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Vol.429 東大の執刀医”外注”は英断か

医療ガバナンス学会 (2012年3月10日 06:00)


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日本記者クラブ会員
石岡 荘十
2012年3月10日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


天皇陛下の心臓手術の執刀医として、東京大学が順天堂大学の天野篤教授を指名したことについて、評価が分かれている。

そのひとつは、メルマガ「頂門の一針」(主宰:渡部亮次郎 12・2・25)に掲載された広島県の外科医川上恭司氏の「 陛下の心臓執刀医に天野氏を選んだ英断」だ。その骨子は、「特に今の時代、人の命より党利党略を優先する傾向の強い時代にあっては、実力ナンバーワンでは あるがアウトサイダーの一人である天野氏が代表として選ばれた事は奇跡的でさえある。腐敗した社会に比べ、心臓外科はまだ健全であったのだ。(中略)。こ の決定に携わった(東大の)方々の英断を称えたい」というものだ。

もうひとつの評価は、木曾一誠医師(栃木県・介護老人保健施設しらさぎ荘 慶應大学卒・心臓血管外科医)から筆者に寄せられた次のような見方だ。「今は安 全にどこでもできる手術である冠動脈バイパス術(予定手術)を、(東大と順天堂大学が)チームを組む必要など医学的にはない。極めて異例なことと言わざる を得ない。こんな簡単な手術で、東大の心臓外科の顔は丸つぶれと見るのが普通に思えるのだが。(最初の)主治医は東大の循環器内科で、検討会(カンファレ ンス)で外科的治療を行うことになった。しかし、東大の心臓外科は信用できない。普通は他の施設に(患者を)紹介しているが、相手が天皇陛下なのでよそへ は回せない。苦肉の策として、執刀医のみ天野先生におねがいした。(中略)執刀医は単なる技術者として呼ばれたことになる」手術の成否を握る執刀医を一私 立大学の外科医に頼んだ、つまり”外注”したのは、東大の心臓外科に国内最高のVIPの手術を、自信を持って任せる執刀医がいないと判断した挙句の苦肉の 選択だったのでは、という意見である。

川上氏は「興生総合病院」(広島県三原市・広島大学卒)の冠動脈バイパス手術などを専門とする心臓外科医だが、同じ心臓外科医の間でも、微妙に評価が分か れている。しかし、その一方で両氏に共通しているのは、誇り高き東京大学が、実は、世間がいうように、国内最高の医療機関ではなく、自前では外科医を賄え ない弱みを持っており、在野の人材に膝を屈したという点だろう。両氏とも、東大が面子にこだわらずその分野のベストドクターを選んだその判断が「異例」で あり「奇跡的」だったと言っているのだ。

木曾医師は執刀医を”外注”した経緯について「東大に限らず多くの施設では冷静な内科系の医師は、循環器内科で診断して外科的治療が適当と決めたら同じ大 学、病院に心臓血管外科があっても、他の施設に紹介したほうがベターと考えた場合は、躊躇なく紹介状を書きます」と述べ、その上で「東大の英断はたたえた いと思います」と評価している。

東京大学からただ1人手術室で立ち会った小野稔教授は、今回の天皇手術では天野医師を手伝う一助手に過ぎなかったが、天皇の主治医という報道で、辛うじて面子を保った。「名を捨てて実をとった」ということだろう。

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