医療ガバナンス学会 (2012年4月30日 06:00)
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
www.asahi.com/apital/
南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2012年4月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
そもそもホールボディーカウンターは、原発で従事できるような大人を対象にしており、小さい子供用には作られていません。当院の例で言いますと、キャンベ ラ社製ファストスキャンでは、130cmぐらいを下回ると途端に、カリウムの定量性が怪しくなります。説明書でも4歳以上は計測できますと書かれています が、大人と同じぐらいの精度で計れているようには思えません。体の大きい小学生や中学生ぐらいなら全く問題ありませんが、乳児などはとてもじゃないですが 計測できません。小さい子供に関しては、かなり大雑把にしか検出できないというのが現状です。
では、他の方法が無いのか? あります。その代表は尿検査です。しかしながら、尿検査にも大きな問題点が2つあります。1つ目は、朝の尿と夜の尿で濃さが違うということです。当然ですが、尿の濃さが倍になれば、例えばセシウムは倍の濃度で検出されます。そのときの尿の濃さに結果が左右されすぎてしまうのです。体内の放射能量と、尿中の放射能濃度が明確な比例関係に無い。計測の意味が全くない訳では決してありませんが、大雑把なスクリーニングの意味合いが強 くなります。
2つ目は尿の量です。出来れば細かく尿中のセシウム量を計測したい。と考える訳ですが、その場合ある程度の尿量(少なくとも数百cc)が必要になります。 しかしながら、これは大きな矛盾を抱えてしまっています。今困っているのは、体の小さい小児をホールボディーカウンターで計測できないことです。その体の小さい小児から、より多くの尿をためなければならないのです。体が大きくて、尿が十分ためることが出来る方の場合、尿をためられるかどうかは問題になりま せん。そのままホールボディーカウンターで計測すれば良いだけなのですから。
1歳では、20mlためるのも厳しいでしょう。実際、20mlでもきつい、10mlしか採れないが、何とか計測してほしいと頼まれたこともあります。値は出すことは出来るかもしれませんが、正確性には欠けます。
それに加えて、そもそも小さい子供は、大人より代謝速度が早いため、体内の絶対量が大人に比べて少ない傾向があります。より少ない量を計測しなければならないのに、体が小さいため、計測自体が困難になってしまうのです。
今あり得る方法は、3つです。1つ目は、上記の尿検査またはホールボディーカウンターで、ある程度大雑把ではあるが、それには目をつぶって計測を続けると いう方法です。尿検査は体内の放射能量と関連性が無く、計測はしないと発表した機関もありましたが、尿検査が大雑把だからといって全く意味が無いとは思いません。何も計らないよりはましです。
2つ目は、子供の代わりに母親を計測するという方法です。母親から内部被曝が検出されない場合、同じような生活をしている子供は、母親よりもさらに代謝が早く、食品摂取量も少ないので、放射能が検出されるとしてもさらに少ないだろうと考える方法です。一般的にはこの考え方が用いられていますが、実際の子供 を計測していないという難点があります。
3つ目は、母親と一緒にホールボディーカウンターに入ってもらう方法です。メーカーはこれを推奨しています。母親と子供を一緒に計測したものから、母親の値を引き算するというものです。当院でも何度も試しましたが、正直なところ2人一緒に計ったカリウム量と、母親のみのカリウム量が体重に見合った値として検出されるかは微妙です。とり得る一つの方法だとは思いますが、小児の放射能量が正確に計れている印象もありません。やはりこれでも大雑把になります。
4つ目は、まだ実現していませんが、小児用の特別製ホールボディーカウンターを作る方法です。レストランで出てくる,小児用の椅子のような器械が作るわけです。ウクライナの技術者は作れますと言っていましたが、まだ現実にはなっていません。
今回は、小児測定時の問題点を紹介しました。最善の方法がどれかはわかりませんが、いずれにせよ、注意しながら継続的にチェックし、少なくとも大量の内部被曝をしていないことを確認して行くことが重要と考えています。
写真は大野病院から持ってきた、富士電機製のWBCです。
去年の8月から1カ月半、2500人の子供達を計測してくれました。
*文中の写真はこちらのサイトよりご覧ください。
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https://aspara.asahi.com/blog/hamadori/entry/a7PfLKgpca