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Vol.441  郷に入っても郷に従わず その2 

医療ガバナンス学会 (2012年3月23日 06:00)


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ハーバード大学リサーチフェロー
大西 睦子
2012年3月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


前回のコラムに引き続き、みなさんと食と健康に関して考えていきたいと思います。今回のトピックは甘味料です。なぜ私が甘味料に興味をもったかといいます と、アメリカの多くの飲食物に表記されている高フルクトース・コーンシロップ(high-fructose corn syrup;HFCS)に興味を感じたからです。現在アメリカの甘味料の半分以上は、このHFCSを使用しています。そのHFCSが肥満の原因と大問題に なっているのです。どうして大問題になっているのでしょうか?日本は関係がないのでしょうか?

さて次のメニューで、あなたが甘い飲み物を選ぶなら、どれにしますか?
1)コーラ
2)砂糖入りコーヒー
3)オレンジジュース
4)蜂蜜入り紅茶
5)黒糖ミルク
6)ダイエットコーラ
7)ステビアドリンク

1)から7)の飲み物は、すべて異なる甘味料です。リスト1)から5)は、天然の植物などから濃縮・精製された天然甘味料、6)7)は、化学的操作で生成された人口甘味料です。

さて、天然甘味料を理解するために、まず糖の最小単位であるブドウ糖(グルコース)と果糖(フルクトース)の違いを説明致します。ブドウ糖は、脳の唯一の エネルギー源であり、全身の細胞を活性化するエネルギーとなります。ブドウ糖は、ごはんやパン、麺類、イモ類などに多く含まれています。果糖は、果物や蜂 蜜に含まれており、甘みが強いです。特に冷やすと甘みが増強するため、果物を冷やして食べる習慣があります。実は、ブドウ糖と果糖は、代謝経路が全く違う のです。ブドウ糖は、小腸から吸収後、血液中に入り全身の細胞に運ばれエネルギーとして利用され、余ったブドウ糖が中性脂肪となって貯蓄されます。ところ が、果糖は100%肝臓で代謝され、肝臓で中性脂肪など転換され、脂肪として貯蓄されます。
さて、ここまで理解したところで、高フルクトース・コーンシロップ(high-fructose corn syrup;HFCS)の話に移りたいと思います。HFCSは、トウモロコシなどのでん粉を酵素処理し生産されます。この技術は日本で開発されましたが、 安く大量生産ができるため、1970年代にアメリカに導入され、アメリカでの食文化を大きく変化させました。そのHFCSが、最近の研究で、肥満、高血圧 や糖尿病などの原因とわかってきました。みなさん日本ではHFCSは使っていないので大丈夫、と勘違いしていませんか?日本ではHFCSを異性化糖(ブド ウ糖果糖液糖(果糖含有率50%未満) 果糖ブドウ糖液糖(果糖含有率50-90%)と表記されており、現在砂糖類の1/4の需要になっています。私たちが、果糖を果物や野菜から摂取(リンゴ一 個果糖約16g程度)しても、食物繊維、ビタミンやミネラルなど生命に重要な栄養素も含んでいますので、果糖のネガティブな効果は緩和されます。しかし、 清涼飲料水には異性化糖が12%程度、すなわち500ML中60gも含まれており、一気に大量の果糖を摂取することになり、肥満への近道になるのです。

さて、それぞれの飲み物に関して考えてみませんか?

1) コーラ: 前述の通り、コーラなどの炭酸飲料水やスポーツドリンクには異性化糖が含まれています。『コーラ1缶は角砂糖10個分』ではなく『コーラ 1缶は異性化糖12%』と換算しましょう。子供の肥満も深刻な問題であるアメリカでは、自動販売機の設置が禁止され、清涼飲料水が学校から消えました。
2) 砂糖入りコーヒー: コーヒーには、グラニュー糖を使用することが多いと思います。グラニュー糖は、世界で一番よく使われる砂糖です。日本でよく見 かける上白糖は、日本とアジアのごく一部でしか使用されていないのです。グラニュー糖はブドウ糖と果糖が結合した糖(ショ糖)で、サトウキビやサトウダイ コンから抽出結晶化されます。グラニュー糖は、糖類の中で一番カロリーが高く、21gあたり80kcalです。日本人は、最近10年間、平均一日50gの 砂糖を摂取しています。ちなみに欧米での平均は約140gです。平均的には、日本人の砂糖摂取量は問題がないように見えますが、異性化糖の摂取の増加など を考えると、実際の総摂取量は増加していると思います。
3) オレンジジュース: オレンジジュースなどのフルーツ飲料は、本当に体にいいのでしょうか。例えば、コップ一杯のオレンジジュースは、濃縮還元で 84 kcalで、コーラに匹敵します。さらにオレンジジュースに含まれる糖の種類はブドウ糖:果糖:ショ糖=1:2:2 で、果糖の割合か高くなっています。ただしオレンジジュースにはビタミン、ミネラルなどの栄養は含まれていますので、適量の摂取をお勧めします。
4) 蜂蜜入り紅茶: 平均的は蜂蜜=ブドウ糖(35%)+果糖(38%)+水分(21%)+その他という成分になります。蜂蜜には、多くのミネラル、ビ タミンが含まれていて、上白糖やグラニュー糖が21gあたり80kcalに対して、蜂蜜27gあたりで80kcalとやや低めになっています。みなさんも 適量の蜂蜜を生活に取り入れてみませんか。
5) 黒糖ミルク: 黒糖は、サトウキビのしぼり汁を精製しないでそのまま煮詰めたもので、糖分の分離精製をしていないため、ミネラル、ビタミン等の栄養 成分が残っています。また23gあたり80kcalと少しカロリーは、ショ糖より低めです。ただし、例えばカルシウムは100g中に240mg含まれ、牛 乳1本に匹敵といっても、100gの黒糖は、糖分の取りすぎとなります。適量の黒糖の風味を楽しむことは大賛成ですが、栄養は別の食物から摂取するべきと 思います。

<私の感想>
高フルクトース・コーンシロップ(high-fructose corn syrup;HFCS)は、果物から抽出する果糖と異なり、遺伝子組み換えトウモロコシを原料にするため、安く生成できますので、企業の利益は多いと思い ます。しかし健康には全く利益はないようです。米国プリンストン大学の研究者たちは、グラニュー糖を摂取したマウスより、同量のHFCS を摂取したマウスにおいて、著明な体重増加を認めたこと報告しています。その他、多くの研究者たちが、HFCSの健康に対する害を報告しています。驚くこ とに、現在アメリカでは、65%の人々が過体重あるいは肥満に分類され、その割合は1年に1%ずつ増加し、2020年には70%になることが予想されてい ます。USA TODAYのニュースでは、2018年に肥満関連の病気に支出される医療費は、医療費全体の約21%、総額約3440億ドルになることを予想しています。 さらにニュースでは、アメリカの健康な成人ひとりに対する年間医療費が$5,855(49万円)に対して、肥満のひとは$8,315(70万円)かかるこ とを予想しています。日本人の平均年間医療費28万円と比較し、かなり高額です。しかし、アメリカ人の平均寿命は79.2歳と日本の82.7歳と比較し短 いです。安い糖分摂取で肥満になり、多額の医療費が必要になるという悪循環を変えようという運動もあります。結論としては、質の良い甘味料を適量に取ると いうことになると思います。
ところで、アスパルテームはダイエットシュガーの代表です。最近、アスパルテームがホルモンに作用し、食欲のコントロールができなくなり、肥満や糖尿病の原因となることが報告されました。次回は、人工甘味料の肥満に関する最新情報をお伝えしたいと思います。

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