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Vol.413 消費税増税は本当に負担増なのか?~財政の論理を超えて「社会保障と税の一体改革を考える」~

医療ガバナンス学会 (2012年2月24日 06:00)


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大樹総研・特別研究員(元財務省官僚)  松田 学
2012年2月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


消費税率の引上げ。国民にとってこれだけ重要な問題が、これだけ正確に理解されていないことも珍しいと思います。政治家や官僚の側の説明力不足にも問題が ありますが、そろそろ私たち国民自らが消費税増税の意味をきちんと理解しなければ、日本はいつまでも、「日本化」(課題解決に向けて決断のできない国)と いう、国際社会でつけられた汚名を返上できないままでしょう。
消費税は医療を支える重要な財源でもあります。今回は、国民「負担」という視点から、いま、日本の最大の政治問題になっている消費税率の5%引上げとは何なのかを整理してみたいと思います。

●消費税への理解を妨げているのは「財政の論理」
野田総理率いる民主党政権が「社会保障と税の一体改革」のもとに、2015度までに10%まで消費税率を引き上げる方針を打ち出したことで、政界は政局含みの展開になり、消費税増税を軸とした解散・総選挙もささやかれるに至っています。
しかし、少なくとも、いま与党で提案されている増税案であれば、果たして国政選挙の本質的な争点になるべき性格のものか、疑問なしとしません。それは、そ もそも野田政権が消費税率引上げを打ち出したのは、自民党政権が決めた法律に従ったものであって、自民党が消費税増税そのものに反対できる立場にはないと いう理由からだけではありません。
ちなみに、その法律(「所得税法等の一部を改正する法律:平成21年法律第13号」)は麻生政権下で成立したもので、「基礎年金の国庫負担割合の2分の1 への引上げのため…平成23年度までに必要な法制上の措置を講ずるものとする」と規定しています。ですから、もし自民党が消費税率の引上げに反対するな ら、それは政策よりも党利党略を優先している自民党の姿を有権者にさらすことになってしまいます。
選挙の争点にならないという、より本質的な理由は、5%から10%への引上げ程度の増税であれば、それは国家の存続や国民生活の持続に必要な最低レベルの措置であって、選択肢にもならないということです。
いま日本に問われている本質的な選択肢は、その先にあります。有権者が日本の未来と国家のかたちを選択し、国民合意を形成する営みを一日も早く開始しなけ ればならないのが、この「失われた20年」において日本が置かれ続けてきた状況でした。日本の政治を早くそこまで到達させなければ、「失われた20年」は 「失われたニッポン」になってしまうでしょう。
世界最悪ともいえる日本の財政状態のひどさへの認識は、もはや多くの国民に浸透しています。それなのに、消費税増税に根強い反対意見がある大きな理由の一 つは、それを財政再建の観点から説明しようとする説明方式にあります。「財政の論理」で消費税が語られるからこそ、逆に、「その前に徹底した歳出削減や行 革など、やることがあるだろう」、「国民からおカネを取る以上、けじめを示してほしい」、「経済を無視した財政再建至上主義の財政当局の論理だ」といった 論法が先に出ることになります。
一度、問題の本質を再整理し、消費税が国民自らの利益のために向き合うべき課題であることを明確にする必要があります。ここでは、「財政の論理」とは異なる論理で消費税を考えてみます。

●「私たちの世代の責任」という論理
国民には、高齢世代と現役世代と将来世代がいます。その全体でみれば、消費税の増税は国民負担の増加にはなりません。それは、高齢世代や現役世代が、赤字 国債の償還に必要な負担の形で、将来世代に押し付けている税負担の一部を、高齢世代や現役世代へとシフトさせるに過ぎないからです。ですから、国民全体の 負担は同じです。むしろ、現状のほうが赤字国債の金利負担分だけ全体の負担は大きいといえます。
消費税の収入を政府が余計な使い道に充てるというなら、その増税は国民の負担増になります。しかし、現在、消費税収入のうち国に入るのはその6割弱程度 (残りは地方の財源に回る)で、その全額が、基礎年金、老人医療、介護という高齢者向け社会保障(高齢者3経費)に使われることが国の予算総則で定められ ています。
それら高齢者3経費の国の支出は年間で約17~18兆円、これに対して、国に入る消費税は7兆円あまりしかなく、不足分の約10兆円は赤字国債として、将来世代の負担へとツケ回されていると言っていいでしょう。いわば、毎年10兆円の出血状態にあります。
私たちの世代は、自分を育ててくれた親の面倒をみるにあたり、その大半を子や孫にツケ回していることになります。それは道徳的にいかがなものでしょうか。消費税とは、国の財政の問題である以上に、私たち世代の責任の問題なのではないかと思います。
私がかつて国政選挙に出たとき、同じ選挙区で消費税率引上げに賛成と表明していたのは私だけでした。街頭演説をすると、まだ選挙権を持たない高校生ぐらい の若者たちが寄ってきて、声援を送ってくれたものです。その理由は、いまの大人たちの世代は消費税から逃げて、自分たちの世代に莫大な負担を負わせようと しているということでした。将来のある子どもたちのほうが、本質を敏感に感じ取っているようです。
単純化していえば、社会保障に使うための税金は、国民Aさんから国民Bさんへとおカネを移転するものに過ぎません。年金や医療などの改革でその額を少なく する努力は必要ですが、消費税増税は、少なくも政府の懐を豊かにするための増税ではありません。政府はそうしたおカネの移転の仲介役に過ぎないわけです。 国が仲介している分については、毎年10兆円の出血があり、それに対して止血をほどこすのが消費税率の引上げです。
つまり、消費税の増税とは、Aさん(高齢世代)に対してBさん(現役世代)がおカネを渡すに際し、Bさんがその大半を負担せずにCさん(将来世代)にツケ回しをしている状態を少しでも正そうとするものだと捉えられます。

