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Vol.367 死因究明に関する二法案の相違点

医療ガバナンス学会 (2012年1月16日 06:00)


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前衆議院議員
自由民主党岡山県第四選挙区支部長
橋本 岳
2012年1月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


警察庁は来年招集される通常国会において、「死因究明適正化法案」を提出する予定としている。この法案は、今年4月に警察庁が発表した「犯罪死の見逃し防 止に資する死因究明制度の在り方について」の提言の内容を法制度化するもので、具体的には法医解剖制度の創設や、法医解剖センターの指定、法医学的検査の 導入等が盛り込まれる。この提言そのものに対しては、5月23日付MRIC Vol.171「『犯罪死の見逃し防止に資する死因究明制度の在り方について」について』にてコメントしたのでそちらをご参照いただきたい。
一方、私が衆議院在職中に事務局を務めていた自民党・公明党有志による議連「異状死死因究明制度の確立を目指す議員連盟」は政権交代後も活動を続け、すでに昨年6月に「死因究明推進法案」(第174回国会衆法第30号)を提出しており、現在衆議院内閣委員会に付託され継続審議扱いとなっている。
この両案は、名称とテーマはかなり共通しているが、同時に提出者の意図や目的には相違点が際立つ。「似て非なるもの」という言葉がぴったりだ。本稿は来年に予想される国会審議を前に、両案の相違点を検討し今後の動向に注意を促すものである。
なお紛らわしいので以後「死因究明推進法案」は「議連法案」、「死因究明適正化法案」は「警察庁法案」と記す。また、MRIC Vol.279にて井上清成弁護士が指摘したように「死因究明」という言葉は微妙なニュアンスを含むため、ここではあえて「人が亡くなった原因を調べるこ と」を「死因調査」と記す。

1. 死因を調査する目的が異なる
まずそもそもなぜ死因を調べなければならないのか。至極当たり前のようだがここをはっきりさせることが法律や制度の出発点となる。議連法案では、まず「死 因究明は、生命の尊重と故人の尊厳の保持に繋がるもの」という基本理念を示した上で(1)人の死亡が犯罪行為に起因するものであるか否かの判別の適正の確 保、(2)公衆衛生の向上、(3)その他の死因究明に関連する制度の適切な実現、を目的としている。一方警察庁法案は、上記報告書の本文中にて提言の目的 を「これらの問題点を解決し犯罪死の見逃しを防止するため」としており、まさに「犯罪死の見逃し防止」が目的とされている。
よって議連法案の方がより普遍的かつ広範な目的を掲げていると言える。なお警察庁報告書には、「死因究明における重要な課題である公衆衛生の向上を目的とすることを含めた制度の在り方について、今後、国会、関係省庁、関係団体等において議論が行われることを期待したい」と記されており、少なくとも研究会メ ンバーは提言の目的が限定的であることに自覚的であったことは明白である。そのまま法案提出に向け検討が進められるのは首をかしげざるを得ない。

2. 診療関連死の取り扱いが異なる
警察庁法案については、12月1日に行われた「異状死因究明制度の確立を目指す議員連盟総会」の席上、出席議員からの質疑に対する答弁として、「医師から 届け出があったものは対象となり得る」「医師法21条の改正は考えていない」旨の答弁があった。診療関連死については厚労省にて別途検討されているとのこ とであるが、その内容は明らかにされていない。一方議連法案は法案中に明記してはいないものの、診療関連死問題も含めて現状の死因調査を巡る問題を検討し 新制度を設計ための枠組みを示したものであり、むしろ積極的に診療関連死の問題の解決に向けて取り組もうとするものである。詳細は「死因究明制度の問題点 と解決策―死因究明推進法から制度改革に向かって」(冨岡勉ほか、週刊日本医事新報No.4554所収)をご覧いただきたい。
医療事故調査委員会については、今年になって日本医師会や日本救急医学会が提言を行うなど真摯な議論が続けられている。また佐藤一樹医師による医師法21 条に関する問題提起も続けられている(MRIC Vol.306「『医師法21条』再論考―無用な警察届出回避のために―」など)。そうした議論を考慮することなく、とにかく「犯罪死の見逃し防止」に傾 倒する姿勢には、いささかの危惧を感じざるを得ない。

3. 死因情報の扱いが異なる
議連法案では3つの目的を達成するために、死因調査によって得られた死因情報は、故人および遺族のプライバシーに配慮しつつ、死亡統計等の形一般に公開さ れる。またAiや解剖の結果なども遺族に開示されることが基本となる。これは現在の死亡診断書等の扱いと変わるものではない。遺族の承諾を得れば学術的な 利用の道もあるだろう。
警察庁法案において創設される法医解剖制度や法医学的検査の結果がどのように取り扱われるか明確な説明はないが、仮に司法解剖同様の扱いとなった場合、刑事訴訟法上裁判まで遺族にすら死因が開示されないこともあり得る。「犯罪死の見逃し」のみを目的として制度構築した場合、遺族や医療現場への情報提供は二 の次となりかねない。そのことが果たして望ましい制度といえるのかは疑問である。

以上3点について両法案の相違点を検証してきたが、「似て非なる」ことは明らかだ。もちろん来年の通常国会に警察庁法案が提出したとしても、ねじれ国会の情勢上与野党ともに賛成しなければ成立することはない。また政権交代前に当時野党だった民主党は独自に「非自然死体の死因の究明の適正な実施に関する法 案」を提出していたが、今回の警察庁法案に対する民主党内の反応も明らかではない。国会への法案提出後の議論は現職議員の方々にお委ねせざるを得ないが、今後とも注意を要するものと考える。

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