最新記事一覧

Vol.489 福島県南相馬市・大町病院から(6)

医療ガバナンス学会 (2012年5月16日 06:00)


■ 関連タグ

南相馬市大町病院
佐藤 敏光
2012年5月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


南相馬市大町病院の佐藤です。

入院患者数は57名となりました。5月から定床が59床から70床に増えました。今までは2つの病床を1病床単位とし、3人の夜勤体制でなんとかしのいできましたが、看護師数が増えたので2病床で、それぞれに2人の夜勤を配置できるようになりました。

先月末にも1日平均の入院患者数が定床の59床を越えそうになり、主治医に退院できそうな患者さんに退院してもらうよう事務部門から指導が出されました。 5%の超過は良いのではないかとクレームをつけたら、ベッド超過が常態化してはいけないとする平成21年7月の厚生労働省医政局の書類(  http://expres.umin.jp/mric/mric.vol489.2.pdf )を持ってきました。一時的とはどのくらいかと更に聞いた ら1週間くらいではないかと答えていました。

もともとこの通達は救急患者の受け入れの際にベッド満床を理由に断らないようにと厚生労働省側の都合で始めた通則かと思われます。一方ではこの通則が悪用されないよう、常態化という言葉で増収目的に入院患者を増やすことを禁じています。

昨年3月の本院入院患者の受け入れの際に、県として受け入れを表明してくれたのは、新潟、群馬、栃木(介護施設入所者)の3県だけでした。いわき市の透析 患者については亀田総合病院や東京都も受け入れをしてくれましたが、その情報は南相馬には届きませんでした。(岐阜市民病院から患者受け入れの申し出があ りましたが、大人数は無理な上、搬送距離が長距離なため一旦断りましたが、冨田院長先生がより近い施設へと津波肺炎の患者さん1名を済生会横浜東部病院に 受け入れてもらいました。)

このような親切な受け入れを厚生労働省は金儲けと言うでしょうか。
4月29日に関越自動車道でツアーバス事故が起こりました。救命救急センターの使命だとは言え、連休初日にスタッフを集め、多くの負傷者を受け入れた前橋 日赤病院の先生方には本当に頭が下がる思いがします。昨年の我々の入院患者の受け入れの際も、オーバーベッドになっても構わないからと言って県下の病院に 受け入れを呼びかけたのも前橋日赤病院でした。

我々勤務医は入院患者が増えたからといって超過勤務手当がでるわけでも給料が増えるわけでもありません。一部の個人病院の不正防止のために法律が決められるのは理不尽と言わざるを得ません。

ただ、我々の病院のように看護師数が足らない病院では、入院患者が増えると看護師の負担が増えます。先の投稿の際にも書きましたが昨年9月6日に厚生労働 省から出た通達(看護師数、看護師の夜勤時間の2割以内の変動は認める=被災前の看護基準で入院基本料を請求できる)は、看護師の過重労働を課すものでし かないのです。国で本当に看護師の過重労働を防ぐためにベッド数を制限するのなら、入院できない患者のために在宅医療やショートステイなどの介護施設の拡 充を図るべきなのです。

4月から相双地域医療従事者確保支援センターに看護職員が派遣(非常勤)されるようになりました。4月に厚生労働省に戻られた町田先生がこの地区の病院な どを巡り、地域医療復興のためには看護師不足解消が最重要だと言うことで、実現したことです。お蔭で大町病院には国立障害者リハビリテーション病院から3 週間交代で看護師さんが来てくれるようになりました( http://expres.umin.jp/mric/mric.vol489.pdf )。中 には若い女性の看護師さんもいて、放射線のリスクも承知の上で、希望して来て下さったと伺いました。医療人とは言え、頭が下がる思いです。