●「次世代からの投票」という論理
このおカネの移転が「負担」だといえば負担ですが、もし、BさんやCさんの負担を減らしたいなら、高齢者3経費を削るしかなく、それは社会保障の自己負担が増えるAさんの負担を増やすことになります。しかし、社会保障費の削減は容易なことではありません。
医療費抑制を進めた小泉政権のもとで起こったのは、「医療崩壊」でした。いま、年金のもらいすぎの是正が課題になっていますが、政治的な困難からそれは先 送りされようとしています。社会の高齢化が進むほど、高齢者の票の政治力が強まり、現役世代や投票権のない将来世代の利益は国政に反映されにくくなりま す。おカネを使わない世代である高齢世代への所得分配が高まっていることも、いまのデフレの原因の一つといえるでしょう。そこに民主主義の一つの問題があ ります。
政界に将来世代を代表する軸を生み、その政治的立場を強める必要があります。しかし、それは国民には不人気な立場になりかねません。消費税増税がそうです。
負担削減の一つの答は、社会保障サービスをより効率的に提供することにあります。医療や介護などの分野ではありえる努力でしょう。しかし、社会の高齢化と いう要因だけで、社会保障費が毎年1兆円以上ずつ、自然増で増えていく現状にあって、こうした効率化努力も全体の負担を実際に減らすところまでは到底追い つかないというのが実態です。
消費税率を15年度までに5%引き上げる「社会保障と税の一体改革」は、まだ不十分ながら、以上のような問題や論点に対する答に少しでも近づこうとしているものです。

●「安心社会」という論理
その中身を簡単にみてみると、まず、引上げ後の消費税収の使途は、国と地方ともに社会保障に限定することにしています。ただ、その限定先をこれまでの高齢 者3経費から、同じ社会保障でも現役世代向けなども含め、年金、医療、介護、少子化対策の「社会保障4経費」へと広げています。社会保障給付は15年度に は122兆円(11年度は108兆円)、うち国民負担(税と保険料)で賄われるのが114兆円(同100兆円弱)になり、うち国と地方の社会保障4経費は 約42兆円になると推計されています。これは社会保険料では賄いきれない部分といえます。
現在の5%の消費税率では、国と地方の消費税収入は全体で13兆円弱と、約42兆円の3分の1しか賄えない状態にあります。消費税率を10%に上げれば、税収は約27兆円になるので、社会保障4経費の約3分の2が賄えることになります。
つまり、社会保障の財源が3分の2も不足している状態を、3分の1の不足にまでもっていくのが、今回提案されている5%の消費税率アップです。
この5%アップ分の内訳は、1)医療と介護の効率化を図り1.2兆円の節約をしますが、他方で医療と介護は機能の改善と強化が求められており、3.8兆円 の増額を図るため、差し引きで2.7兆円の増額となり、それが消費税率1%アップ分に相当します。2)年金財政が極めて苦しい基礎年金に対し、国が負担す る割合(国庫負担率)を09年度から、36.5%から50%へと引き上げましたが、その引上げ分を今までのような「埋蔵金」などではなく、毎年度入る恒久 的な財源で賄うという分で、1%アップ分に相当します。3)社会の高齢化による自然増分で1%アップ分に相当します。4)残りの2%アップ分は、将来世代 へのツケ回しを減らすことなどに充てられます。
ただ、財源の問題をきっちりと片付けるためには、本来、15年度の時点で4経費をすべて消費税で賄い、そのツケを将来世代に回さないようにする必要があるはずです。そのためには、さらに消費税率を6%上げて、16%にする必要があります。
この6%の引上げを15年度以降に回せば、その間にも社会の高齢化が進んで、社会保障経費の自然増へのさらなる手当てが必要になりますから、さらに消費税 率を上げていかなければ追いつきません。高齢化と消費税率引上げの追いかけっこをどこまでするのかという問題があります。社会保障のさらなる効率化か、民 間資金の活用で、なんとかそれを抑えるしかないでしょう。
この16%という数字ですが、日本と同じく高齢化が進んでいる欧州などをみると、世界標準は概ね20%。日本はごくフツーの先進国に仲間入りすることにな ります。現行制度のもとでは、一応、消費税率の最終的な引上げ目標を16%に設定するのが常識的な線かも知れません。(ただ、いま問題となっているよう に、基礎年金を税方式に変えるなら、さらなる引上げが必要になります。)
世界の若者たちが集まって、こんな議論をしていたと聞いたことがあります。「日本がダメな国になったのは、これだけ社会が高齢化していくのに、その準備が できていないからだ。消費税率はたったの5%だ…」と。まさに課題解決ができない国が日本だと見られています。その際、北欧の若者たちは「付加価値税率が 20%以上ある私たちの国は安心だ」と胸を張っていたそうです。北欧では、社会保障の安心があるからこそ、国民はリスクをとってチャレンジができ、それが 経済を活性化しているようです。
日本が北欧型の国を目指すかどうかは国民の選択いかんですが、少なくも、消費税率引上げには「安心社会の実現」という積極的なバリューがあることは間違いありません。

