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Vol.465 新型インフルエンザ等対策特別措置法案に対する意見

医療ガバナンス学会 (2012年4月20日 06:00)


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(参議院自民党・4月18日開催の政策審議会における講演レジュメ)

井上法律事務所
弁護士 井上 清成
2012年4月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


1. 慎重な審議の要請
本法案は、数々の私権制限を伴う規制行政を中核とする規制立法の側面が強いにもかかわらず、新型インフルエンザ等への対策という規制目的が包括的網羅的に 過ぎる割りには、後方支援の助成行政の側面の手当てが薄く、逆に、規制手段は強力で網羅的である。しかも、それら規制手段の立法の合理性を基礎付けるエビ デンスが薄い。よって、以下は医療に関連する分野を中心としてとりあえず述べるが、日本医学会や日本弁護士連合会など各分野の諸団体が声明を発していると おり、参議院自由民主党には全体に亘った慎重な審議を要請する。

2. 本法案に対する修正私案
(1)「総合調整」は「調整」に修正
各所に「総合調整」という用語が使われているが、この用語は高い権威をも伴う。しかし、政府レベルで国会の関与、都道府県レベルで都道府県議会の関与、市 町村レベルで市町村議会の関与のいずれもが認められていない本法案においては、「総合調整」という用語は余り適当ではない。いずれも単なる「調整」に修正 すべきである。
(2)第31条(医療等の実施の要請等)における「要請」「指示」は「協力」に修正
第31条(医療等の実施の協力等)
1項「…当該患者等に対する医療を行うよう協力を求めることができる。」
2項「…当該特定接種の実施に関し必要な協力を求めることができる。」
3項 削除
4項「要請し」を「協力を求めるときは」に修正し、「指示」を削除
5項「要請又は指示を行う」を「協力を求める」に修正
(3)第47条(医療等の確保)における法的義務を努力目標に修正
第47条(医療等の確保)
「…医療又は医薬品若しくは医療機器の製造若しくは販売を確保するため必要な措置を講じるよう努めなければならない。」
(4)第62条第2項(損失補償等)の実費弁償の基準から「要請」「指示」を削除し政令に委任
第62条(損失補償等)
「2 国及び都道府県は、患者等に対する医療等を行う医療関係者に対して、政令で定める基準に従い、その実費を弁償しなければならない。」
(5)第63条第1項(損害補償)の損害補償の基準から「要請」「指示」を削除し政令に委任
第63条(損害補償)
「都道府県は、患者等に対する医療の提供を行う医療関係者が、そのため死亡し、負傷し、若しくは疾病にかかり、又は障害の状態となったときは、政令で定め るところにより、その者又はその者の遺族若しくは被扶養者がこれらの原因によって受ける損害を補償しなければならない。」

3. 規制行政によって人権制限をするためには、規制立法の合理性を基礎づける実証的な事実が存在しなければならない。それは、抽象的な机上の論理ではなく、現実に生じた実例というエビデンスである必要がある。
(1)災害対策には規制強化よりも規制緩和が有効だった実際例―東日本大震災
東日本大震災直後より、厚生労働省は、医師法、医療法、健康保険法、薬事法などの各規制基準を、一気に緩和し、医療活動を円滑にした。
(2)総合調整の失敗例―福島第一原発事故
福島県災害対策本部救援班は、自衛隊に対する県知事の災害派遣要請の権限を盾にとって、福島第一原発事故による災害救助につき、自衛隊と福島県警の直接の 連絡を遮断し、必ず救援班を通すようにと仕切った。その結果は、救援班の連絡中継作業に間隙が生じ、双葉病院(双葉郡大熊町所在、5キロ圏内)入院患者の 救出に向かった自衛隊と、自衛隊を出迎えに行った福島県警及び病院関係者とに行き違いを生じさせてしまった。
(3)取材規制の失敗例―双葉病院・患者置去り誤報事件(真実は、ずっと医師と福島県警とが患者に寄り添っており、むしろ双葉病院が取り残された。)
福島県災害対策本部救援班が自らの連絡中継の不手際に気づかずに、「双葉病院には、病院関係者は一人も残っていなかったため、患者の状態等は一切分からな いままの救出となった」と記者発表したところ、20キロ圏内のために立ち入りできず現地取材ができない各マスコミによって、「双葉病院 患者置去り」との 大誤報が流されてしまった。
(4)指示の失敗例―寝たきり患者に対する無謀な長時間長距離搬送の指示による患者多数死亡
福島県災害対策本部救援班は、政府の避難指示に基づき、平成23年3月14日、双葉病院の寝たきり患者ら約100名に対する指示をしたが、患者の重症度も 知らずに、分散入院の情報収集もせずに、途中休憩も取らずに、230キロを12時間連続でバス搬送させた。結果として、14名の患者が死亡した。
(5)現場の医師の創意工夫の成功例―神戸市医師会、産婦人科
2009年の新型インフルエンザ騒動の折には、神戸市医師会をはじめとする郡市医師会などの現場の医師の創意工夫による活躍が際立った。むしろ、厚生労働 省が水際作戦や見当違いの指示で現場を混乱させた。特に、現場の医師の活躍として評価が高かったのは、妊婦の重症例が諸外国と比べて著しく少なかったこと である。
神戸市医師会(会長・本庄昭)では、平成24年3月27日付け「新型インフルエンザ行動計画」の中で、「新型インフルエンザに対応しつつ通常の診療・救急業務を維持」することを、重要な目的の一つに掲げている。

4. 本法案に補充すべき考慮要素
(1)非常時における規制緩和―国民皆の自立性・自主性に対する敬意
(2)規制・調整よりも助成が行政の役割―仕切りよりも後方支援業務の拡充を
(3)海外諸国や国際機関や海外企業との連携―海外からもワクチン株や海外製ワクチンを輸入し、ならびに情報を収集して国民に全面開示
(4)健康被害救済制度や損害補償の拡充―ワクチン副作用への全面的な無過失補償の導入や、ボランティアの医師その他の者への損害補償の拡大
(5)地域活動の尊重―地域における経済的活動(交通、商工業)や、精神的活動(取材・報道、集会)を尊重し、全面的な情報開示に基づく地域の自立性・自主性を第一義とすべき
(6)地域医療の維持―通常時でも地域医療の維持が困難な現在、パンデミックの非常時にはなおさら地域医療の崩壊の危険が高まり、新型インフルエンザ以外 の疾病の患者にしわ寄せが行くので、現場の医師同士の間での創意工夫と地域調整に任せ、行政がその邪魔をしないようにシステム設計をすべき

5. (追補)医師を死地に赴かせかねない要請・指示
本法案は、特に皆が怖がる強毒性の場合に、特定の医師に従事を要請・指示するというものであろう。しかし、たとえば致死率5%(重症率数十%)の強毒性イ ンフルエンザの場合に、医師に要請や指示をするということは、これに応じた医師(の一部)を確実なる死地に赴かせることに等しいように思われる。本法案 は、そのような医師への非人道的な処遇を想定しているのであろうか、疑問が拭えない。よって、さらなる慎重な審議を要請する。
〔4月18日の政策審議会後に一部追補・修正〕

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