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Vol.488 シリーズ みちのくの大地から50年通用する医療を12(最終回)

医療ガバナンス学会 (2012年5月15日 06:00)


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~医療を東北再生の柱に

ロハスメディカル2012年6月号より。

http://lohasmedical.jp/

2012年5月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


この文章は、震災で見えてきた現在の医療提供体制の弱点、これまでの医療提供で得た教訓を生かして、持続可能でより充実した医療体制を構築する方法につい てタブーなく考えていくことをめざし、『ロハス・メディカル』誌で連載してきたものの最終回です。これから病院に並ぶ、2012年6月号に掲載されていま す。
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野田佳彦首相は、1月の施政方針演説で「東京電力福島第一原発の事故との戦いは、決して終わっていません。(中略)福島の再生なくして、日本の再生はありません。(中略)国が地元と一体となって福島の再生を推進するための特別措置法案を今国会に提出します」と述べました。
ここで述べられていた福島復興再生特別措置法は終了期限を定めず3月に成立し、インフラ復旧を国が代行することや、福島県が独自に行う18歳以下の医療費 無料化を間接的に国が支援することになりました。他にも、他県の復興特区では企業で雇用した被災者の人件費の10%相当が法人税額から控除されるところ、 原発周辺地域では20%が控除されます。
また政府は、除染した土壌の中間貯蔵施設受け入れとセットで各種の放射線研究機関を整備する方針も示しており、厳しい財政事情の中、金銭面では最大限の配慮をしたと見ることができます。
しかし福島県は、彼らの復興計画で、再生可能エネルギーと並んで、医療関連産業を再生の柱として期待することを明らかにしています。医療関連産業の勃興、 医療クラスターの形成をめざすことには大賛成ですが、前回(注・『ロハス・メディカル』5月号掲載分)も述べたように医療産業を開花させるためには、研究 型医療機関を充実させることが不可欠です。県の復興計画を本当に実現させようと考えるならば、さらに細かい国の支援が必要です。

●まず医療従事者確保を
福島県では震災前に比べて4万人以上が県外へ流出したと言われ、その中には医療従事者も含まれています。福島県が昨年12月に県内で稼働中の病院を対象に行ったアンケート調査では、医師が70人、看護師が170人減りました。特に原発周辺地域で減少が目立ちます。
元々、充実していたわけではない医療提供体制が揺らいでいるのです。しかも、そこに今後は被曝対策の長期フォローの必要性という課題が上乗せされます。さらに、県が医療費の無料化を行った場合、都市部での経験から懸念されるのが、不用不急の救急受診増加とそれに伴う医療従事者の疲弊・立ち去りです。医療産 業の基盤となる研究型医療機関を充実させる以前に、日常診療のための体制を担保することが必要です。
世界的にも注目を集めている地域なので、医療従事者にとって、やり甲斐がないわけではありません。実際、南相馬市立総合病院に非常勤医として応援に入りながら市民の内部被曝検査を手掛けてメディアの注目を集めている坪倉正治医師(東京大学医科学研究所大学院)や、同病院に加わって仮設住宅への在宅医療を手掛ける原澤慶太郎医師のような存在もいます。また研究を支援する学生ボランティアも数多く入っています。
しかし恒常的な医療ということを考えた場合、疲弊しないような勤務シフトを組めるだけの人数がほぼ同時期に加わらないと、新たに加わった人も燃え尽きて抜けて行ってしまうということになりかねません。
その観点から、小松秀樹・亀田総合病院(千葉県)副院長の提案で、南相馬市立総合病院は一気に30人の医師募集を行いました。しかし実際に加わったのは4月はじめの時点で8人です。
数十人単位で医師の自発的な移動を促すような、もっと説得力のある仕掛けが必要なようです。

●医学部の創設から医療クラスターへ
南相馬市では、厚生労働省も「医療・福祉復興支援センター」を設けて、医師を確保しようとしていますが、なかなか希望者が現れず、同センターは派遣元の大学に「特命准教授」などの肩書を与えられないか要望していると言います。
このことは示唆に富みます。大学教官の肩書は、被災地に入る医師にとってインセンティブになると考えられているのです。ただし、派遣元が国立大学法人の場合は、独立行政法人化以降にポストを削減してきた経緯もあり、与えられる肩書が限定的になってしまうという難点があります。
2月末、北は岩手県宮古市から南は南相馬市まで被災3県沿岸部15市の市長が合同で、国に対して地域内に医学部を新設するよう要望書を提出しました。
被災3県には、それぞれ一つずつしか医学部がありません。地域の医療需要に応えつつ健全な競争を促すため、実は震災前から、循環器領域で地域をリードする仙台厚生病院と、資金を潤沢に持つ東北福祉大がパートナーシップを組んで、医学部新設をめざし活動を始めていました。国がゴーサインさえ出せば、すぐにで も実現可能なのです。
ちなみに福島第一原発に近い相双地区は、県庁所在地の福島市へは山越えで1時間以上かかりますが、仙台市へは2014年度に開通予定の常磐自動車道で1時 間かかりません。鉄道も福島市との間は結ばれていませんが、震災前までは仙台との間をJRが走っていました(4月現在、亘理以南はバスが代行)。
医学部が新たに設けられると、地域に競争が生まれたり、医療スタッフが養成されてくるだけに留まりません。付随して、医学部の教授や准教授といったポストが数十個単位でできます。勤務医にとっては大きな魅力なのです。
逆に大学ポストの魅力が大きいからこそ、医学部を設けると市中病院から医師が引きはがされるとの反対論も根強いのですが、新設されてから学生が全学年揃うまでに6年かかります。市中病院の体制に影響を与えないよう兼務とするなど、工夫は可能なはずです。
何より、この連載では医療提供体制が大幅な西高東低になっていることを、繰り返し紹介してきました。例えば西日本の都市部にいる医療スタッフが移動する分には、西日本はそれほど困りませんし、被災3県でも歓迎されるのではないでしょうか。
当然のことながら新たな医学部とその病院には、医療クラスターの中核としての研究型医療機関の役割も期待されます。全国から集まるチャレンジ精神に富む 人々と、既存の大学や医療機関との切磋琢磨が行われるようになることこそ、世界に冠たる医療クラスターが東北に誕生する、その第一歩となるのではないで しょうか。

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