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Vol.330 混合診療より保険充実がまずありき、悪影響のない範囲限定が大前提

医療ガバナンス学会 (2011年12月2日 06:00)


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がん既往患者の家族
2011年12月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


以前にVol.145「イレッサ訴訟大阪・東京地裁判決の問題点」(2011年4月24日配信)を投稿した者です。
これはVol.314〜316「最高裁判決を受けて~人権後進国・日本」(2011年11月14日~16日配信)への反論です。

1.判決について
高裁および最高裁の法解釈は現行法の不明瞭部分を法全体の整合性を元に推論したものなので極めて妥当な判断だと思います[1][2]。
清郷氏は判決を「死刑に処すというペナルティ」と表現し、あたかも生存権を奪われたかのように主張しています。しかし、清郷氏の求めるLAK療法が効いて いると断定できる科学的根拠がない以上、それは的外れです。清郷氏は「多数意見に与することはできないとする判事」として寺田逸郎裁判官の名前を挙げてお られます。
しかし、寺田逸郎裁判官もLAK療法については否定的です。その理由は、高度先進医療専門家会議により有効性が明らかでないと判断されたからです。清郷氏 は「公的なルール」の元での混合診療でLAK療法が認められるのであれば「公的なルール」は機能しないも同じです。「公的なルール」の元での混合診療を主 張されるのであれば、清郷氏の求めるLAK療法は真っ先に対象外とすべきものです。有効性が疑わしい療法を対象外としても「全国のがん患者、難重病患者に 希望する医療を受けられる道が閉ざされてしまった」とは言えません。

2.理想の混合診療論
以下、法解釈の面ではなく、医療制度としてあるべき姿から混合診療を論じてみたいと思います。
私は、解禁派の方々の混合診療解禁が先にありきの主張に疑問を覚えます。患者の立場で解禁を訴える人の動機は保険診療で受けたい診療が受けられないことに あります。それならば、まず、必要な医療は全て国民皆保険制度で面倒を見るよう保険対象を充実すべきです。その対応でどうしても解決できないならば、国民 皆保険制度に悪影響を与えない範囲に限ることを前提として、限定的な混合診療を模索すべきだと思います。

3月27日のVol.91を見ると、清郷氏は「国民皆保険は裕福な人が得をするシステム」と誤解されています。
まず、「貧しい人は世界的にも高率な3割自己負担に耐え切れず高額な医療は受けられない」は事実誤認です。自己負担月額が一定額を超えた場合に超えた額の 99%(低所得者は100%)が戻ってくる高額療養費制度があります[3]。この制度を活用すれば「3割自己負担に耐え切れず」ということはまず起こりま せん。そして、「医療費はまったく平等である」も事実誤認です。高額療養費限度額は所得階層等に応じて決められているので、所得の低い人ほど有利です。こ のように、高額医療における患者の自己負担は単純に3割負担ではなく、もっと低く抑えられているのです。

もう1つ重要なこととして、国民皆保険制度には保険給付額の上限がありません。一方で、民間の医療保険では給付額に上限があります。国民皆保険制度では医 療費が給付限度を超える心配はありません。「保険料を払えない人は保険資格を取り消される」は保険料の減免制度の問題であって議論の本質から外れます [4][5]。確かに、国民健康保険の減免制度は市町村毎に制度が違うため、必ずしも充分な減免を受けられるとは限りません。しかし、現行の減免制度が不 十分であるなら、もっと減免制度を強化すれば済むことです。また、実際には手続をしていないために減免制度を受けられない事例も多いように思います。こう した減免制度の問題点を挙げて「裕福な人が得をするシステム」は事実と違います。

先に述べた通り、制度改革を論じるなら、保険診療の充実方法を考える必要があります。そのためには、まず、最初にドラッグ・ラグや未承認薬が生じる原因を 調査しなければなりません。私の調べた限りでは、薬価の安さ、特許制度の問題があるようです。日本の国民皆保険制度での薬価は国が決めますが、米国に比べ てかなり安く抑えられていると言われます[6][7][8]。日本の医薬品市場は米国に比べて魅力に乏しく、海外の製薬会社が参入したがらないのです。製 薬会社も営利企業であり株主に利益を還元する義務があるため利潤追求は止むを得ないことです。慈善事業でやっているのではないのだから赤字になってまで医 薬品を提供しろと言うのは無理な話です。

だから、何らかの制度改革を行なって日本の医薬品市場を魅力的なものに変えなければなりません。対策として新薬創出・適応外薬解消等促進加算が試行導入さ れていますが、試行段階なので効果は未知数です。厚生労働省の開発要請に応じない企業は制度の対象から外すため[8]、要請外の新薬の開発変更を余儀なく されているケースもあります[9]。市場実勢価格と薬価の差が大きいものも対象外になるため[8]、全ての新薬が対象になるわけではありません。

