医療ガバナンス学会 (2012年3月22日 06:43)
2. 公共の福祉と人権の利益衡量がなされていない
人権を制限するには、公共の福祉と人権の間で利益衡量を行わなければなりません。『立憲主義と日本国憲法』(高橋和之、有斐閣)によれば、通常、この利益 衡量は目的・手段審査という思考の枠組みで行われます。人権を制限する合理的理由があるかどうか検討しなければいけないのです。インフルエンザに対する検 疫は、科学的合理性がありません。
3. 2009年の新型インフルエンザ騒動
2009年のインフルエンザ騒動では、当初からWHOの専門家は、「封じ込めは不可能であり、検疫は有用ではない」と何度も指摘していました。あえて人権制限を行うべき合理的理由はなかったのに、日本では検疫により人権が侵害されました。
行政が不適切な事務連絡を連発したにもかかわらず、医師は適切に対応したと思います。具体例を挙げると、厚労省は、確定診断のための検査を海外渡航者に限定していました。日本における新型インフルエンザを最初に発見したのは、この指示に抵抗して検査を実施した神戸の開業医でした。
4. 行政が法案を通すため策を弄した
平成24年、1月にパブコメで公開された文書量は、わずか2ページでした。 3月9日に国会提出された新型インフル法律案は、147ページ。政府は国民に対して、膨大な量の情報(人権問題等)を隠していました。
3月は、日本医師会と日本弁護士会が共に会長選挙で動けません。この時期に法案を大慌てで通そうとしています。
5. 新型インフルエンザ特措法案は警察主導
厚労省の法令事務官がしり込みしたものを、伊藤哲朗前内閣危機管理監(元警視総監)が、震災対応より、本法案に熱心に取り組み、法制化を強引に進めたと情 報が寄せられています。現在の担当者の杉本孝内閣参事官も、警察庁出身です。医療についての知識を持たない警察が、インフルエンザ対応の立法を主導することは、文明国ではあり得ないことです。
6. 慎重審議は今からでも遅くない
私は、何名かの医師免許を持つ議員と意見交換をしました。多くは反対意見を持っていましたが、手続きが進んでおり今更覆せないと声を揃えました。しかし、 この法案は、日本国憲法と医師の倫理規範であるジュネーブ宣言に違反する可能性が高いのです。前述の、公共の福祉と人権の間での利益衡量が十分になされていません。議論が尽くされていません。
行政の言いなりになるのならば、国会の存在意義が疑われます。各政党の政策責任者は、歴史に汚名を残すことになります。憲法に抵触する可能性があるとすれば、踏みとどまって議論を尽くすべきです。
参考文献
1)井上清成:「新型インフルエンザ対策のための法制のたたき台」に対する意見 -医師への従事命令や違反への罰則は不要-. MRIC by 医療ガバナンス学会Vol. 386, 2012年1月30日.http://medg.jp/mt/2012/01/vol386.html#more
2)小松秀樹:インフルエンザ特措法は社会を破壊する. MRIC by 医療ガバナンス学会Vol. 435, 2012年3月16日.http://medg.jp/mt/2012/03/vol435.html#more
3)小松秀樹:新型インフルエンザに厚労省がうまく対応できない理由.MRIC by 医療ガバナンス学会Vol. 129, 2009年6月5日. http://medg.jp/mt/2009/06/-vol-129.html#more
4)小松秀樹:「岡っ引」日本医師会.MRIC by 医療ガバナンス学会Vol. 33, 2010年2月2日.http://medg.jp/mt/2010/02/-vol-33-1.html#more