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Vol.411 福島県南相馬市・大町病院から(4)

医療ガバナンス学会 (2012年2月22日 06:00)


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南相馬市大町病院
佐藤 敏光
2012年2月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


入院患者数は61名(満床は59名)となりました。満床以上の人数を入れています。

先月末にこの入院患者数について本院は危機的な状況に至りました。私達医者は入院が必要と思われると空きベッドがあれば入院させていました。ベッドが無け れば、なんとか外来でしのぎ、空きベッドができてから入院させていました。救急隊からも、複数の病院から断られて受け入れると、大町病院は有り難いと喜ば れていました(社交辞令?)。

先月26日になって、事務部門からこのままのい入院患者数だと、入院基本料が大幅に減額になる、退院できそうな患者さんがいたら退院させてくれと言われました。急遽患者さんの家族を呼んで、病院の実情を話し、10名ほどの患者さんに退院してもらいました。

昨年9月6日に厚生労働省から東日本大震災の被災医療機関に対し、看護師数、看護師の夜勤時間の2割以内の変動は認める(被災前の看護基準で入院基本料を 請求できる)通達が出ていました(ダウンロードしてご覧ください。 → http://expres.umin.jp//mric/T110909S0020.pdf )。私は入院患者数についても2割以内の増加は認められるものだと思っていました。

入院可能患者数は直近3ヶ月の(病棟の)看護師数、正看と准看の比率、夜勤時間、平均在院日数で決まり、その増加分は5%以内と定められています。すなわ ち入院できる患者数は前の3ヶ月の看護師数で大体決まり、1日ごとの看護師数、正看准看比率、夜勤時間、平均入院日数は2割までは変動しても良いが、入院 患者数は5%以上増やしてはならないというのです。

あと1週間入院させたらもっと良くなったのにと思われる患者もいました。また、医者が家族に頭を下げるという逆な状況も生まれました。患者やその家族の中 には既得権のごとく退院を拒む人もいて、一度退院して又具合悪くなったら入院すれば良いと苦し紛れな説得をして退院してもらった?患者さんもいます。

先月から渡辺病院から2名の看護師さんが、岐阜高山と東京から1名ずつのボランティアの看護師さんが来てくれていますが、57床であったベッド数は2床増えただけでした。
それも来月末には特例が終了することになり、2割の不足分も認められなくなります。本院は10:1の看護基準をとっていますが、被災地特例が無くなると看 護基準を引き下げざるを得なくなり、1人あたり1日1,700円、60人で約600,000円、1月で18,000,000円の減収となります。

南相馬市立病院が昨年6月20日に本院と同じ50床が認められましたが、3ヶ月ごとに70床、90床、115床と増やしてきたのに対し、大町病院は10月 に57床、本年1月に59床と少しずつしか増やせませんでした。その差は言うまでもなく、帰還看護師の数の違いです。(南相馬市立病院は市立小高病院の看 護師さんを採用したこともあります)

福島第一原発3号機が水素爆発を起こした3月14日に、南相馬市立病院の金澤院長は『残ってくれる人は残ってくれ』と職員に話しました。職員の殆どが許可 の名目のもと避難して行きました。大町病院の猪又院長は3月15日に職員の職業魂を信じ、『患者のために残ってくれ』と職員に話しました。市立病院や市民 の動向を知っていた職員は次々と病院を去って行きました。本院には火災とか震度6以上の地震の際には病院にかけつけるようにという防災マニュアルがありま したが、原発事故の際にはこの防災マニュアルは何の拘束力も持ちませんでした。

先月看護部長と看護師長1名が消息のつかめている看護師の避難先を廻り、帰還を勧めてきました。多くは子どもさんの被曝のこと、育児、教育のことを懸念 し、今すぐの帰還はできないと答えたようです。年代も住んでいる場所も大きく変わらないのに、市立病院の看護師と本院の看護師の帰還に対する違いが出るの はなぜでしょうか。

以前の投稿でも書きましたが、我々病院に残ったスタッフにも、避難したスタッフにも、わだかまりが残っているのではないかと思われます。それは薄れるばか りか徐々に大きくなっているようにも思えます。JBpressの『こんな絆はいらない 福島に漂う「逃げる」ことを許されない空気』( http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34462 )は、我々の人間関係を如実に表したものと言えなくもありません。

我々の束縛を解いてくれるのは1日も早い原発の収束なのですが、昨今の原発の状況は、決して安定しているとは言えません。子どもを持つ母親や結婚前の女性に対し、不安を完全に払拭させる状況ではないのです。

亀田総合病院の山田弁護士さんが賠償金計算法の理不尽さについてMRICに取り上げてくれました。仕事を続けた病院や職員が補償が減る仕組みはどうしても納得がいきません。

本院は、ワークシエアリングならぬ給料カットと僅かにあった運用資金を削りながら困難な時期を乗り越えてきました。運用資金(貯金)の目減り分は東電方式では、賠償の対象にはならないようで、病院顧問弁護士とも相談し、別途請求していく予定です。また、特殊な技術を持つ医師や看護師は病院の看板とも言え、 原発事故が無ければあり得なかった人的損害についても請求していく予定です。
そんなケチるような賠償金はいらないから、南相馬のきれいな環境と、避難している医師や看護師さんを返してくれというのが率直な気持ちです。

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