医療ガバナンス学会 (2012年4月29日 06:00)
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。
www.asahi.com/apital/
南相馬市立総合病院
非常勤内科医 坪倉 正治
2012年4月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
ですが、その二つの関係となると、単純な換算でわかるものではありません。
例えば、ある場所で空間線量を測ったところ、0.2μSv/h(1時間当たり0.2μSv)という数字が出たとします。その値から、「原発事故後どれだけ余分に自分が外部被曝しているか?」と聞かれても正確に答えることは、実はできません。
単純に「0.2μSv/h×24時間×日数」と計算すればいいのでしょうか。これは正確ではないのです。なぜなら、事故直後は0.2μSv/hより空間線量が高かったからです。
外部被ばくを今までどれほど余分にしたのかを知るには、1カ所の空間線量をもとに計算したのでは不十分です。空間線量は時間ともに変化しますし、場所を移動したりすると、高かったり、低かったりするためです。たとえば、同じ家の中でも、空間線量のばらつきは大きいのです。
こうした問題は、内部被曝検査でも起きているのです。
さてここで、○×問題をしましょう。
問. ホールボディーカウンターは実効線量(正確には、預託実効線量)をSv単位で実測するための装置である。
答えは×です。
ホールボディーカウンターは、その検査を行った際に、体内にどれほどの放射性物質が含まれているかを計測できる器械で、その単位はBqです。
言い換えると、「体内に今、どれだけのセシウムが存在するか」を計る器械です。事故直後に、どれだけ吸入していたのかを教えてくれる器械ではありません。
先ほどの空間線量の話と同じです。例えば、現在の体内に1000Bqセシウムがある場合、それが10日前に1100Bq食べてしまって、100Bq排出さ れた結果なのか、数カ月前に10000Bq食べて9000Bq排泄された結果なのかを器械は教えてくれないのです。当然、後者の方が、カラダへの影響が大 きく、Svの値が多くなります。
「いつ摂取したのか」。これを仮定して初めて、Svの値が計算できます。
事故直後ならまだしも、今現在セシウムが体内から検出される場合、2通りの可能性が考えられます。事故直後に主に吸入で摂取してしまったもの(急性被曝分)と、その後の生活で主に食品から摂取してしまっているもの(慢性被曝分)です。
今日、検査でセシウムが検出されても、昨日摂取したものなのか、事故直後の影響がまだ残っているのかを区別することは出来ません。
先日、福島県でホールボディーカウンターの計測結果が公表されました。いつも通り、1mSv以上か以下かで分けられています。ほとんどの報道も今までそのようにされてきました。
しかしながら、事故後1年経った今では、検出されたセシウムがいつ摂取したものかわからず、Sv値を正確に計算することが不可能です。実はSvの計算方法(仮定の置き方)が数種類あり、どのような仮定をおくかで、Svの値が2桁ぐらい変わってしまいます。
慢性被ばくがどれほどかを明確にするためにも、SvのみではなくBqでの検査結果を公表してほしいと思っています。
今日は南相馬市立総合病院で、東京大学の早野先生によるホールボディーカウンターの勉強会でした。いつもの早野先生節で素晴らしい勉強会でした。実は上記 の○×問題、今日の勉強会で行ったテストの中の一問でした。写真はテスト中の風景です。早野先生と同じカメラで撮影しました。
*文中の写真はこちらのサイトよりご覧ください。
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