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臨時 vol 112 「医の中の蛙」8

医療ガバナンス学会 (2009年5月18日 09:55)


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       ▽ 夜間診療のニーズ ▽
                           久住英二
 私は、医療提供体制には大きな改革が必要だと考えています。2030年には、人
口構成比で80歳代が最多となり、現行の医療提供体制では支えられなくなる可能
性が高いからです。病院は医療の中核施設であり、何とかして存続させる必要が
ありますが、現状では患者の殺到によりオーバーフロー状態となっています。診
療所が夜間診療を行うことは、患者を分散させ、病院の負担を軽減する一助とな
ると思い、活動をしています。具体的には、昨年6月に立川駅構内に「ナビタス
クリニック立川」を開設し、平日夜9時まで診療にあたっています。
 1周年を前にこのほど、弊院が「生活動線」に立地し、「夜間診療」している
ことの有用性が明らかになってきました。今回は弊院で実施したアンケートのデー
タをご紹介いたします。
 受診された方の年齢は、20歳代が34%、30歳代が31%、40歳代が16%で、この
3つの世代だけで81%を占めており、従来の病院・診療所と比較して、若い世代
が多いことがわかります。また、92%の方が通勤や通学のついでに立ち寄ってお
り、17時以降の受診が41%でした。職業別では、78%が労働者で、無職の方は2
%でした。
 これらのデータから、若い世代にも医療ニーズがあること、生活動線に立地し、
夜間も診療することで、忙しい勤労世代が健康管理できるようになることが示唆
されます。
 また、エキナカのクリニックに期待する診療としては、夜間診療52%、早朝診
療24%、予防接種10%、病児保育8%などの回答が得られました。もともと夜間
診療に価値を感じて受診されている方々を対象としたアンケートですので、意見
に偏りはあるのかもしれませんが、夜間診療に対するニーズが高いことをあらた
めて実感する結果となりました。
 現在の診療報酬制度では、平日18時以降、土曜日13時以降に受診した場合、時
間外加算として、500円がプラスされます。自己負担は3割ですから、150円です。
これは、公定価格です。一方、受診者の方に「夜間診療」の価値を金額に直すと
いくらくらいか聞いてみると、3,000円以上という方が結構おられます。つまり、
仕事に穴を空けずに医療が受けられることに対し、実際のユーザーの方々は、バ
リュー(価値)を感じておられるのだと思います。
 夜間診療というと、とかく「コンビニ受診」を助長し、医療の価値を蔑ろにす
るという評価が医療界の一部にあります。今回のデータは反対に、夜間診療が医
療に対する評価を向上させる方法であることを示しています。また、公定価格と
実際の価値の乖離は、厚労省の役人が密室で値段決めをするという、現行の診療
報酬決定方法の限界を示唆するものに他ならないでしょう。
 小児科についても、興味深いデータが得られています。親御さんがお子さんの
体調不良に気づく時間帯は、朝24%、夕方34%、夜25%、夜中12%で、72%が夕
方以降です。夜間に体調不良に気づいたときの受診は、「朝まで待ってかかりつ
け医」が91%で、「救急病院」が9%でした。現行の医療提供体制についても仮
にこの数字を当てはめることができるとすれば、この9%の方で小児科救急病院
の待合が溢れかえり、小児科医の疲弊を招いている、ということのようです。
今後も「夜間診療」、「生活動線」をキーワードに、新たな医療提供体制を模索
していきたいと思っています。
くすみ・えいじ 1973年新潟県長岡市生まれ。新潟大学医学部医学科卒業ととも
に上京、国家公務員共済組合連合会虎の門病院で内科研修後、同院血液科医員に。
2006年から東京大学医科学研究所客員研究員。2008年に「ナビタスクリニック立
川」開設。
※この記事は、新潟日報に掲載されたものをMRIC向けに修正加筆したものです。
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