今から改革しても特許切れの医薬品については手遅れです。特許の出願、審査請求、維持には、特許庁に料金を支払わなければなりません[10]。特許制度は 各国で独立しているため、複数の国で特許を取るためにはそれぞれの国に料金を払う必要があります。医薬品は約1万の候補物質から1つの製品が開発されるの で[11]、候補物質全ての費用を含めると特許関係費用も馬鹿になりません。だから、見込みがないと分かった物質の特許権を放棄したり、販売予定のない国 では出願を見送るなどして、特許対象の絞り込みを行なわないと医薬品の開発コストは莫大な金額に膨らみます。

医薬品や治療法ではないですが、田中耕一氏がノーベル賞を受賞した発明は国内の特許しか取られていません。(海外で特許権フリーであったために応用研究が 進み、それがノーベル賞受賞につながったと言われています。)出願を見送った場合は公知になってから1年で、審査請求を見送った場合は出願から3年で [12]、特許権を放棄した場合はその場で、それぞれ、特許が無効になります。「欧米に遅れること数年や十数年」の未承認薬についても、その例外ではあり ません。

十数年も未承認薬のままである医薬品はとっくの昔に権利放棄されていると思われます。特許のない医薬品は、独占販売が保証されないため、開発コストが回収 できない恐れがあります。開発コストが回収できない恐れがあれば、製薬会社が開発を敬遠しがちです。この特許切れ未承認薬についても何らかの対策が必要で す。

清郷氏は、普通車とグリーン車に例えて「乗車に差はない」と仰ります。しかし、そこには日本の国民皆保険制度特有の事情が全く考慮されていません。製薬会 社としては保険診療よりも自由診療の方が利益が上がります。保険会社としても、自由診療でなければ参入機会を得られません。営利企業の立場では、保険診療 よりも自由診療の方が魅力的なのです。JRの事例では、グリーン車はコストも価格も高く、普通車と比べて一長一短であり、全てグリーン車にしたり全て普通 車にしたりすることはあり得ません。

一方、医療では、営利企業にとっては保険診療よりも自由診療の方が圧倒的に優れているのです。それでも、保険診療が縮小して自由診療が拡大することが夢物 語だと言えるでしょうか。実際に規制改革推進会議の資料にもそうしたことを示す図が書かれています[13]。清郷氏が民間委員・製薬会社らに聞いた話は混 合診療解禁によって利益を得る当事者に聞いた話なので、解禁すべき、あるいは、解禁しても問題ないとする意見は鵜呑みにはできません。

歯科では多くの保険外併用療法が認められていますが、それは生命や健康に直接的に影響しないものだけです。つまり、歯科では命の値段に差をつけてはいませ ん。そして、一度、保険外併用療法となったものは保険診療になりにくいとの指摘があります。よって、混合診療が格差を産むとする懸念は、歯科の現状を見れ ば夢物語ではないことが分かります。患者の生命に関わらないから問題視されないだけで、混合診療は既に格差を発生させているのです。

「厚労省は医療費のとめどない増大に危惧を抱く」は実態とは逆でしょう。厚生労働省に限らず、官僚組織は常に自組織の勢力拡大を狙っています。その手段 は、自組織の管轄業務を増やすことです。管轄業務が増えれば予算も人も増えるというか、財務省に予算要求する根拠になります。逆に、管轄業務が減れば予算 も人も減らされます。厚生労働省だけがその例外と考える理由はありません。よって、厚生労働省も自組織の勢力拡大のための管轄業務増大を狙っているはずで す。それならば、当然、厚生労働省としても保険診療範囲を拡大したいはずです。その動機の良し悪しはともかくとして、保険診療範囲を拡大したいなら、少な くとも、患者とは利害が一致しているはずです。味方相手に敵対心を煽って対立構造を作り出して誰が得するのでしょうか。役人は国民が上手に扱い使うべき奉 仕者であって敵視する対象ではありません。

医療支出を削減したがっているのは財務省であって厚生労働省ではありません。混合診療を解禁すると、厚生労働省の予算要求に対して財務省は次のように答えるでしょう。「混合診療で対応できるのに、どうして保険診療範囲を拡大する必要があるのですか?」と。
混合診療が解禁されれば、財務省は新規の治療法の保険適用を認めないでしょう。あるいは、もっと踏み込んで、既存の治療法の保険外しまで行なうかもしれま せん。現状では、混合診療を禁止していることが財務省の圧力を跳ね返す根拠になっているのです。混合診療は、財務省の圧力に対する防波堤を壊しかねないの です。

清郷氏は混合診療を認めるよう裁判を起こされました。では、混合診療が認められたら、今度は、自由診療部分を保険で認めるよう運動を起こされるのでしょう か。もしも、そこまではしないということであれば、それも1つの懸念材料になります。解禁で満足してしまう人がいるならば、混合診療解禁は患者からの医療 改革の要望を弱めることに繋がります。

