医療ガバナンス学会 (2011年12月25日 06:00)
~『ロハス・メディカル』新聞社版2012年1月号より
日赤医療センター小児科顧問
薗部 友良
2011年12月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
複数ワクチンの同時接種問題も一つのシンボルと考えることができます。
ヒブワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンの添付文書の文言追加が問題になっていますが、厚労省サイトの3月29日版Q&Aの方が新しいこと、日本小児科学会が文言の再改訂を要望していることは知っておいてください。
添付文書の法的拘束力が強いと思っている方に一言申し上げますと、これまでの司法判断が踏襲される限り、紛れ込み事故が起きてしまった時には、たとえ添付文書に従って単独接種していたところで国か医療機関のどちらかが敗訴します。どうせ敗訴するのですから、世界の常識から乖離した添付文書を金科玉条のように捉え、不合理と思うことにまで従うべきではないと考えています。
当面、同時に打って悪いことが起きる確率と、単独で接種が遅れ悪いことが起きる確率と、医師が専門性と良心に従って考え選ぶよりほかないことです。比較にならないほど前者が低いというのは、データをきちんと見る医師にとっては自明のことと思います。そもそも、DPTのように事前に混合してあるワクチンは OKで、打つタイミングを一緒にするのはダメ、というのは全く理屈が通らない話だと思いませんか?世界では5~6種の混合ワクチンが当たり前になりつつあ ります。
ワクチンは、世界中の人たちから「悪いことが起きるんじゃないか」という疑いの眼差しを向けられ続けてきました。同時接種についても同様です。それでも重大な危険性が高まるという科学的報告は全くなされていません。同時接種で有効性が下がるかどうかに関しては諸説ありますが、免疫が十分に獲得されない人は 単独接種の場合にも出ますし、接種率が上がって集団免疫が形成されれば、免疫の不十分な人たちも守られることになりますから、実効性は同時接種の方が高い と思います。
私たちの会では、定期接種のワクチンを打つ時、同時に任意接種のワクチンも接種するようお勧めしています。万が一に有害事象が発生した場合でも、恐らくワクチンとの因果関係は明確にならないので、その場合は定期接種の事故として扱われ速やかに救済されます。そう考えれば、医師としても安全かつ安心で、子供 たちのためにもなります。
(そのべ・ともよし)1968年千葉大学医学部卒業。70年日赤中央病院小児科。95年同部長。98年筑波大学臨床教授併任。2009年から現職。