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Vol.339 ポリオワクチン問題~個人輸入のIPVに世田谷区って公費助成できないのだろうか?その7~

医療ガバナンス学会 (2011年12月14日 06:00)


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日本国主権者、東京都民にして世田谷区民
真々田弘
2011年12月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


11月16日。日本医師会は下記のような見解を出し、記者会見を行った。
会見

http://www.med.or.jp/shirokuma/no1480.html

見解

http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20111116_21.pdf

確かに、見解冒頭あるように、11年前に日本医師会はIPV早期導入を求め、問題提起した。

「平成12 年7 月、日本医師会は、福岡県で発生した生ポリオワクチン(以下、OPV)による副反応、および2 次感染の事例を受け、不活化ポリオワクチン(以下、IPV)の早期導入を強く要望する見解を公表した」(平成12年日医要望書)

当時、要望なさったことは正しかった。でもその要望が実現されないことを放置してきて、現在のOPV拒否率激増になっている、という現実に対する責任感は皆無とみた。
以下、正直に言えば、根本的なOPVによるポリオ発症率を理解しているのか、日医が現場にある生データを知っている医療者なのかと疑うことになる。日医が平成12年に出した見解中の文章を引用する。引用せざるを得ないからだ。

「生ワクチンを使用する場合は、麻痺を起こす副反応が約四百四十万人に一人」「現在、毎年約120万人が二回ずつワクチン接種を受けている現状を考えると、二~三年に一人ずつはポリオの発症が予測されることになり、これを容認しておくわけにはいかない」

おそらく、財団法人日本ポリオ研究所の添付文書から引用したのだろう。ただし、当時の添付文書では440万「接種」あたり一人のVAPPとなっていたはず だ。私自身のこの数字の出典を探しあぐねていたりするのだが、天下の日医だから必ず、日医自身が出典を確認した数字だと信じたい。医学的に確信を持って見 解をだしたのだろう…と。
それが今回の見解。一気にVAPPの発症率が上がる。

「このような中で、OPV 接種者の100 万人に1.4 人程度出現するポリオ様麻痺をおそれ、OPV の接種率が低下している」

平成12年の数値から、いきなり4倍増。その理由は説明していない。つまり、単に厚生労働省が変更理由を明示せず公式発表に使い出した数字を引用しているだけのことだ。この点で、マスメディアを批判する権利の一端を日医は失っていることには気がついていないだろうが。
しかも、この100万人あたり1.4人という数字は、ワクチンの副作用だと国が補償を認めた数に過ぎない。多くの補償を受けられぬ潜在例があることを、認知していない。

つまり、「100万人に1.4人程度出現する」という記述は虚偽である。提示する数値の根拠を示さない見解なんてありえるのだろうか。しかもこの書き方 は、申し訳ないが表現者の立場から言わせれば、VAPPなんてめったにおこらないものだ、と強調しているためだけのことだ。そこで、語るに落ちる一文。

「日本におけるポリオ野生株の根絶の背景には、OPV 接種の普及が大きく貢献していることは紛れもない事実である」

はい。おっしゃるとおり。大流行期の昔話としては。でもね。野生株根絶の後に30年の長きに渡ってOPVを使い続けている国ってありますか?OPVが原因と判って
るのに30年あまりの間、ポリオ患者を作り続けている国はありますか?
医療者としては、普通だったらとっととIPVに切り替えていて当たり前だから、特例承認してでも子どもたちのために入れましょう、という厚労省の既存方針に逆らう観点は無い。まったく、無い。
さらに見解は展開してゆく。

「3. 個人輸入によるIPV 接種の問題点
個々の医療機関の個人輸入によるIPV 接種が徐々に増加しており、平成22 年4 月から23 年7 月までの間、接種者数は1 万7 千人強に上っている。(資料4 参照)
しかし、薬事法の承認を受けていないIPV による副反応被害は独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)による健康被害救済制度の対象にはならないし、もちろん予防接種健康被害救済制度の対象にもならない。
IPV による副反応も少ないとはいえ確実にあり、また紛れ込みである可能性は捨てきれないまでも、重篤な副反応例も皆無とはいえない。(資料5 参照)」

これは脅し、ですか。脅し以外の何者でもない。「補償の無いワクチンを選びますか?」と。
でも補償の無いワクチンはポリオを防ぐためのワクチンで、それならポリオにはならない、ということを母親たちは知ってしまっている。さらに加えるなら、あなた方がいつできるかは本当にはわからない国産ワクチンが導入されたところで。

