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Vol.415 どこでもマイカルテについて

医療ガバナンス学会 (2012年2月26日 06:00)


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医療構想千葉 代表
どこでもマイカルテ研究会 幹事
竜 崇正(前千葉県がんセンター長)
2012年2月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


神奈川県の黒岩祐治知事が来年度中にも策定を目指す神奈川県の「医療グランドデザイン」において、震災にも対応した患者主体の医療情報システムである「マ イカルテ構想」が盛り込まれると報道されている。我々はすでに2010年より「どこでもマイカルテ研究会」を立ち上げ。多くの関係者と議論してきた。そこ で、より多くの方にこの「どこでもマイカルテ」の社会的意義を知っていただきたいと思い、本稿を寄稿することとした。

患者が医療機関で受けた医療に関する情報は、法的に5年間の保存義務があり医療機関で保存される。それらの診療情報は、患者が受診した診療所、一般病院、 専門病院、介護施設などでそれぞれに保存されているため、継続した情報が患者自身にも手術などの治療を行う病院でもわからないのが実情である。このため、 同じ検査が何回も行われるなどの重複診療を行なわざるを得ないのが現状である。本来、患者情報は患者自身のものであり、患者に代わって医療機関がお預かり しているに過ぎない。医療機関では、患者が他の医療機関を受診する際には診療情報提供書を渡すが、それは患者用ではなく医療者向けであり、患者がそれを見 ることはできにくい。

患者の治療方針決定の際には、患者は自分の画像や検査結果などを示され、納得して治療を受ける建前になっているが、限られた時間の診察室内で、説明の全て を理解するのは難しい。納得して治療を承諾したはずなのに、診察室を出て自宅に帰った後に、果たしてこの選択は正しいのか思い悩む患者や家族も少なくな い。勇気のある患者は、自分の検査データーをCDなどに焼いてもらい、セカンドオピニオンを受けに他の医療機関院を受診することになるが、この時にITに 強い患者は自分のコンピューターで自分の画像をじっくり見ることは可能である。患者は自分の受けた治療の結果が良い場合は納得したことになるが、結果が思 わしくない場合は、これは医療ミスではないかと、疑心暗鬼になり、医療訴訟が増加し、委縮医療になる傾向にある。
日本の医療レベルは世界一であり、他国では及びもつかない高度かつ先進的医療が、ほぼ等しく国民に提供されているが、日本国民はそれを十分理解していな い。「医療費亡国論」の基本政策のもと、日本は低医療費政策が継続されているが、国民の期待は大きくなるばかりの中、医療者の負担は過度に増加し、米国の 1/16の少ない医療スタッフ数で、多くの患者を診て夜も寝ない生活を送っているのである。
これらの状況を打開するには、患者にとって必要な情報は患者が持つか、いつでも見ることのできる体制の確立が急務である。十分な情報開示の下、それが患者 にとって嬉しくない情報であろうとも、患者が自分の病状を正しく理解し、それをサポートする医療体制が確立できれば、医療不信も軽減するであろうし、委縮 医療も無くなるに違いないと考える。

患者が自分の医療情報を何時でも見られる体制を確立するため、2010年7月29日に「どこでもマイカルテ研究会」がスタートした。基本方針は以下の2点 である。患者にとって必要な情報を患者の携帯電子端末に取り込み、どこの医療機関でも利用できるようにすること。もう一つは、患者の必要な全情報を患者本 人の了解の下に、安全性が確保された形でクラウド上のデーターベースに集積し、医療機関の枠を超えて1人の患者の医療情報として統一する、そしてその医療 情報を患者が了解した第三者が閲覧できるようにすることである。
これにより、同じ検査が繰り返し行われる重複診療が避けられ、複数の医療機関から診療内容をチェック出来ることになり過剰診療の防止が期待される。現在、 重複診療と過剰診療が2-3割あると推察されているが、そうであれば35兆の医療費から10兆円が浮くことになる。これらの改革を通じて低医療費政策を改 め、病院での正規雇用労働者を増員し、クラウド化IT化を推進して病病、病診連携を強化すれば、さらに安全で質の高い医療を国民が受けられるようになり、 さらには雇用創出と産業振興にもつながると考えての研究会立ち上げである。

一方国でも2010年5月に新たな国民主権の社会を確立するため「国民本位の電子行政の実現」,「地域の絆の再生」,「新市場の創出と国際展開」の3本の 柱を掲げ、内閣官房IT推進室を中心に各省庁と連益して推進する体制ができた。その中で「地域の絆の再生」の医療分野の施策として「どこでもマイ病院構 想」が示された。それは、患者の健康を守るためシームレスな地域連携医療の実現,レセプト情報などの活用による医療の効率化などを、目的とするものであ る。

「どこでもマイカルテ研究会」でも、第一回の研究会から内閣官房IT担当室野口参事官(当時)から、「どこでもマイ病院構想」について報告があり、私達が目指す「患者情報は患者のもの」と同じ方向性であることが示された。
2011年11月まで4回の研究会が開催され、各現場からは分断された患者医療情報を扱う問題点が、病院、介護施設、患者の立場から報告された。また、携 帯電話端末を用いた医療情報の有効利用について、携帯電話端末へのQR変換コードでの取り込みや、赤外線通信を用いた取り込みなどが報告された。QRコー ドで読み取る場合は1800文字程度なので、その中で必要十分な情報は何かが議論された。最新の検査データー、投薬データー、JPEGにしたキー画像、要 領よく書かれたサマリーがあれば良いとの結論であった。また各電子カルテベンダーの情報共有により、電子カルテが相互利用できるような仕組みの必要性も述 べられた。また、第3回、4回研究会では東日本大震災による沿岸地域の医療施設の壊滅的被害の状況、津波により医療情報の全てを失ったことから病院に情報 を置かないでクラウド化する必要性、事業体を越えた医療機関の連携と情報共有の体制が必要との認識が示された。クラウドに挙げられた患者情報を連結して一 人の患者情報とするには、他先進国で導入されている「国民総背番号」が必須であり、昨年11月21日の第4回研究会では現在議論されている税と社会保障の 一体改革の基本をなす、社会保障番号制度(マイナンバー)の現状と医療情報ネットワークとの連携について浅岡内閣官房社会保障改革担当室参事官補佐から説 明があった。

「どこでもマイカルテ」研究会の第1回は50人程度の参加であったが、4回は200人を超える参加があり、医療機関、患者、関連企業の関心の高さが伺われ た。国や神奈川県の進める方向性と我々の考える方向性が一致しているので、今後さらに現場の意向を研究会で十分詰めて、国や神奈川県の政策に反映させ、産 業振興に寄与したいと考えている。皆さんのご協力、ご意見を頂きたい。今こそ共に、医療現場の声、患者家族の声を、医療政策の決定に反映させようではあり ませんか。

<どこでもマイカルテ研究会の報告>
第1回研究会 http://iryokoso-chiba.org/shinpo_myC_sh.html
第2回研究会 http://iryokoso-chiba.org/shinpo_myC2_sh.html
第3回研究会 http://iryokoso-chiba.org/katsudou_seisaku_20.html
第4回研究会 http://iryokoso-chiba.org/shinpo_myC4_sh.html

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