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臨時 vol 111 「新型インフルエンザ―ローカルとグローバルな視点から」

医療ガバナンス学会 (2009年5月17日 10:21)


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細田満和子(ハーバード公衆衛生大学院国際保健学部リサーチ・フェロー)


 研究留学のため数年来、家族でアメリカ暮らしをしていますが、日米の医療制
度の違いはさることながら、病気や医療に対する人々の考え方にも、ずいぶん違
いがあることにしばしば気づかされます。また所属する国際保健学部というとこ
ろでは、途上国への医療援助や健康格差について、活発な参加型研究が行われて
いるのを目の当たりにし、大いに刺激を受けています。
 日本では新型インフルエンザ(H1N1)が大きな問題となっているようですが、
今回、現在居住しているボストンで身近に起こっている新型インフルエンザに関
する話題と、国際保健というグローバルな観点からのインフルエンザ関連の話題
をご提供したいと思います。
 アメリカでは新型インフルエンザの新患数は増えているものの、致死的ではな
いmild diseaseと考えられるようになり、最も患者数の多いテキサスでは一時
800校以上の学校が閉鎖されましたが、マサチューセッツ州教育委員会からは、
症状のある生徒は自宅待機にするが学校閉鎖はしないという方針が、5月5日(火
曜日)に出されました。
 そのような中、娘の行っている学校の隣の小学校では、5人が新型インフルエ
ンザと診断され、風邪様の症状で20人が欠席しているという報告が、5月11日
(月曜日)に当局からありました。また、何人かの生徒に関しては、親が罹患を
心配して学校に行かせないでいるということでした。この学校の全校生徒は670
人ですが、前の週の8日(金曜日)と11日(月曜日)には90人の生徒が休みまし
たが、12日(火曜日)には70人に減ったということでした。
 二人のお嬢さんたちをその学校に通わせている友人がいるので、心配して電子
メイルを出したら、確かに新型インフルエンザに罹った子がいることは学校から
お知らせがあったけれど、彼女は子どもたちを普通に通わせているということで
した。学校閉鎖をしないことが州の方針なので、もし罹患していたら学校には来
てはいけないけれど、学校に行かせるか、あるいは予防のために行かせないかは、
親の判断にゆだねられている訳です。ちょうどこの時期3年生から8年生まで、
MCASという全州統一試験があるのですが、それも変わりなく行われているという
ことでした。
 こんな新型インフルエンザ騒ぎの只中で、この騒動に警告を発しているスウェー
デンのカロリンスカ研究所のハンス・ロスリン(Hans Rosling)氏のビデオ情報
をネットで見つけました。ロスリン氏は公衆衛生の大家で、国際保健や疫学統計
の専門家です。彼は5月8日(金曜日)に投稿したビデオの中で、次のように言っ
ていました。
 4月24日にWHOが新型インフルエンザの発症例を報告して以来、5月6日までの
13日の間に、メキシコとアメリカでは31人が亡くなっている。これと同じ13日の
間、世界中では結核で63,066人が亡くなっている。この間メディアは、インフル
エンザと結核に関してどのようにカバーしていたのかを、グーグル・ニュース・
リサーチを使って調べたら、新型インフルエンザが253,442件であるのに対し、
結核は6,501件であった。「ニュース/死の比率」というのがあったら、新型イ
ンフルエンザは1人の死に対して8,176のニュース報道をしている。一方で、結
核に関しては0.1に過ぎず、そこには8万倍の差がある。
 ロスリン氏は、新しいものにだけすぐ飛びつく世界の趨勢、特に先進国のメディ
アのあり方を批判しつつ、結核を代表的例として、マラリア睡眠病やチャガ病な
どといった省みられない病気(Neglected Diseases)に、もっと関心を持つべき
というメッセージを送っています。これは大勢に物申すという意味で勇気ある行
動だと思います。
 日本の新聞やWebを見ても、「水際作戦」なる政府の対応や、海外渡航制限に
対して批判的な意見をしっかり言える方々が出てこられているようで、頼もしい
限りです。
参考
Brookline TAB, Thursday, May 14th, 2009, P1, P.11
http://www.gapminder.org/videos/swine-flu-alert-news-death-ratio-tuberculosis/
朝日新聞、私の視点、木村もりよ、検疫より国内体制整えよ、2009年5月14日

 

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