「IPV による副反応も少ないとはいえ確実にあり、また紛れ込みである可能性は捨てきれないまでも、重篤な副反応例も皆無とはいえない」

このことはワクチンでは当たり前のこと。なぜ、この文脈でそれを語る必要があるのか。国が認めていない、何かあっても補償の無い怖いワクチンとでも、いいたいのだろうか。
例えば、東京医師会が配布したポスターのように。

http://p.twipple.jp/wtkLp

しかも、国産でのDPT+sIPVは、全くの新規開発のワクチンになる。大規模接種したときの副反応も、免疫の長期的な持続力も全く不明のワクチンとなる のも自明のことだ。四種混合では一社が海外で長期の使用実績のあるDPT+eIPVワクチンの治験を行っているというが、さて、国が2種類の全く異なるワ クチンを承認し、現場に2種類のワクチンが供給された場合、あなた方はどう選択するのだ?単に国が承認したという「非医学的根拠」に基づいて区別無く接種 するというのだろうか。

「4. 今後望まれること
日本の予防接種政策の遅れについては、私たち医療者の側にも責任の一端はあろうかと考えるが、一部のマスコミが予防接種に対する不必要な不安を煽ってきたことにも責任の一端があると考えている」

マス・メディアの欠陥報道のあり方への批判については同意する。だが、それに続く結語は、

「現在私たちの置かれている現状から、OPV からIPV への切り替えが可能となるまで、なるべく多くの子どもたちがOPV の接種を受けていただくよう心から願っている」

日医自身が根拠を示さないまでも見解では認めているように、日医の認識としてはOPVによるVAPP発生リスクは、240万人~360万人に1人ではな く、100万人に1.4人であると高まっているはずだ。日医が自らの先進性を誇るがごとく語る平成12年見解よりVAPPリスクは、大幅に高まっているこ とになる。それなら、単なる国への要望で同じように終わっていいのか。

さらに言えば、WHOの標準では終生免疫を得るための投与回数は3回。日本はなぜか2回でしかない。その点での医学的な検討を行ったうえで生ワクチン2回 の既存接種体制でいいと、言い切っていいのか。とどのつまりは、現状肯定、お国の支持に従え、以外の何者でもない見解ということか。

しかも、恐らくは母親の立場には全くたっていないからだろうが、これもまたポリオワクチン接種率の低下を17.5%としている。これはこの春のポリオ定期 接種での1回目接種、2回目接種の合計の数値でしかなく、今年の春、初めてOPV接種を受けた方だけの数値を考慮していない。つまりは、メディアが大きく OPVによるVAPPの発症を取り上げた昨秋以降の影響を(影響という言い方は今回の場合違うとは思う。事実を知った、のだ)受けた、今春第1回接種者の 動向こそ見るべきものなのだと私は信じている。

接種率の低下は、OPVのリスクを知った保護者の拒否率なのだと認識せねばならないのだ。ポリオを防ぐワクチンでポリオになることと、ワクチンの中にポリ オにならないワクチンがあることを知った保護者に、そのリスクゆえにOPVを拒否・忌避している保護者たちに「なるべく多くの子どもたちがOPV の接種を受けていただくよう心から願っている」という医学的なベースにたたない、単に既存制度を押し付けるだけの言葉がいかに無意味であるか、ワクチンを 接種する側の日医が全く理解していないことに驚かざるを得ない。(ワクチン問題では、現場の医療者の知識のアップデートがいかになされていないかにはたび たび驚かされるのが実情ではあるが)

公衆衛生、とりわけ予防接種という問題は、少数の副反応被害をやむを得ざる是とする集団防御という考え方と、絶対安全を求める個人防御という観点で捉え 方、受け止め方が異なってくる。いかにして、集団防御のためのワクチンという概念を定着させてゆくのか。それが個人防御につながることをいかに理解させて ゆくのかが、公衆衛生を担う方々の課題だと思う。
その時、医療者が伝えるべきは、そして子どもたちに何より与えるべきものは、世界標準とされる知見をベースとした、世界標準となるワクチンではないのだろうか。

ポリオワクチンの場合、野生種根絶地域の世界標準はIPVであり、現実に日本国以外では普通にそれが使われ、かつ日本国内でも接種を受けられる環境があ る。「国産ワクチンができるまで」は、行政の言い訳でしかない。医療者がそれを語ってしまえば、医療はその尊厳を失うと私は考える。

PS:この勝手連載のターゲットである世田谷区は、全く動いてくれない。引き続き水面下での工作を継続する。

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