最新記事一覧

臨時 vol 110 「日医「医療安全調査委員会設置法案(仮称)」に関するアンケート調査への回答」

医療ガバナンス学会 (2009年5月17日 06:20)


■ 関連タグ

諫早医師会会長 高原晶

 われわれ諫早医師会では、昨年8月に全国の郡市医師会に向けて、新しい死因
究明制度(厚生労働省の第三次試案、大綱案)に関するアンケートを行った。日
本医師会(日医)はすでに厚労省案に賛意を表明していたが、このアンケートに
よって、郡市医師会ではこの問題について十分に議論がなされておらず、まして
厚労省案への支持を決めていないということが明らかになった。われわれはこの
結果をもとに、日医に、十分な情報を一般会員に広報周知し、徹底した議論を行っ
て、改めて日医としての見解をとりまとめるよう要望書を提出した。
 本年4月22日、日医は都道府県医師会に宛てて、「医療安全調査委員会設置法
案(仮称)に関するアンケート調査のお願い」を送付した。これは都道府県医師
会と所属の郡市医師会に、厚労省の大綱案に対する意見を改めて求めるものであ
り、われわれの要望を汲んでいただいたものであろうと理解している。この日医
アンケートでは3つの設問が用意され、設問1では大綱案について[1.この仕
組みで進めることに賛成、2.どちらかといえば賛成、3.どちらかといえば反
対、4.この仕組みで進めることに反対、5.どちらでもない]の中から選択を
求め、設問2ではその理由を尋ね、設問3では、大綱案への対案を求めている。
以下にこのアンケートに対するわれわれの回答を紹介する。医療関係者のみなら
ず、全国民の間でこの問題について十分な議論が尽くされることを期待したい。
===============================================
設問1  回答番号 4(この仕組みで進めることに反対)
設問2  反対の理由
 そもそも今回の医療安全調査委員会設置法案(以下大綱案)は、医療現場への
刑事司法介入を阻止することを目的としているといいながら、それが可能な制度
になっていない。
 大綱案では、医師法21条経由で警察に行く代わりに、医療安全調の調査を経て
悪質な事例のみが警察に通知される。しかしこれまで何度も指摘されてきたよう
に、医療安全調経路とは別に、患者側の告訴から警察の捜査が始まる経路も、警
察自身の覚知から捜査が始まる経路も温存されている。日医は今回の文書(日医
ニュース1141号)でも、「捜査当局は、委員会(医療安全調)から通知され
た事例だけを捜査の対象とする」と説明しているが、医療安全調が警察に通知す
る必要がないと判断したら刑事捜査の対象とはならないという法的な根拠は、大
綱案のどこにも示されていない。一方大綱案では、診療関連死の医療安全調への
届出基準は曖昧なままで、届け出なかった場合の罰則は著しく強化されている
(後述)。したがって医療機関からの届出件数は激増し、現在の年間200件未
満から、 2000~3000件にも達すると予想されている。よって警察への
通知件数も相当数に上り、刑事司法の介入は減るどころかむしろ増えることが懸
念される。
 また医療安全調では過失の有無と軽重を判定するので、この報告書は事実上の
「鑑定書」として機能する。上記のように年間2000~3000件にも及ぶ大
量の事例に対して自動的に鑑定書が発行されるのだから、民事訴訟が大量に誘発
されることが容易に予想される。
 さらに医療安全調には、医療機関に対して、令状もなしに立ち入り調査をし、
出頭証言を求め、関係物件の差し押さえ等をおこなう警察・検察以上の強大な権
限が付与されている。また医療機関は、届出義務違反に対する体制整備や、シス
テムエラーに対する改善計画の提出を、懲役刑を含む罰則付きで命令されること
になっている。これらの強制・命令・罰則によって、行政は医療を意のままに動
かすことが可能となり、もし暴走しても歯止めがかからない。医療現場は行政か
ら統制され、萎縮し、疲弊・荒廃するであろう。
 最後に、処罰を前提とした調査では当事者から情報収集が困難となるため、科
学的な事故原因の究明ができず、事故の再発防止も妨げられる。
 以上述べたように、この制度では医療への刑事介入は抑制できず、民事紛争は
激化し、医療現場は強力な行政処分の脅威にさらされ、事故原因の究明も困難と
なることから、われわれは大綱案に反対する。
設問3  対案
 大綱案の根本的な問題点は、医療事故の原因究明と事故当事者の過失判定・責
任追及を同一機関で行おうとしていることである。両者は別の機関で行わなけれ
ば、医療事故の科学的原因究明と再発防止はできない。
<第三者機関の設置について>
 医療事故の科学的な原因究明と再発防止は、患者・医療従事者共通の願いであ
るから、この目的に沿った調査のみを行う第三者機関を設置するのが望ましい。
この機関は厚生労働省以外の部署に設置し、医療事故の原因究明と分析、再発防
止のための提言を行う。医療機関は、医療事故等の可能性がある場合や、事故原
因について患者・家族の納得が得られない場合などに、この機関に任意で調査を
依頼する。患者・家族も自由にこの機関に調査を依頼できることとする。この機
関では医療事故についての事実関係について調査し、調査報告書を患者・家族、
医療機関に発行するが、過失か否かの判断は行わず、捜査機関への通知もしない。
<過失の認定と医師法21条の改正について>
 過失の認定は高度に司法的な判断であるが、大綱案では医療安全調が捜査機関
への通知が相当であると判断すれば、それが事実上の過失の認定となってしまう。
いま必要なのは、どのような過失が刑事罰の対象となるべきなのか、あるいは過
失を刑事罰の対象とすべきなのかについての広く十分な議論であり、その国民的
合意が得られるまでは、現行どおり過失の認定は司法の場に委ねるべきである。
 そもそも診療関連死が直接警察捜査の対象とされるようになったのは、国会の
審議も経ず厚生労働省の一通達によって、医師法21条が拡大解釈されたことが
発端であるから、医師法21条を法律の本来の意味に戻すよう改正することが理
にかなっている。したがって、医師法21条を改正し、同法で定める異常死に診
療関連死は含まれない旨を明記すべきである。
以上

 

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