このように、混合診療を解禁すれば、保険診療の充実にとって不利なことばかりが起こります。保険診療の充実にとって有利なことはひとつもありません。混合 診療を解禁するなら、解禁によって生じる不利を何らかの方法で解消する必要があります。その他、安全性や偽医療防止の観点も含めて考えれば、混合診療を解 禁するとしても品目限定かつ期間限定である必要があります。そして、評価期間を過ぎた後は、保険診療に組み込むか混合診療の対象から外す選択をしなければ なりません。いつまでも混合診療のまま据え置けるなら、新薬が承認されなくなる危険性があります。また、安全性や偽医療防止の観点からも、効果がないもの は対象から外すべきです。さらに、財務省の圧力を跳ね返すためにも、混合診療の恒久化は絶対に避けるべきです。

繰り返しますが、保険診療の充実こそが最優先課題です。混合診療を解禁するとしても、保険診療の充実が先にありきです。補完のための混合診療であって、混 合診療が主となってはなりません。そして、国民皆保険制度に悪影響を与えない範囲に限定する必要があります。私は、解禁派の方々の主張にそうした視点が掛 けていることに危機感を覚えます。

保険診療の充実には財源問題も考える必要がありますが、それにも次のような対策が可能です。
(1)公共工事等を削減して医療財源に回す。
(2)市町村国保・政府管掌健康保険・組合管掌健康保険等の財政一元化。
(3)所得階層の細分化で高額所得者の負担を増やす。
(4)高額療養費制度等を充実しつつ窓口負担割合を増やす。
混合診療問題の議論なので、ここでの詳細説明を割愛させていただきます。

3.適応外処方
いわゆる55年通知[14]により、適応外であっても医学的に正しい処方であれば保険給付することとなっています。これは基準が曖昧[15]で使い難い制 度ですが、適応外処方にも保険給付が認められる余地が出てきました。その後も適応外処方については順次拡大が図られて、保険給付あるいは保険外併用療養費 として使えるものが増えました[16]。混合診療を論じるにあたっては、こうした制度も論じなければフェアではありません。

4.その他
「多くの薬害を起こしたのも重病、難病に有効な保険薬」は見当違いです。国が認めていない治療法による健康被害は薬害とは呼びません。だから、政府公認で ない治療法でどれだけ健康被害が発生しようとも薬害が発生するはずがないのです。保険診療と自由診療の健康被害の発生率を比較するなら意味がありますが、 こうした言葉遊びには何の意味もありません。「混合診療は財源を減らさない」は主張の辻褄が合いません。全額自己負担でも保険診療部分の保険給付ありでも 全体としての医療費には変化がないはずです。

だとすると、個人の自己負担が減れば、当然、保険の支出は増えるはずです。個人の自己負担を減らそうとすれば、保険の支出が増えないことはあり得ません。 定量的にどの程度増えるかは定かでなく、それが保険財政を致命的に悪化させるかどうかは不明ですが、「混合診療は財源を減らさない」は明らかな自己矛盾で しょう。

【参考】
[1]混合診療裁判高裁判決

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100405102504.pdf

[2]混合診療裁判最高裁判決

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111025155906.pdf

[3]高額療養費制度を利用される皆さまへ

http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken13/dl/100714a.pdf

[4]社会保険・労働保険|厚生労働省

http://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/hoken.html

[5]倒産などで職を失った失業者に対する国民健康保険料(税)の軽減措置

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000004o7v-img/2r98520000004oa7.pdf

[6]保険医療上必要性の高い医薬品の薬価改定方式について(P.4)

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001geji-att/2r9852000001gepx.pdf

[7]保険医療上必要性の高い医薬品について(P.7)

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001v8y9-att/2r9852000001v9fh.pdf

不採算品再算定を受けた品目数の推移
[8]平成22年度薬価制度改革の骨子(P.1,5,6)

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/06/dl/s0623-2e.pdf

[9]新薬創出・適応外薬解消等促進加算について(P.5)

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001v8y9-att/2r9852000001v93q.pdf

[10]産業財産権関係料金一覧 – 特許庁

http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/tetuzuki/ryoukin/hyou.htm

[11]医薬品産業ビジョン-厚生労働省(P.11)

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/08/dl/s0830-1c.pdf

[12]特許権を取るための手続

http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/tetuzuki/t_gaiyou/tokkyo1.htm

[13]主要官製市場改革ワーキンググループの取組みについて(P.2)

http://www8.cao.go.jp/kisei/minkan/giji/01/kansei01/3.pdf

[14]「保険診療における医薬品の取扱いについて(昭和55年9月3日付け保発第51号厚 生省保険局長通知)」(社会保険診療報酬支払基金理事長あて)(抄)

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/10/dl/s1027-16e_0004.pdf

[15]医薬品の適応外使用に係る保険診療上の取扱いについて

http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T090928S0020.pdf

[16]医療保険における革新的な医療技術の取扱いに関する考え方について(P.4)

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000yh89-att/2r9852000000yhdk.pdf

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