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Vol.376 相馬市での中長期的心理ケア事業に携わって

医療ガバナンス学会 (2012年1月22日 06:00)


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相馬フォロアーチーム
高崎 蘭
2012年1月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


平成23年5月末に初めて相馬市に入り、市の臨時職員としてスクールカウンセラーの仕事を始めました。震災から二ヶ月が経過し、最初の心理的な混乱がひと まず落ち着きをみせ始めた頃でした。その後NPO法人相馬フォロアーチームに出向し、教育カウンセラーや精神保健福祉士、保健師などの専門スタッフと共に 多角的視点から心理ケアをしようという動きに加わっていきました。相馬市は復興がいち早く進んできたとはいえ、地震・津波・原発の三重の被害を受けまし た。さらに、もともと精神科医療が脆弱な地域を直撃したことで、中長期的な心理ケアの必要性があってもなかなかままならないのが現状です。医療機関の受診 が必要である状態であっても、市内に精神科はなく交通状況も悪く、なかなか受診に繋がらずに病態がよくならないのをもどかしい思いで見ているしかないこと もありました。

活動の内容は、一般的なスクールカウンセラーの仕事に加えて震災後の支援活動を行う形となりました。震災から数ヶ月経っていたことから、積極的に何らかの 心理教育を企画するというよりも、その場にいて毎日の子どもたちの様子を教員や保護者にフィードバックすることの方が求められました。そこで、ほぼ毎日学 校内にいることで、相談したい人が相談したいタイミングで話せる場があるという安全基地secure baseになれるように活動しようと考えました。

一学期は週4日同じ小学校に常駐し、教室での児童の行動観察、親子への面接、休み時間に相談室を開放し箱庭体験などを行いました。夏休みは、保護者にス クールカウンセリングのお知らせを配り予約を取ってのカウンセリングを行い、加えて福島県立医科大学こころのケアチームの活動に参加し、仮設住宅を回りま した。二学期は、一学期に常駐していた小学校に週3日、もう一校に週1日伺いスクールカウンセリングを行いました。また、市の研修会の講師を担当し、未就 学児の保護者を対象とした子育て講座や、震災後の子どものこころのケアなどについて話をする機会も賜りました。

平成24年1月現在は、子どもたちのストレス反応は一学期よりも見られなくなったとはいえ、一部には心身症症状やPTSDがみられる子どももいます。避難 による転居・転入を受けて一時的に登校渋りや不適応などを訴える子どももいます。大きな災害に直面した時、誰でもストレスを受けます。ストレス反応から回 復する力は誰しもが持っており、大半は自然に回復していきますが、一部の人には長期的なトラウマを与えるといわれます。勤務先の学校では、授業中立ち歩い たり、急に泣き出したりする児童が見られなくなってきて、学校内が徐々に落ち着いてきたと感じられたのは、2学期も半ばになってからでした。

今振り返ると、”震災後だから特別に心理的ケアを受ける”ということを大人は嫌っているように見えることが多くありました。今はさまざまな気持ちを抑圧し ていないと、気持ちが動揺して日常生活を送っていけないという感覚があるのかもしれません。一度自分の気持ちに直面してしまうと、とたんに崩れてしまうよ うな、ギリギリのところを渡っている、消耗するかのようにがんばりすぎている人をたくさん見てきました。

その一方で、震災から半年以上経過した後に、地震が怖かったことを言葉や体で表現する子どもが何人もいたことが印象的でした。例えば、誰か一人が「自分の 家は津波でなくなった」と一言しゃべると、とたんに他の子どもも「うちもだよ」「私も」「おもちゃ流されちゃった」などと話し始めたり、年齢が低い子ども であれば津波の絵を描いたり・・・。言語が大人より未発達である小さい子どもであるほど、遊びの中で自分の気持ちを表現することがあります。中長期的ケア において、混乱した体験を話したり表現したりすることは、自分の考えや情緒を整理することに役立ちます。そういった気持ちを表現する場を必要としている人 が、中にはいるということなのでしょう。

ものの本によれば、震災から10ヶ月以上経過した現在は、震災により受けたストレスは回復過程にあるはずです。しかし、福島県の場合は原発事故の影響が色 濃く、慢性的な心配や不安が常にあり、地震・津波被害からは復興していった後もそのストレスは長期間続いています。そのため、震災後のストレス反応からの 回復過程は単一の災害に比べ複雑になっていると考えられます。加えて、市内でも地区ごとに被害の程度が大きく異なったこと(津波の被害を直接受けた地域の 人とそうでない地域の人が混ざり合って暮らしており、支援が必要な人とそうでない人がいるため、双方には温度差がある。単に”復興に向かってがんばろう” などの目標が共有しづらい)、地域の元々の風土(精神科医療あるいは心理的ケアになじみが薄い)、個々人が元々抱えていたリスク(震災前から何らかの疾患 を抱えていた、近くに頼れる人的資源が少ないなど)も含めさまざまな要因が重なり、大人も子どもも回復過程は本当に人それぞれという様相が強いと感じてい ます。

喪失したものは少なくはない場所ですが、言葉で現し難い悲しみや怒りなどの気持ちと寄り添いながら、明るい話題や楽しいこと、未来に向けて子どもたちが育まれるような環境ができるお手伝いになればという気持ちで、今後も活動を続けていきたいと思います。

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