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Vol.426 診療放射線技師の役割~3.11東日本大震災の活動記録~

医療ガバナンス学会 (2012年3月7日 06:00)


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財団法人ときわ会常磐病院
放射線部 秋山 淳一
2012年3月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


私は原発から40km圏内のいわき市にある財団法人ときわ会常磐病院に勤務している診療放射線技師です。
当会は3.11の東日本大震災の影響により水不足が原因で透析治療が行えなくなり、大変苦労しましたが、各方面から支援をして頂き、各地方へ透析患者の移動も成功し、今日の平穏な日常診療が出来るようになりました。この場をお借りし、支援をして頂いた方々に御礼を申し上げます。

私達、診療放射線技師は放射線を使用して検査や治療などを行う職種であり、また、放射線を身近に体験している職種とも言えます。普段から被曝線量をいかに 最小限にし、質の高い画像診断を提供することを心掛けております。以前のCTスキャンは高速かつ広範囲に撮影することを目指し、機械の改良が行われてきま したが、最近は以前の特徴を担保しつつ、被曝線量をより低減するという目的に変わりつつあります。CTメーカーの技術者の努力もあり、現在では以前のCT スキャンと比較し、1/3~1/2程度に被曝線量を低減することが可能となりました。私達、診療放射線技師は今回の原発事故をきっかけに「被曝」に目を向 けるようになったのではなく、事故の以前から被曝の危険性・安全性を理解する職種として、国民の被曝による健康被害に重きを置き、今日の放射線診療を行っ ておりました。

さて、3.11の東日本大震災の我々診療放射線技師の活動を(社)福島県放射線技師会会長鈴木憲二(故)様の活動記録を参考にし、御報告したいと思います。

M9の東日本大震災は日本国内観測史上最大のもので、建屋の倒壊や津波もあり、死亡者数約1万6000人、行方不明者が約3000人となり、特に東北地方 の太平洋側で壊滅的な被害をもたらしました。地震による津波が要因で、福島第一原子力発電所の原子炉1号機の冷却機能喪失のため原子炉建屋が水素爆発を起こし、多くの放射性物質が空気中に放出され、広範囲な汚染となりました。
我々は福島県の診療放射線技師として、原発事故を想定し、年2回程度、原子力安全研究協会が主催で「緊急被ばく医療講座」を開催しておりました。県技師会 として各支部から数名の会員を受講させ、専門知識の習得と使用機器の取扱等について学んできました。また、福島県が主催する福島県原子力防災訓練には、その要請を受けスクリーニングチームとして数名の技師を派遣し、緊急被ばく医療活動に備えており、その中で診療放射線技師の役割をマニュアル化しておりまし た。このように、医療被曝の他に、原発を抱える県技師会としてあらゆることを想定し、事故に対応する準備をして参りました。しかし、残念なことに、今回の 事故では完備しておいたマニュアルが機能せず、混乱を招いてしまった部分もあります。この要因としては、本来指示を出すべき福島県原子力災害対策センター (オフサイトセンター)が被害を受け、通信手段が全て途絶えてしまい、情報が錯そうし、県技師会として技師派遣が出来ない状況でした。

3.13に文部科学省から緊急被曝スクリーニング人員要請が福島県立医科大学付属病院にありました。そこで、福島県から当技師会に派遣要請があり、14日 よりスクリーニング要員の派遣が始まりました。まずは、郡山市総合体育館、福島県男女共生センター(二本松市)、福島県立会津総合病院でスクリーニングを 行い、15日からは福島県立医科大学付属病院と福島県保健衛生協会で実施しました。実施当初は、多くの住民が避難所やスクリーニング会場へ押し掛け、測定 の待ち時間が4~6時間となることもあり、測定終了時間が深夜となることも多々ありました。このように終了時間が遅くなった要因としては、汚染がないこと が確認できないと、避難所にも入れず、病院での診療も受けられなかったからです。

今回のスクリーニングは、福島県放射線技師会だけではなく、全国の放射線技師会、全国電気事業連絡会、全国の国立大学など、多くの方の協力がありました。 特に、日本放射線技師会では、3月12日の原発事故直後から会長を本部長する「地震災害対策本部」を立ち上げ、全国からスクリーニング担当者が派遣されました。3月16日を皮切りに、4月17日まで計11クール、北は北海道から南は大分まで、延べ60日間、55名の派遣がありました。
3月14日~22日までは、数千人規模のスクリーニングとなりましたが、23日以降は数百人規模に減少し、最終的には、7ヶ月間でのスクリーニング者数は 232,490人で、その約半数は3月に受けた方で、3月14日~20日までの7日間は、72,652人と、全体の約3割になり、主に避難者が受けまし た。その内、10万cpm以上の人は102名で、そのほとんどは、3月17日、18日に測定した人で、17日は43名、18日39名の避難者でしたが、いずれも脱衣や除染後の再測定で基準値以下に下がっており、健康に被害を及ぼす程の事例はありませんでした。

ご存じかと思いますが、スクリーニングが済んだ方には、スクリーニング済み証明書を御渡ししておりましたが、しかし、政府は、汚染スクリーニングに対し証 明書を発行し差別することは好ましくないとの通達を出しました。通達に対し、スクリーニング担当者は現に避難指示圏内から避難してきた方々が、汚染が無いことが確認出来ない場合は避難所に入れなかったり、医療施設で診療を受けられないなど、実情を理解しておりましたので、福島県はスクリーニングを済ませた 方にはスクリーニング済み証明書を発行し続けました。

スクリーニング検査は生存者以外の津波や地震で亡くなられた方にも実施しました。4月8日に福島警察本部より日本放射線技師会に対し、遺体検案前スクリー ニングの実施依頼があり、4月11日から開始し、延べ69日間、15県から28名の派遣がありました。線量測定は、浪江、南相馬市、相馬市で実施し、遺体 数は344遺体(6月3日現在)でした。多い日は、30遺体/日の測定を行い、身体の一部や、原形をとどめていないものもあり、時間が経過するにつれ腐敗が進み、悲惨な状況でした。

今まではスクリーニングに関して、御紹介をしましたが、その他の診療放射線技師は、それぞれの医療機関で、あらゆる業務を行っておりました。当院では、日常の放射線検査の他に、職員の安心感を得るために、定期的に室内外の線量測定を行い、より正確な線量値を全職員に周知したり、職員・患者からの被曝に関する質問に対して、窓口となり、不安の解消や安全の確保に努めました。また、透析患者の移動もあり、診療放射線技師以外の業務に積極的に参加し、患者移動の準備、本院と透析患者避難施設間の情報共有に努めたり、避難施設では送迎や夜間の見回りなど一医療人として、活動を行いました。このように普段接点のあま りない職種と関わることで、壁が取り払われ、団結力・組織力が強固なものになり、今日の診療に大きく役立っております。

放射線を取り扱う職種である診療放射線技師の違った一面を御紹介出来たと思います。日常の検査業務の他に、国民の安心感を得るために、今後は現在の放射線 問題を終息化するためにも、数字が独り歩きしている状況の中で、正しい情報を国民の方々に伝える義務があると思います。医療における被曝だけではなく、公衆的な被曝にも目を向け、国民に安心・安全を提供できるよう活動を進めていきたいと思います。

早速ですが、日本放射線技師会では、平成24年2月22日に「放射線被ばく個別相談センター」を設置しました。ガラスバッチの測定結果の読み方がわからない、測定結果をどう判断してよいかわからないなど放射線に不安がある方は相談して下さい。

http://www.jart.jp/hibaku/index.html

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