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Vol.358 相馬市で働き始めました

医療ガバナンス学会 (2012年1月9日 06:00)


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都立墨東病院 麻酔科シニアレジデント
岩本 修一
2012年1月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


私は都立墨東病院の麻酔科シニアレジデントである。2011年3月25日に福島県相馬市に行く機会があり、老健施設でお手伝いをさせていただいた (http://medg.jp/mt/2011/04/vol123.html)。それ以後、今度は長期的に被災地に関わる機会を探していたが、 2011年11月18日より相馬中央病院で診療をさせていただくこととなった。現在、相馬中央病院で非常勤として金曜と土曜に勤務し、診療を行っている。 診療は、一般外来や予防接種・健診などの外来業務を中心に、中心静脈カテーテル挿入などの処置や緊急時対応も行っている。

3月に訪れた際は、震災直後の混乱は一旦落ち着いていたものの、依然として慌しさを感じた。11月18日に久しぶりに訪れると、新たなスタッフが加わった こともあり、活気づいていた。震災後、南相馬市の小野田病院や渡辺病院が閉院した。やむなくそこを辞めた方たちが相馬から復興のために頑張っている。

11月からの2ヶ月間の診療を通して感じるのはやはり震災が地域の方々の傷として残っているということである。不眠で受診した30代男性は「震災後、睡眠 薬なしでは眠れなくなりました」と話した。診療をしていて、このように、「震災以降、体調が変わった」という方は多い。とくに、津波で家族を亡くした人や 震災・原発事故の影響で仕事を失った人に多いように感じる。不眠は睡眠薬で解決できればいいが、心の傷は時間をかけていくしかないだろう。

津波で娘を亡くした80代女性の認知症の方は、震災以降、せん妄が悪化した。同行していた家族は「夜に世話をしないといけないので、眠れていない」と話し た。震災後に認知症が悪化したというエピソードは他にもある。60代女性とともにその義理の祖母にあたる100歳女性が受診した。その一家は南相馬市の小 高から相馬に避難し、現在はアパートで生活している。100歳女性は夜にも大声をあげたり、壁を叩いたりするとのことだった。これを世話する家族の負担は 体力的にも精神的にも相当大きい。私は患者本人だけでなく、家族の話もできる限り聴くようにしている。

また、社会的な問題から適切に医療を行えないケースもある。ある40代男性は以前から糖尿病の治療を受けていたが、震災後、県外に一時避難している間に 持っている薬がなくなった。それにより、糖尿病が悪化し、腎不全を合併して血液透析を導入した。避難中の透析導入で指導が不十分なことに加え、当時通院に 片道1時間以上もかかるため、週3回必要な透析を2回しか行えていなかった。

一方で、相馬中央病院で働く方々は明るく、活気がある。同院の標葉(しねは)副院長はバイタリティあふれる先生である。多くの患者を診ながら、私にもご指 導いただいている。同氏は、2011年5月まで南相馬市の渡辺病院で院長を務めていたが、苦渋の決断で閉院を決めた。「こうすれば患者さんはよくなる、こ うすれば喜んでもらえる」といつも患者にとってどうすればいいかを考える姿勢と行動を私は尊敬し、見習いたい。

医師だけでなく、看護師も事務もその他のスタッフも、地域の医療と患者のために、自分のできることをやっている。

最後に、診療中のエピソードを一つ紹介する。めまいで受診した70代女性に検査結果を説明していると、「孫に会ったみたいで元気が出た」とろくに話も聞か ずに急に元気になった。私の能力とは関係なく、単に年齢の近い孫がいたというだけであるが、私にとってうれしい出来事だった。

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