をされています。市の巡回バスもありますし、地域の病院、診療所の先生方のご尽力もあり、医療機関の業務は徐々に再生し つつあります。もちろん20キロ圏内からの避難でかかりつけ医の変更を余儀なくされた方もおりますが、結局のところ相対的な不便さ・待ち時間と、自身の受 診を秤にかけたときに、受診を控える、あるいは間隔を延ばしたいと考える構図が浮き彫りになって来ます。さらに予防接種ともなると、これまでも決して接種 率の高い地域ではなかったことから敷居が高いのが現実です。しかしながら、被災し避難所生活を経て、仮設住宅で集団生活を送る方々は、間違いなくこの国で 最も接種優先順位が高いハイリスク群であり、解決しなければならない問題と確信しました。

一つの解決策として、私どもは”Operation Nomaoi”なる、仮設住宅集会所でのインフルエンザならびに肺炎球菌ワクチンの出張予防接種事業を計画立案しました。野馬追は浜通り相馬地区の大変伝 統的なお祭りですが、南相馬のプロジェクトであることが分かり易いことに加え、騎馬武者が馬を追い込むお祭りのイメージが、感染症を封じ込めようとする今 回のわれわれの活動に重なる部分があると考えております。当初、市の健康福祉部健康づくり課にご相談した際には、「仮設住宅集会所での医療行為は認められ ない」、「市としては到底協力できない」、「開業医の先生方に迷惑がかかる」、「医師会は許可しないと思う」と厳しい出だしでした。

しかしながら、私自身、毎日仮設住宅の集会所のサロンに足を運び、仮設住宅の方々と接してみると、「話を聞いて接種の重要性は分かった、接種はしたい」、 「しかし、ただでさえ病院は混んでいるので予防接種のためだけに受診するのはしんどい、あるいは申し訳ない」、「できることなら集会所で接種してほしい」 という声が聞こえてきました。現場で日々サポートをされている生活支援相談員の方々も気持ちは同じでした。行政と協議を重ね、ワクチンの本数を確保し、接 種を行う医師を集め、同時に毎日仮設住宅の集会所に顔を出し、また30名近くいらっしゃる全ての仮設住宅自治会長さんともお話しし啓蒙活動を進めました。 紆余曲折ありましたが、南相馬医師会長である高橋先生の多大なご理解とご協力を得て、なんとか形にすることができました。そもそも、当初より高橋先生から は良いことだから頑張ってやりなさい、と大変温かいお言葉を頂戴致しました。お陰さまで、来週末の11月26日、27日より寺内塚合仮設住宅を皮切りに集 会所での接種を開始できる運びとなりました。年内に全ての仮設住宅を回ります。

仮設住宅では、新たな問題も浮上してきております。いわゆるfrail elderlyである独居高齢者が多いのも事実ですが、高齢夫婦の二人暮らしにおいてDVやアルコール依存の問題が出てきています。昼間から大五郎のペッ トボトルを持ってフラフラしている高齢男性をみると悲しくなります。現在、私も保健師、生活支援相談員の方々とこういった問題を共有させて頂いております が、非常に難しい問題です。また集会所のイベントに男性の方々の参加率が低い原因として、タバコが吸えないことが明るみに出てきました。今後は往診業務な どを通じて、健康管理に加えてこれらの問題にも介入して参りたいと考えております。

私は31歳の医師とて、いま見ているのは20年後のこの国の医療なのではないかと考えております。喪失体験、失業、孤独を抱える仮設住宅の方々に接するに つけ、地域医療の本質である寄り添うことが必要だと感じます。先日、近隣の小野田病院の先生方にご挨拶させて頂きましたが、訪問看護や入院での協力を快諾 して下さいました。今後はより一層地域の先生方との連携を深めて参りたいと考えております。

最後に、僭越ながら私の好きな短編を共有させて頂きます。

“The Star Thrower” (Loren Eiseley著)
There was a man who was walking along a sandy beach where thousands of starfish had been washed up on the shore. He noticed a boy picking the starfish one by one and throwing them back into the ocean. The man observed the boy for a few minutes and then asked what he was doing. The boy replied that he was returning the starfish to the sea, otherwise they would die. The man asked how saving a few, when so many were doomed, would make any difference what-so-ever? The boy picked up a starfish and threw it back into the ocean and said “Made a difference for that one…” The man left the boy and went home, deep in thought of what the boy had said. He soon returned to the beach and spent the rest of the day helping the boy throw starfish in to the sea….

ただ世界が流れているのを眺めて過ごす観察者でいることを選ばず、その世界の中で行動を起こし、何かを変える事を選んだ若者のお話です。震災や原発事故以 前から、私たちはカオスな世界の不確実性に耐えながら生きています。万が一のことを考えたら飛行機も乗れません。そんな世界でreasonableな risk-takerとして生きる我々に、いつも力を与えてくれるのは、”It made a difference for that one.”という希望ではないでしょうか。

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