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Vol.329 『ボストン便り』(第31回)謎に満ちた日本のポリオワクチン接種

医療ガバナンス学会 (2011年12月1日 06:00)


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ハーバード公衆衛生大学院リサーチ・フェロー
細田 満和子(ほそだ みわこ)
2011年12月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


紹介:ボストンはアメリカ東北部マサチューセッツ州の州都で、建国の地としての伝統を感じさせるとともに、革新的でラディカルな側面を持ち合わせている独 特な街です。また、近郊も含めると単科・総合大学が100校くらいあり、世界中から研究者が集まってきています。そんなボストンから、保健医療や生活に関 する話題をお届けします。
(ブログはこちら→http://blog.goo.ne.jp/miwakohosoda/)

●ワクチン「拒否率」の上昇
現在日本においては、ポリオワクチンを巡る議論が社会的問題となってきています。すなわち、ワクチンによるポリオ麻痺(VAPP)を避けるために不活化ワクチンを求める親たちと、生ワクチン接種を推奨し続ける政府とのコンフリクトが起こっているのです。
その結果、何が起こっているかと言うと、ポリオワクチン接種率の低下です。都内で小児科を開業されている宝樹真理医師は、渋谷区や港区や世田谷区の接種率 は、今や5割に低下していると言います。予防のためには90%がワクチンを接種している必要があるといいますから、この接種率50%というのは明らかに危 機的なものです。
従来より現行の生ポリオワクチン接種に疑問を呈してきたテレビ制作者の真々田弘氏は、このワクチン接種率の低下を、「ワクチン拒否率」だといいます。親に とってみれば、安全性が確立されている不活化ワクチンがあって、諸外国ではすでに何年もルーティンで使われているのに、生ワクチンを打つことで我が子がポ リオを発症してしまうことは、絶対に避けたいことなのです。
しかし、どういう訳か日本では、未だに生ワクチンなのです。アメリカで子育てすると、日本とアメリカで、予防接種の数と回数が全く違うのに驚きますが、一つ一つ調べていくといろんな疑問に出くわします。ポリオもその一つで、調べれば調べるほど、謎が出てきます。

●日本小児科学会の見解
ワクチン接種率の低下を懸念して、日本小児科学会の予防接種・感染対策委員会は、2011年11月14日に「ポリオワクチンに関する見解」をホームページ上に掲載しました。その冒頭では、こんな風に書かれています。

「世界的にはまだ野生株ポリオの流行が存在する中、わが国においてはポリオワクチン接種率を高く保つ必要があります。IPV(不活化ポリオワクチン:筆者挿入) が導入されるまでポリオワクチン接種を待つことは推奨できません。」

そして、生ワクチンによって実際にポリオに罹ってしまうことがあることを明記して、WHOのポジション・ペーパーを引用して、こんなことも書いています。

「世界保健機構(WHO)は生ポリオワクチンによるポリオ麻痺を予防するために、お母さんの免疫が残っている間に初回の接種をするように勧めています」

●WHOの見解
この日本小児科学会の見解を読むととても不思議な気がします。というのも、小児科学会が引用した実際のWHOのポジション・ペーパーの当該箇所を和訳すると、このようになります。

「母親由来の免疫がまだ残っている間に初回のOPV接種を提供することは、少なくとも理論的にはVAPPを予防するかもしれない。しかしながら、出生時接 種の抗体出現割合のデータは非常なばらつきを見せている。低いところではインド(10-15%)、中間値のエジプト(32%)、高いところでインドネシア (53%)…」

すなわち、日本小児科学会は「WHOはお母さんの免疫が残っている間に初回の接種をするように勧めています」と書いているのですが、当のWHOは「母親由 来の免疫がまだ残っているうちに初回の接種をすることは、少なくとも理論的には予防するかもしれません」と書いているのです。ここにはかなりのズレを認め ざるを得ません。どうしてこのようにズレていることを、学会の見解として表明するのでしょう。とても不思議です。

●WHOとの違い
また、同じWHOのポジション・ペーパーには、生ポリオワクチンによるポリオの発症(VAPP)件数は、年間で100万人に4人と書いてあります。しか し、日本小児科学会の声明では、日本では100万人に1.4人と書いてあります。これも不思議で、日本小児科学会はいかなる根拠によってこのようなことを 書いているのでしょうか。
日本小児科学会の最大の不思議な点は、まだあります。WHOの世界ポリオ撲滅イニシアティブのスポークスマンであるオリバー・ローゼンバウアー氏は、生ワ クチンによってポリオに罹ってしまうことはまさしく害悪なので、「ひとたびポリオの野生株の撲滅を達成できたら、経口ポリオワクチンをルーティンの接種で 使用することは中止する必要があろう」と、2011年11月11日にオンラインのカナダ医師会誌で語っています。
これはいまさら新規に言われたことではなく、生ワクチンによって実際にポリオが発生する危険性は従来から言われていたからこそ、ポリオを撲滅した国(日本 を除くほとんどの先進国)では次々に不活化ワクチンに切り替えているのです。それでは日本小児科学会は、このWHOの見解や、ポリオを撲滅した諸外国の状 況を知らなかったのでしょうか。

●生ワクチンによる被害
現在、世界的にポリオを撲滅しようとする動きが活発で、ロータリー・クラブ、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団、日本の外務省でさえ、莫大な資金を投入 して、キャンペーンをしたり、予防接種を普及させようとしています。そのおかげで、たとえばかつてポリオ蔓延国であったインドは、WHOの推奨するポリオ 撲滅戦略を全面的に受け入れて、2011年1月に1人の患者が発生しただけで、以降、ポリオの発症例は報告されていません。
ところが日本では、2011年5月に発表されたように、生ポリオワクチンの接種によってポリオに罹ってしまった子どもがいるのです。どうしてこんなことが 起きてしまうのでしょうか?ポリオ発症数をゼロにしたインドと未だにポリオ発症者のいる日本との違いはどこなのでしょう? インドはWHOの推奨を受け入 れたからで、日本は受け入れていないからなのでしょうか?いったいどうして現在に至るまで日本では、ポリオが撲滅できないのでしょうか?
謎は深まるばかりです。

【謝辞】
ポリオワクチンに関する情報を提供して頂き、ご意見を聞かせて頂きました真々田弘氏、ポリオの会の皆様、宝樹真理氏に心からのお礼を申し上げます。また、感染症コンサルタントの青木眞氏のブログは大いに参考にさせて頂きました。ありがとうございました。

(参考資料)
1.日本小児科学会、予防接種・感染対策委員会による「ポリオワクチンに関する見解」。

http://www.jpeds.or.jp/saisin/saisin_111114.pdf

(2011年11月19日にダウンロード)
2.WHOのポジション・ペーパー「撲滅前時代におけるポリオワクチンとポリオ予防接種」
WHO,Polio Vaccines and Polio Immunization in the Pre-eradication Era: WHO Position Paper, Weekly Epidemiological Record, No.23, 2010, 85, 213-228.

http://www.who.int/wer/2010/wer8523.pdf (2011年11月19日にダウンロード))

3.「WHOはポリオ集団発生と関連するワクチンの廃止を熟考する」、カナダ医師会誌、オンライン、2011年11月11日発行
WHO Mulls Phase Out of Vaccine Linked to Polio Outbreaks, Canadian Medical Association Journal(CMAJ),

http://www.cmaj.ca/site/earlyreleases/11nov11_who-mulls-phase-out-of-vaccine-linked-to-polio-outbreaks.xhtml

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