●「自立と助け合い」の論理~どのような国家を選択するのか。~
では、日本はどのような型の国家を目指すのでしょうか。その点にこそ、有権者にとって本質的に意味ある国政上の選択肢がありますが、それは、16%への引き上げの先にあるテーマになるものです。とりあえず、選択肢は次の(I)~(III)の3つが考えられます。
(I)大陸欧州型の「公助」(政府が手厚いセーフティーネットを提供)を旨とする国家、(II)米国型の「自助」(自己責任)を旨とする国家、(III) 日本型の「共助」(「民」の間の助け合い)を組み立てる道。恐らく、それに対応する消費税率は、最も低いのが(II)で10%台半ばまで、最も高いのが (I)で20%台半ばかそれ以上、それらの中間にあって、国民の創意工夫でどこまで消費税率を20%前後に抑えられるかを問うのが(III)です。
私はすでに、このMRICでも、「活力ある超高齢化社会の運営モデルの構築」に向けた日本の新しいストーリーや「日本版ニューディール」、それを実現する エコノミクスとして、高齢者が大半を保有する日本の巨額の「凍結金融資産」ストックのフロー化、それを実現するための「コストからバリューへ」の発想の転 換などを提案してきました。つまり、例えば「健康」など、超高齢化社会にふさわしいバリューを組み立てることで、その価値を評価し、あるいは享受しようと する高齢者の資産がマネーとして引き出され、医療システムなど社会保障に回っていく仕組みを創ろうという提案です。
これは、課題解決のあり方を、専ら「官」(政府介入のIの道)ではなく、専ら「民」(市場競争のIIの道)でもなく、むしろ「民」による選択が実現する 「公」の価値に求めることで、税「負担」を極力抑制しようとする提案でした。その意味で、(III)を基本的な立場とするものです。この考え方の柱の一つ が「自立と共助」ですが、それを消費税に置き換えれば、次のような説明になります。
すなわち、今世紀半ばには日本の総人口の4割を占める高齢世代が、もし、社会保障を現役世代に依存する世代であっては、間違いなく国は破綻し、社会は維持 できなくなります。人口のマジョリティーを占めることになるこの世代に求められるのは「世代としての自立」であり、それを実現するのが「世代内での共助」 です。日本の個人純金融資産の8割を高齢世代が保有しているといっても、その保有状況には大きな格差があります。
「持てる高齢者」の資産が自らの価値選択でフローとして支出され、それが回りまわって、「持たざる高齢者」の福祉の底上げにつながる仕組みが『民が支える 公』の側でのソリューションです。他方で、世代内共助に向けた、『官』の仕組みの側でのソリューションが、消費税だということになります。
なぜなら、「持てる高齢者」の資産が消費などのフローとして支出される際に、その一部を税の形で社会保障の財源へと回す仕組みが消費税だからです。資産課 税の強化も一つの道ですが、資産の保有状況の正確な把握は困難なため、税務職員の大幅増員が避けられません。金持ちでもおカネを使うときには必ず税を負担 することになる消費税の方が、徴税コストの面からも「世代内共助」の方策として、より現実的です。

●希望ある増税に
消費税増税は負担ではないなどという議論を私がすると、財務省の論理だ、「増税を正当化する詭弁だ」と批判されます。しかし、いまの私には財務省を擁護し ても何のメリットも利益もありません。また、いまは増税ではなく景気を重視すべき時だ、経済が良くなれば税収は増えるという反論も聞かれます。しかし、積 極財政によるデフレ克服は、かつてこのMRICでも復興増税を批判した私が最も主張したいことです。
必要なのは、例えば「国力倍増十ヵ年計画」のような大きな政策体系を描き、そのもとに消費税率引上げを位置づける政策構想力です。そうすれば、景気を良くするためにこそ、いま提案されている程度の消費税率引上げは欠かせないことが分かります。
機会を改めて、消費税引き上げが「希望ある増税」になる道を論じたいと思います。

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