この方達はボランティアではありません。国立障害者リハビリテーション病院の給料、住居の手配、往復の赴任手当など全部大町病院で賄っています。これは、 ボランティアだと長続きしない可能性があるのと、給料を支払ったほうが、営業収支が少なくなり、被災前の営業収支の差で算出される東京電力の賠償金も多く なると考えたからです(後述)。

同じように看護師不足で困っている南相馬市立病院と小野田病院は看護師派遣のオファーを断ったそうです。3週間ごとの交代が短すぎるというのが理由なよう ですが、医師にだけ考慮される県の医療復興補助金が他の職員(看護師)には考慮されていないこともあるのではないかと思われます。

今月から5名の新人?看護師が就職しました。?と書いたのは1人は以前准看で勤めていた看護師が正看として戻ってきた方であるし、他の方も双葉町や宮城県 の病院や介護施設で働いていた方が南相馬の病院で働きたいという希望で就職してくれた方達であるからです。その意味では新人ではありませんが、若い人たち ですのでこれからの大町病院を担っていく人達で、大切に育てていきたいと思っています。

一方で、避難された看護師さんの帰還は進んでいません。
5月6日にもNHKで本院の様子が報道されました。本院がNHKに取材されるようになったのは、昨年の4月10日にニュース9の大越キャスターが本院を訪 れてからですが、以来大越さんや記者の河合さんが本院のことを気にかけてくれるようになりました。今回の避難看護師に対する取材も予め了解をとってからの 取材です。患者を置いて避難してきたことに今でも自責の念から逃れないでいましたが、残った職員側から避難したことは間違っていないと伝えることは、将来 的にも大事なことかと思います。

津波のときと同じように、まず自分の命を守ることが大事です。再爆発の危機があるのに籠城を続けることは結果如何によっては自殺行為と言われたかも知れません。
今敢えて言えることは、屋内退避は3日以内にするべきだし、通勤のために被曝を強要させてはいけないということです。

実際、3月12日以降も勤務を続けたために、ホールボディカウンターでCs135,137が検出された女子職員がいます。その家族は、3月12日に新潟県に避難されていて、家族からは検出されませんでした。

今南相馬に残った病院や開業の先生方で大きな問題となっているのは、賠償金の問題です。以前の投稿にも書きましたが、営業損益についての賠償の仕組みは純 利益から給料等の費用を除いた額(粗利益)の差で支払われます。即ち被災前の粗利益が多く、被災後の粗利益が少ない方が粗利益の差が大きくなるわけで、賠 償金は多くするには被災後も職員に給料を払っていたほうが良いわけです。本院は、ワークシエアリングならぬ給料カットと僅かにあった運用資金を削りながら 困難な時期を乗り越えてきました。賠償金が入ったらカットした分を支払うと職員に説明してきました。ところが、その賠償金にも税金をかけるというのです。

元々地震多発の日本に原発を作り続けた国や東電の地震津波対策の甘さのために起こった事故です。東電で払った賠償金を国で取り返し、払えない東電の賠償金 の足しにする、お金の堂々巡りをしているだけではないでしょうか。申し訳ないとして払う賠償金なら自分で税金も払った上で渡すべきです。

本院の場合、建物や土地の借用料を支払い、僅かに残った余剰金から、医療器械の更新を行ってきました。震災前には計画があった内視鏡センター建設構想も、30年越しの麻酔器の更新も水の泡と消えてしまいました。

宮崎の口蹄疫のときは処分となった牛の営業損害には税金はかからなかったそうです。
また、避難して働いていない人には税金はかからないそうです。人間働くことが無くなると自然パチンコ等遊技場に行くようになります。いわきや南相馬のパチンコ屋が大勢の避難民で溢れている現実を国はどのように考えているのでしょうか。

以前、亀田総合病院の山田弁護士さんが賠償金計算法の理不尽さについてMRICに取り上げてくれました。仕事を続けた病院や職員が賠償が減る仕組みはどうしても納得がいきません。

今後も南相馬からの愚痴を(良いことも)、配信します。

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