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Vol.431 喉頭狭窄の治療に対する日本の現状

医療ガバナンス学会 (2012年3月12日 06:00)


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スイス・ヴォー州立大学病院耳鼻咽喉科
山本 一道
2012年3月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


私は1995年大学を卒業後呼吸器外科として研修を開始し、一貫して気道再建というものに興味を持って来ました。2001年から2005年までスペインのバレンシア大学病院胸部外科に臨床留学をする機会をもち、ここで胸部外科一般の修練に加え、声門下狭窄をはじめとする喉頭狭窄に対する外科的治療を学びま した。2005年に帰国し、国内でも屈指の症例数を誇る施設で働く機会をもち、ここで成人声門下狭窄の対する外科治療を始めました。

喉頭狭窄の治療の特殊性は、耳鼻咽喉科の範囲とされる喉頭と、胸部外科の範疇とされる気管の双方にまたがった病変のため双方ともに充分な知識を持つ医師の 不在により、治療者のpreferenceにより治療が選択されるところにあります。また、QOLの低下はともかく気管切開を置けば当面生命に直結しないため、充分な根治治療を行われないことも多く見かけられます。また、悪性疾患に対する抗がん剤、内視鏡手術に対する手術器機のようないいわゆる「金になる」側面がなく、治療者の技術1つで治療に当たるため、当然のことながら経済の法則により充分な関心が集まりません。それは日本においては喉頭気管吻合に 対する手術点数も設定されていないところにも見て取れます。

大まかに言って、喉頭狭窄に対する治療には(1)病巣部切除を伴う喉頭気管切除・吻合(2)病巣部を残したまま喉頭気管を切開・開大する喉頭形成(3) レーザー切除や拡張術を行う内視鏡治療、に大別されます。以前行ったメタアナリシス[1]では、それぞれにおいて妥当な適応で行われれば、喉頭気管吻合がもっとも奏効率がよく、病変の状態により喉頭形成や内視鏡治療が有効である、という結論を得ました。現状では国内で専門的に喉頭気管吻合を行っているところはなく、一部喉頭を専門とする耳鼻咽喉科医が喉頭形成を行っている他は、「自分のできる範囲のこと」として内視鏡による治療が行われていますが、知識欠如により良性狭窄には禁忌とされるステント留置などが平然と行われているようなことが多々見受けられます。

喉頭気管吻合は、1970年代にマサチューセッツ総合病院のGrillo、トロント総合病院のPearson、フランス・ボルドーのCouraudという三人の胸部外科医によってほぼ確立され、現在に至るまでほとんど進歩はありません。またこの三人の引退以降はそれぞれの施設もアクティビティが落ちてお り、非常に優れた治療であるにも関わらず世界でもほとんど普及が進んでおらず、アジアにおいては現在に至るまで一定数以上の治療を行う施設そのものが存在 しません。

2005年の帰国以降、2011年までの6年間に輪状軟骨全摘や輪状軟骨後壁縦切開などを併用した非定型も含め6例の喉頭気管吻合を行いましたが、診療報 酬も存在せず「輪状軟骨を触ってはいけない」という耳鼻咽喉科医の強い信念もあり、普及には大きな壁が存在する現実に直面しています。また、成人に比べ術 前後の管理が難しいとされる小児疾患の壊滅的な状況を見るに専門的な研修が必要と考え、小児気道狭窄に対する喉頭気管吻合を確立したスイスの Philippe Monnierにお願いし、昨年末より同耳鼻咽喉科奨学生枠研修医として小児気道狭窄を中心に臨床研修および、臨床研究を行っています。

同国で研修をするに辺り、専門が耳鼻咽喉科でないため国費留学か国際学会奨学生として来るように言われたため、2009年に医局を辞し後ろ盾がない自分と しては不可能かと考えましたが、現在までの業績に加え胸部外科における喉頭気管吻合の更なる発展を希望する点を評価いただきヨーロッパ胸部心臓外科学会 (EACTS)の2011年度学会賞を授与され、同学会奨学生としていわばヨーロッパ胸部外科医を代表して耳鼻咽喉科に修練に行くという非常に責任の重い 役割をいただき現在に至っております。

小児症例の特殊性は、気道内径の絶対値が小さいことによる術後管理の難しさ、他臓器奇形の合併を伴う先天性気道狭窄、声門上狭窄の頻度が高いことによる治 療戦略の難しさなど、他専門分野との緊密な連携を必要とするこの疾患だけで1つの専門科目を必要とするほどの複雑性にあります。当科は耳鼻咽喉科のため、 喉頭気管吻合に偏ることなく、状態に応じて喉頭形成や内視鏡治療も頻雑に行われており、これは世界でも類をみません。この三種類の治療をすべて行う稀有な存在の責務として現在はその治療アルゴリズムを確立するための臨床研究を研修に加えて行っています。まさに世界最高の施設であると痛感するとともに、これを実践するためには公的なコンセンサスなしでは不可能であり、組織が硬直化し改善するつもりもなさそうな日本では実現不可能だと考えています。

日本では、医局を辞すとほぼ犯罪扱いであり、以上のような内容がどうのという会話まで到達することはなく、病院側の自己規制により仕事そのものを見つけることも難しい現状ではまだ当面日本の患者がこれらの治療の恩恵にあずかる日は遠いと感じています。

こういう意味で喉頭狭窄の治療はひとつの日本の医療の抱える問題の縮図であり、喉頭狭窄に関わらず多くの病気において患者が治療を受けられず放置されていると想像され、医療システムの問題が治療そのものに直結するという問題点を感じます。医療ツーリズムなどと海外の医療を知らない人が日本の現状を正しく評 価できず、ハードやソフトを整備することもなく砂上に楼閣を描いているうちは解決しない問題だと痛感しています。

<文献>
1. Yamamoto K, Kojima F, Tomiyama K, Nakamura T, Hayashino Y.
Meta-analysis of therapeutic procedures for acquired subglottic stenosis in adults. Ann Thorac Surg. 2011 Jun;91(6):1747-53.

【略歴】山本 一道
1995年京都大学医学部卒。2011年12月より現職。

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