医療ガバナンス学会 (2011年11月29日 06:00)
この記事は相馬市長立谷秀清メールマガジン 2011/11/11号 No.260より転載です。
福島県相馬市長
立谷 秀清
2011年11月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
話せばいろいろなアイディアが生まれてくるものだ。
「会員はねぇ、どちらかというとシニア世代が多いので、ガレキの運搬や泥運びのような力仕事が出来なくてねぇ。でもねぇ、みんな何かの役に立ちたいと思っているのですよ」「じぁ、皆さんの得意な写真を撮ってくれればいいじゃないですか?」
「まさか報道写真じゃあるまいし、避難されている方にレンズを向けて失礼になってもいけないし」
「記念写真ならどうでしょう?それも素人では撮れない写真館のような写真をプレゼントするというのは如何ですか?できたら被災地に希望を与えるような。力を合わせて頑張る家族の写真というのはどうですか?」
「写真で被災地支援が出来るのなら願ったりですが、でもスタジオセットが組めるような場所はありますか?」
「集会所を使って巡回しながらという手はあると思います」
このあたりから朝日氏の表情がだんだんと明るくなってきた。
「それだったら、カメラメーカーの協力を取り付けて、そうだ照明器具やプリンターのメーカーにも話して・・・」
こんな具合で全日写連主催による仮設住宅集会所スタジオ撮影会計画、「頑張る家族の肖像」撮影プロジェクトがスタートした。
朝日氏らの声掛けにより協賛を申し出てくれたのが、ニコン、エプソン、山田商会などの写真機材メーカーや、プロフォト、銀一、高橋カメラなどのスタジオ関 係の有名企業。またハクバ写真産業やセキセイからのアルバム提供も決まった。ほかに資生堂のお化粧のプロの方が毎回相馬まで出張してきて、被写体になる女 性たちをキレイに仕立て上げてくれるという。撮影は基本的には全日写連の会員カメラマンが担当するが、最初の2日はプロ写真家の田沼武能、榎並悦子両先生 にボランティアで撮影していただけることも決まった。
11月5日の初日、柚木仮設住宅の集会所は東京から駆け付けた協賛企業の担当者や福島県の全日写連の役員、それに相馬写友会のアシスタントメンバーに囲ま れた7組のモデルさんたちで大賑わいとなった。撮られる方々ははじめ緊張気味だったが、そこは田沼先生も榎並先生もさすがにプロ、資生堂に見違えるような 美人にされたお母さんたちから上手に笑顔を引き出していく。モデルさんたちの笑顔につられて会場がどんどん明るくなっていく。
渡部近さん夫婦は80歳と76歳。今回被害にあった磯部に生まれて、人生のほとんどを農業で生活してきた。3人の子供に恵まれ曾孫もいる。10年前に引退 し、気さくな奥さんとの老後の平穏な暮らしのなかで、今回の津波に遭って家を流された。お宅の跡地も田んぼも、見る影もない。手際よくメークされる奥さん を横目で見ながら、うつむき加減に待っている近さんの横顔は、津波の理不尽さを雄弁に語っているように思えた。若いころからコツコツと働いてきた人生の足 跡を、一瞬にして奪われた悲しさ寂しさは察するに余りがある。
メークを終えて少し若くなった奥さんを横目で見ながら、もじもじしていた近さんは、撮影用の椅子に座っても表情が硬かった。こういうときは大抵奥さんのほ うがどっしりしているというが、多聞にもれず、照れながらも笑顔を作る奥さんに比べて近さんは気の毒なぐらいぎこちない。
被災して8か月の段階でのこの企画には、やはり無理があったのかと私が思ったとき、撮影者の田沼先生からポーズの注文が飛んだ。「旦那さぁ~ん。ちょっと 奥さんの肩もってくれませんかぁ~」「あっ、ハイハイ」恥ずかしがって離れていたふたりだったが、近さんの右手が自然に奥さんを抱き寄せるようになる。す ると「父ちゃんに肩に手ぇかけられたなんて、今までにねぇなぁ」会場全体の笑いがふたりの笑顔を作っていく。さすがにプロの技。撮影中も微笑ましかった が、出来上がった作品も、こちら側が幸せな気分にさせられる素晴らしいものだった。ホームページにアップしているのでご覧いただきたい。(#1)
この撮影会は150組の家族写真を撮る予定で、年明けまで続く。やがて被災者の生活再建が成ったとき、それぞれの家庭が震災被害に立ち向かった記憶が語り継がれるように、会員一同願って已まない。
(#1) http://www.city.soma.fukushima.jp/0311_jishin/ganbaru_kazoku/index.html
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